エトフォ鍾乳洞にて(1)
火山活動が活発な土地は洞窟や鍾乳洞が形成されやすいといわれている。
鍾乳洞は、地下水や雨水で浸食され神秘的な様相を呈している洞窟のことをいう。
ローゼリンデが「鍾乳洞」に関して持ち合わせている知識は、その程度だ。
『勇者伝』によれば、エトフォ鍾乳洞でサラマンダーの鱗を入手した勇者一行は、その鱗で耐熱性の高い装備を作成してガンヴァ火山の麓へと向かう流れとなっている。
サナリャの港を早朝に出発した。
「今度こそ、勇者様にお会いできるかもしれませんわ!」
マーブルに跨るローゼリンデは、いつになく張り切っている。
すっかり自分の所有物のように馴染んでいるエクスカリバーだが、これはもともと勇者の忘れ物だ。
本来の所有者に届ければ自分の役目は終わる――彼女は曇りなきサファイヤの目でそう信じている。
半日ほどで到着したエトフォ鍾乳洞は、火山の裾野にある森にぽっかりと口を開けて存在していた。
奥の方は暗くてわからないが間口は想像していたよりも大きく、マーブルでも入れそうだ。
マーブルから下りて手綱を引きながら足を踏み入れた。
熱い外気とは打って変わり、鍾乳洞の中は凍えるような寒さにブルっと体が震える。
ぐるりと内部を見回したローゼリンデは、息を呑んだ。
「これは……!」
岩石亀が何体もひっくり返っている。凍り付いて動けなくなっている亀もいる。
つまりこの寒さは、鍾乳洞本来のものだけではないということだ。
「賢者様の魔法!?」
しかも――。
「ガルーダさんから落っこちた時に失くしたロッドが、もしかすると賢者様のもとへ届いたのかしら……」
遠い目で独り言ちたローゼリンデは、ふっと息を吐いて頭を振った。
(そんなはず、ありませんわね)
勇者パーティーがすでにここを訪れたことだけは確信した。
これは紛れもなく戦闘の痕跡だ。
すでに姿がないということは、ひと足遅かった。
鍾乳洞を凍らせ岩石亀の動きを完全に止め、最奥でサラマンダーの鱗をゲットしたのだろう。
「勇者様、さすがですわ! 目的達成を最優先されたのですね!」
ローゼリンデは、岩石亀を全滅させる手間をかけず効率重視で戦ったのだと感心しながらパチパチと拍手した。
ここでもまた勇者パーティーに追い付けなかったという悔しさよりも、あっぱれ感のほうが大きい。
マーブルの「嘶き」を使えば同様の戦い方が可能かもしれない。
しかし、彼女の目的はサラマンダーの鱗だけではない。
温泉地でカピバラたちと約束したのだ。
「岩石亀被害を解決しなければ、わたくしはこの先へは進めません」
鍾乳洞の入り口付近の岩石亀は凍り付いているが、奥の暗闇では無数の亀がうごめいている気配を感じる。
しかも奥からは、水が流れるような音とともにガションガションと機械が作動しているような音まで聞こえる。
「マーブル、この音はなにかしら?」
両耳をピクピク動かしたマーブルは、しばし鍾乳洞の暗闇を見つめた後にブルルッと鼻を鳴らした。
そして歩を進める。
危険なものではない――そう言われていると確信したローゼリンデは、マーブルについて鍾乳洞の中へと入っていったのだった。




