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いつものラクルテル侯爵家


 意外なことに、翌朝起きてすぐに本宅に呼び出された。

 アリスとユシスは別宅に泊まったので、二人が起きて朝食を食べる前に来い、と。

 溜息が出るかと思ったけれど、まあ、昨日一晩弟妹とゆっくりと過ごさせてくれたから気は使ってくれたのかもしれないわね。

 そう思うことにして、すぐに身支度を整え本宅に向かう。

 アリスとユシスには先に食べているように使用人たちに頼んでおくのも、忘れずに。


「おはようございます、お父様、お継母(かあ)様」


 ごくごくいつも通りに振る舞いながら、食堂に入る。

 だって通されたのが食堂なのだもの。

 つまり、自分たちは食事をしながらわたくしに対応するつもりらしい。

 まるで使用人相手のような対応で、もはや溜息も出ないわ。

 わたくしが軽く会釈すると、父がフォークを置いて困ったような顔をする。

 反対に、お継母(かあ)様は一瞬で沸騰したかのような赤い顔になり、机を叩いて立ち上がった。

 まあ、なんてはしたない。


「おはようございます、じゃないわよ! 昨日帰ってきたのなら、真っ先に報告に来るのが常識じゃないの!?」

「まあ、お継母(かあ)様。そんな大きな音と大声を出して。その上、食事中に椅子を倒すほどの勢いで立ち上がるなんて……はしたないですわ」

「ぎっ……! そんなことを言ってごまかすんじゃないわよ!」

「わたくしの帰宅報告を、なぜわたくしがお父様とお継母(かあ)様にしなければいけませんの? 手紙のやり取りもしておりませんでしたのに」

「常識の話をしているのよ!」

「わたくしとお父様、お継母(かあ)様に貴族の常識が当てはまりますの? わたくし、今し方お継母(かあ)様に貴族としてそのような大きな音や大声を出すだけでなく、食事中に立ち上がるのも恥ずかしいことですわ、と申し上げたばかりですのに」


 お父様がますます困った顔をなさる。

 どうせわたくしがいなくなったあとにお継母(かあ)様を宥めるのが大変だな、とか思っているのでしょうね。

 本当に情けがない。


「ああ言えばこう言って……! 本当に生意気ね! お前は私を母親だと思っていないでしょう!?」

「お父様、お継母(かあ)様では話になりませんわ。用件をおうかがいしてもよろしくて?」

「っっっ!」

「ああ、ロゼリア。なぜそんなにエルローラを煽るんだ。エルローラの言っていることはなにも間違っていない。なぜ帰ってきてすぐに、報告に来てくれなかったんだい?」

「まあ。わたくし先ぶれで帰りますと報告はしましたわよ? 本宅に報告に来るようにとは、言われておりませんでしたもの」


 ついでに言うとラクルテル侯爵家だけでなく、城の方にも帰宅の報告は出している。

 エルキュール殿下とヒメナ様は、どうやってでもわたくしたちに勝利宣言をしたくて待ち構えていたでしょうからわたくしたちの帰郷報告はほしがっているでしょう。

 殿下たちが動くまで多少の時間はあるはず。

 で、父や継母の方には特に用事もない。

 わたくしに対して、父や継母がなにか用事があるのならと思って聞きに来たのだけれど……特に用事はなさそうね?


「なぜそんなことを言うんだ。我々は家族だろう?」

「そうですわね。ですから先ぶれで報告はいたしましたわ」

「そうではなくて、顔を見せに来てほしいと言っているんだよ。無事を確認させてほしかった」

「ほほほ」


 思わず笑ってしまった。

 もちろん、口を手で隠して。


「アリスとユシスはすぐに会いに来てくれましたわ。わざわざ自分の使用人にわたくしが帰ってきたら別宅の使用人たちに知らせてほしい、と依頼までして。お父様はその労力をしておられないようでしたので、別に必要がないのだろうと思いましたわ」

「そ……そんなことは……」

「ねえ、お父様。わたくし、今日からそれなりに忙しくなりますの。四ヶ月も王都から離れていたので、溜まっている仕事がたくさんあるのです。用件がそれだけでしたら帰ってよろしいかしら?」


 暗に『わざわざ喧嘩するために呼び出さないてくださいませ』と伝えたのだけれど、父にも上手く伝わっていないみたい。

 不思議そうに「なにが忙しいのだ?」と聞き返される。

 思わず溜息を吐きたくなる。

 貴族でありながら、あまりにも情報が遅い。


「すでにご存じとは思いますが、ハレノ様がバミニオスを討伐しました。もう二度と、世界で瘴兵が現れることはないでしょう」

「……な……。………………は?」


 たっぷりと時間をかけて聞き返される。

 いやだわ、本当に知らなかったのですね。


「すでに同行した騎士団から王宮に報告はされておりますわ。お父様は王宮勤めですのに、なぜご存じありませんの? バミニオスが討伐されたのですから、当然城では祝いのパーティーが開催されるでしょう。そして、これは我が国だけでなく世界的にも重要な事柄。国王陛下より世界に発表されなければなりません。ハレノ様の後ろ盾となっておりますわたくしも、それなりに準備が必要なのです。当然でございましょう?」

「ま、待て、待て……! それは、本当に知らぬ……! バミニオスが討伐された、だと……!? あの召喚された聖女にそれができたというのか……!?」


 あらあら。

 お父様もハレノ様の姿を見て、ずいぶんと侮っておられたのね。

 思わずじっとりと睨めつけてしまったわ。



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