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こんな溜息は初めて


 さすがは王宮筆頭魔法師、とでも言えばいいのか。

 そうね、自分なりに、努力はしてきたつもりだ。

 魔力量は母から受け継いだから、できることは魔力操作を徹底的に極めること。

 母が侯爵家からいなくなってから、わたくしは些細な身体強化魔法を常時使った。

 時に手、足のみに身体強化魔法を使ったり、王妃教育と同時に魔法の勉強をしたり。

 合間にエルキュール殿下やアリスやユシスに構ったり、継母の相手をしたり。

 わたくしは――そうよね……頑張ってきたわよね?

 努力をして、きたわよね?

 それを主魔児(アルグ)の才能だからと一言で片づけられていた。

 最初からわたくしの努力だと言い放ったのは、この人が初めてかもしれない。


「ジヴェ様も主魔児(アルグ)なのですよね。だからそうおっしゃれるのですね」

「ああ。だからこそ、あなたの努力のすごさがよくわかるのだ。しかもあなたは魔法の他に王妃教育も受けているのだろう? 貴族の教養も学びながら、魔法の鍛錬も同時に行うというその胆力。感嘆に値する。あなたを初めてみた時に、纏う魔力に驚嘆した。努力なくしてそこまでの魔力を纏うことはできない。世界中で、様々な才女に出会ってきたが……あなたほど洗練された女性は見たことがない」

「まあ……」


 そうか、そういえばジヴェ様は他の大陸にも行っていらしたのよね。

 色々な国の令嬢を見てきたジヴェ様にここまで言われるということは……わたくしって他の大陸の国の令嬢と比べても優秀ということよね?

 人と比べることが必ずしもいいことだとは思わないけれど、競争は人を成長させる要因の一つ。

 世界を見てきたジヴェ様にそう言っていただけるのは、本当に嬉しい。

 自分を――自分の今までを認めてもらえたようで、本当に、嬉しい。


「そこまで言っていただけるのは嬉しいですわ。ありがとうございます」

「だから俺はあなたのことをもっと知りたいと思った」

「は――」

「恋人になればあなたのことをもっと教えてもらえると思ったのだが、婚約が難しいのであれば友人となり、あなたのことをもっと教えてほしい」

「え……あ……」


 なぜ? なぜそんなにわたくしのことを知りたいなんておっしゃるの?

 今まで殿方にこれほど真摯な、熱意のこもった眼差して見つめられたことがないから、顔がだんだん熱くなってくる。

 今まで殿方にこんな目で見つめられたことがない。

 わたくしを見てくる男性の目は、殿下とユリッシュ以外、羨望や嫉妬、嫌悪、欲望。

 こんな、なんの邪気もない真摯で熱意のこもった眼差しは――。


「なぜそんなにわたくしのことを知りたいのですか?」

「女性に対して思ったことはないのだが……研究しがいがあるというか――」

「わたくしは研究対象ですか?」

「変な言い方だが、あなたのように自分の足で立っている女性は初めて見たのだ。あなたの強さは体だけではなく、身心を極限状態で鍛え上げた冒険者のようでもあり、一国の王妃のような気高さも持ち合わせ、歴戦の騎士のような強さと魔法師の練度を誇る。あなたはいったい何者だ? なにを以てそこまで、その年齢で自らを鍛え上がたのだ? 興味深い。そして非常に、その美しさに感服している。いや、まだ二回目だが――俺はあなたを、尊敬できる人物だと認識しているのだ」


 尊敬……。

 王宮の筆頭魔法師という、国で一番強い魔法師様であるジヴェ様が、わたくしを――?

 そこまで高評価をしてくださるなんて。


「なんだか過大評価すぎる気がしますわ」

「そんなことはない。俺は様々な国で色々な女性を見てきた。その上でそう言っている。あなたはあなたを作り上げてきたすべてで、今のあなたを形成している。ただの令嬢がだ。見た目だけの話をしていない。あなたのすべてが美しいのだ」

「え、ええと」


 貴族が女性を褒めるのは、社交辞令。

 でもジヴェ様の褒め言葉は、褒めるというよりも称賛だ。

 歌姫として贈られてきた称賛は歌に対するもの。

 それ自体ももちろん嬉しかったけれど、この方はわたくしの生きてきた時間も、努力もすべてひっくるめての称賛をわたくしに送ってくださっている。

 そんなこと本当に初めて。

 しかもこんな、真っ直ぐに。

 殿方にここまで真っ直ぐ、なんの裏もなく、ここまで言われては反応に困る。

 どう反応するのが正解なの?

 エルキュール殿下とは婚約こそしていたけれど、幼馴染の友人として接してきて恋人という関係ではなかったから、まったくわからない。


「そんなにたくさん、褒めていただき、ありがとうございます……ですがその……ええと……こ――このあと、ハレノ様に遠征の話をしなければなりませんので……そ、そろそろ失礼いたします、わ!」

「ああ、確かに。引き留めて申し訳ない。遠征については決まり次第連絡しよう」

「は、はい。どうぞよろしくお願いしますわ」


 棟の出入り口まで見送っていただき、城の玄関ホールに向かう。

 いつもの静かだが人の話し声に満ちた独特な喧騒。

 普段通りに、振る舞えているだろうか?

 こんなに余裕がないのは先程、殿下の失言ぶりかもしれない。

 今日はどうしたというのかしら?

 今日のわたくしは淑女の余裕がなくなりすぎではない?

 意味がまったく異なる動揺。

 こんなわたくしは知らない。

 心臓が、まだ変な速度で鳴り響いている。


「はあ……」


 溜息が出る。

 けれど、こんな心境の溜息、生まれて初めてだわ。



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