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実家からの手紙(1)


「そうだわ! 早速聖女様にわたくしの薬草菜園を見ていただきたいわ!」

「ちょっ……!? ハレノ様は長旅をしてきたのですよ! 先に休ませて差し上げてっ」

「あ、そっかー。それじゃあ、先に庭でお茶しましょう!? 自慢のハーブティーをご馳走させて!」

「お母様……っ」


 あ、あら? 手紙ではこんな強引な方ではなかったはずなのだけれど……!?

 記憶の中のお母様は、わたくしの手本となるような立派な淑女。

 約十年ぶりの再会だけれど、本当はこんな人だったの?


「だ、大丈夫ですよ、ロゼリア先生。私もロゼリア先生のお母様のお話、聞いてみたいですし」

「ですが……休養のために来ていますのに……」

「あ、そうだわ! 休養の話は実家にもしてあるのでしょう? だからだと思うけれど、ラクルテル侯爵家からロゼリアに何通か手紙が届いていたわよ。あなた宛だから、わたくしは読んでないけれど……。先にそちらを読む?」

「ラクルテル侯爵家から? ……なんだか嫌な予感しかしないのですが……」


 しかし、預かっていたということは緊急のものではないのだろう。

 使用人に持ってきてもらった手紙は三通。

 上の方が、古いものらしい。

 最初の一通目は一ヶ月前。

 二通目は二週間前。

 三通目、最新のものは一昨日届いたものだという。

 一応ソファーに座って、古いものから順に開けていく。

 その間に母はハレノ様を連れて、お庭へ行ってしまった。

 まあ、さすがに母も聖女様であるハレノ様を無碍には扱わないだろう。

 この町の人間ならまず、聖女様に無体は働かない。

 そこは信用している。

 それよりも、手紙の内容。

 一通目の内容は、父へ『ブリジット・ジヴェ様との婚約には前向きな返答を望む』というわたくしからの手紙への返事のようだった。


『ブリジット・ジヴェ様との婚約について、手続きを進めようと思う。君が前向きな婚約を望める相手と出会えたことを、父は嬉しく思うよ』


 と書いてある。

 白々しい。

 二通目を手に取る。

 使用人にペーパーナイフを借りて、封を開けて中身を取り出す。

 これは――これも父からね。

 こちらはアリス、ユシスから。

 アリスの手紙を先に読む。

 歌姫に選別されて実際に歌ってみた感想。

 そして、来月には王都の隣の大きな町でも歌ってほしいと依頼が来たと。

 目を細めて読んでしまう。

 順調に歌姫としての実績を積んでいるようで、本当によかった。

 一時はどうなるかと思ったもの。

 アリスの手紙は基本的に微笑ましい内容。

 さて、次はユシスからの手紙。

 わたくしが留守にしていた三ヶ月の間、王都で起こったことが事細かに書いてある。

 ヒメナ様が王都の歌姫を務めた次の月、アリスが歌姫に選ばれた。

 それは前の月の歌姫がほぼアリスに決まっていた状態で、エルキュール殿下がヒメナ様をねじ込んでしまったから。

 それ自体は解決したかのように見えるが、エルキュール殿下が次第に……家臣たちの目から見ても“おかしい”と感じられるようになってきたらしい。

 すべて、ヒメナ様を最優先させて、ヒメナ様が気に入らないメイドや女官は外される。

 明らかな嘘を吐いているのに、殿下だけはヒメナ様を信じて他の者の言葉を否定するという。

 わたくしとユリッシュがヒメナ様と距離を置くように、と進言をしたが、それも『なにかしら言いくるめられて、実行はされなかった』そうだ。

 ついに陛下も殿下に直接注意をされたそうだが、殿下は『この世界の事情で無理矢理彼女を拉致してきて、我々は謝罪の意味も込めて彼女を優遇するべき』と突っぱねた。

 陛下もその件については強く出られない。

 異世界からお二人の意思を無視して連れてきてしまったのは事実。

 ただ、それを言うのならこちらは生活の保証をしているし、ヒメナ様に至っては聖女ではないから命の危険のある遠征にもきておらず、城で優雅な生活をしているはずだ。

 ――わたくしが思っていた以上に、ヒメナ様は小賢しい方だったのね。

 確かに、少々甘くみすぎたかもしれない。

 さすがに王族として教育を受けてきたのだからと、信用しすぎてしまったのか。

 そんなふうには、思いたくなかったけれど……。


「いったいどうしてしまわれたの、エルキュール殿下」


 本当に、籠絡されてしまったのだろうか。

 王太子として努力してきたあなたが。

 ご自身の努力を、無にしてしまうような愚かな行いを、本当に……?

 いえ、切り替えて父からの手紙を読みましょう。

 まだ二通目。

 最新の手紙で事情が変わるかもしれない。

 最後の父からの手紙を開く。

 ブリジット様との婚約をエルキュール殿下と国王陛下と王妃様に保留にされた、と書いてある。

 つまり、要するに王家全員に『その婚約待った!』とされているらしい。

 なぜかしら? と頰に手を当てて首を傾げる。

 王家に待ったを言われる理由が思い浮かばない。

 まして、エルキュール殿下にまで。

 ユシスの手紙にはそれなりに詳しく王都の状況が書いてあると思ったのだけれど……わたくしの預かり知らないところで別の事態が動いているのかしら?

 ラクルテル侯爵家の“鴉”にはすでに動いてもらっているけれど、遠征の旅で移動しているわたくしのところに情報が届くのはどうしても時差がある。

 思ったよりも事態が進行している……?

 でも、それならば“鴉”の方が早く情報を持ってきてくれると思うのだけれど……。



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