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生首の神饌  作者: 西季幽司
第一章「生首村」
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イタコの末裔②

「振袖祭りは毎年立春の日に、今井漁港にある長福寺で行われる立春際です。今井漁港から長福寺まで旧街道沿いを夜店が延々と続くそうで、夜店を目当てに参拝客が訪れます。今井町にとって一年で最も賑やかな時期だということです」

 もとは立春祭だったものを、昭和の初めに振袖祭りと名付けた。ネーミングから振袖を着た若い女性の参拝客が増え、良縁を祈願する祭りと宣伝をするようになってから、参拝客が急増した。正月から間もない時期とあって、箪笥に仕舞い込む前に若い女性が振袖を着て訪れるのだ。

「振袖祭りで行われる青年団主催のダンス大会への協賛、要は金を無心する為に、東野正純さんは美嶽家を訪れました。そこで、急に頭が痛いと言い出した。頭痛薬をもらって暫く休んだところ、頭痛が良くなったと言うので、美嶽家の車で家まで送ってもらいました。その後、行方をくらましています」

「家に戻っていないのですか?」

「それがよく分からないのです。家に戻ったのか、家には戻らずに、また何処かに行ったのか。東野家は坂の上にあって、坂道の手前で車を降りたそうです。坂道を上る東野正純さんの姿を美嶽家の運転手と近所の主婦が目撃しています」

「不思議ですね~かき消すようにいなくなった訳だ」

「東野正純さんの失踪が例の生首事件と関連があるのか、その辺、鬼牟田先生の意見を聞いてみたいですね」

「了解。で、他に情報はないの? そうそう、美嶽の社長さん、郷土歴史家だって聞いたけど」

「美嶽社長がですか⁉それは知りませんでした。美嶽家の先々代が小麦の売買で巨利を得て、それを元手に始めたのがセメント会社だそうです。当代の社長は婿養子だそうで、奥さんは絶世の美女と評判の女性だそうです。娘さんが一人いて、これまた母親譲りの美少女だという噂です。そうそう――」

 何か思い出したようで、宮崎はにっこりとほほ笑んだ。上品な顔立ちだが、笑うと途端に野卑に見える。

「娘さん。この春に大学を卒業予定だそうですが、町の有力者の子弟たちがこぞって結婚相手に名乗りを上げているようです」

「ほほう~面白いね」

「行方不明の東野正純さんもその一人のようです」

「被害者の碇屋恭一も独身だったよね」

「港を牛耳る碇屋の長男ですから、花婿候補の一人だったかもしれませんね。ざっとこんな感じですけど、お役に立つでしょうか?」

「うん。参考になったよ。出来れば今の話、細かいところまでは覚えきれないから資料か何かにまとめてくれれば助かるのだけどね」

「ああ、それだったら、正明さんとの会話をボイスレコーダーに録音してあります。音源をコピーしてお渡しできます」

 長々と説明してくれたのだ。宮崎の手柄と言えた。「だったら最初から音源を聞かせてくれれば良かったのに――」とは言えなかった。


「音源はメールで送っておきます」と宮崎が言っていたので、席に戻ってパソコンを立ち上げてメールを開くと、藤代からメールが入っていた。


 美嶽セメントの社長、美嶽貴広(みたけたかひろ)氏に確認を取ったところ、近日中に東京に出張する用事があるそうです。是非、お会いして話をしたいと言うことです。

 こちらを出発するのは明日の午前で、明後日の午後二時からなら時間が取れるということでした。都内に宿泊予定で、できればホテルでお会いできないかと。西脇さん。ご都合、いかがですか?


 ありがたい。直接、会って話ができるということだ。美嶽社長が宿泊予定のホテル名が記されてあった。

 取材相手について調べておこうと、美嶽セメントのホームページに見に行ってみる。製品は西日本を一帯に広く販売されている。販路を関東地区へ拡大しているのだろう。資本金は一億円、山口県にはセメント会社が多いが、大手セメント会社からの出資はないようなだ。恐らく同族会社なのだろう。北九州、広島、大阪に営業所があり、年間の売上高は百五十億円、二百名以上の従業員を抱える非上場企業だった。

 早速、明後日の午後二時、ホテルを訪ねる旨、藤代に返信した。

 後は圭亮だ。テレビ出演を決めた時、退路を断つ覚悟で勤めていた商社を退職している。一時期、暇を持て余していたようだが、名前が売れたお陰で最近は忙しそうだ。雑誌のコラムの連載や企業から講演依頼が舞い込んで来ている。又、出版社より、国際経済に関する本を出さないかと打診を受けていると聞いた。

 まあ良い。忙しかろうと、引っ張り出すまでだ。どうしても都合が悪いようなら、スタッフを連れてインタビューの様子を録画させてもらいに行く。それを後で圭亮に見せれば良いし、そのまま番組で使うこともできそうだ。

 我ながら良いアイデアだと、ほくそ笑んだ。


 圭亮に夢の話をした。

 木から首を吊っている人物が文句を言っている変な夢だ。

 美嶽社長との会談のことを伝えると圭亮が飛んできた。商社を退社した時、海外駐在で蓄えた貯金で、圭亮は都内に事務所兼用の住居としてマンションを購入している。サクラ・テレビから利便の良い場所を選んでくれたので、テレビ局まで地下鉄で三十分程度だ。電話で済む話だったが、宮崎からの情報もある。来てもらえば情報交換ができそうだった。

 長い体を折りたたむようにして、何時もの会議室に現れた。エレベーターホールで買ったのだろう。また片手に缶コーヒーを持っている。コーヒー好きのくせにブラックコーヒーが苦手で、何時も甘ったるい缶コーヒーを買っている。

 打ち合わせを始める前に、雑談のつもりで夢の話をした。話を聞いた圭亮は「西脇さんはイタコの末裔ですからね」と言った。

 西脇自身は東京生まれだが、祖母は青森県の出身で、祖母の祖母がイタコだったという話を母親から聞いたことがあった。以前、そんな話を圭亮にした。

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