イタコの末裔③
「だから何です?」
「夢で、誰かが何かを伝えようとしているのかもしれませんよ」
「勘弁して下さい。僕にそんな能力はありません」
「分かりませんよ」圭亮は嬉しそうだ。
「すいません。鬼牟田先生の貴重な時間を浪費させてしまいました」
圭亮が苦笑いしながら言う。「いえ、そんな。昨日も今日も、一日、暇でした」嘘がつけない。正直な人間だ。
「夢の話はともかく――」西脇は振袖村の話を始めた。
藤代から聞いた話に宮崎から送ってもらった東野正明との会話を録音した音源データを聞いてもらった。
圭亮は目を輝かせながら話に聞き入っていた。
話が終わると「西脇さん。振袖村という閉鎖された場所に碇屋、東屋、西ノ庄という村の実力者ですか。そして、殺されたのは碇屋家の跡取り息子、これはもう金田一耕助の世界ですね~サタデー・ホットラインの金田一耕助としては張り切らざるを得ません。はは」
「是非、張り切って推理して下さい。先生、何か分かりましたか?」
「そうですね~」と言うので期待して答えを待ったが「全然、分かりません」と答えた。
西脇がずっこける。「何も無いのですか?」
「はい。気になることだったら、いくつかあります」
「教えて下さい。こちらで調べられるようなことなら調べてみます」
「碇屋恭一氏は食堂で食事をした際に、マゴに会ったと言っていたそうですね」
「ああ、そのこと。事件と関係があるのでしょうか?」
「分かりません。でも、例えばマコさんという女性の知人でもいるのかなと思いました」
「マコをマゴと聞き間違えたということですか?」
「タマゴと言ったのを聞き間違えたのかとも思ったのですが、タマゴに会ったりしませんからね。会ったという動詞を使ったからには人でしょう」
「じゃあ、タマコさんだった可能性がある訳ですね。他にはどうです?」
「東屋正純さんが行方不明だという話も気になりました」
「彼が犯人なのでしょうか?」
「東野正純さんが姿を消したのが、生首が発見される三日前。生首を発見したお年寄りたちは毎朝、散歩で神社にお参りをしていたと聞きました。碇屋恭一さんの死亡推定時刻が何時なのか分かりませんが、前日の早朝から生首発見当日の朝までに殺害されたと考えて間違いないでしょう。いずれにしろ、東野正純さんが失踪した後です。狭い村のようなので、身を隠すのは大変でしょう」
「と言うことは?」
「いえ、それだけです。現時点で、事件に関係あるのか無いのか分かりません」
「分からないのかいっ!~って突っ込むところでしょうけど、止めておきます。で、先生、美嶽社長との面談、大丈夫ですよね?」
「はい。万難を排して駆けつけます」
「大袈裟な。良いのですよ。忙しいなら。インタビューの様子は録画しておきますので」と西脇が言った時、「大変です!」と久美が血相を変え、ノックもせずに会議室に飛び込んで来た。
「どうした?先生と打ち合わせ中だよ」西脇がやんわりと注意する
「ごめんなさい!でも、寺井さんが直ぐに西脇さんに伝えろって。大至急だって言うものですから」
「寺井が? で、何?」
「テレビを見て下さい。私が説明するより、その方が早いと思います」
会議中なのでテレビは消してあった。久美がリモコンでテレビをつける。
――が見つかった山口県今井町の山林で本日午後、男性のものと見られる遺体が発見されました。今井町では三日前から男性が一名、行方が分からなくなっており、事件との関連性を調べる為に男性の行方を探していました。
西脇が顔色を変える。
慌ててズボンのポケットから携帯電話を取り出すと、七件の着信履歴が残っていた。藤代からの電話だった。圭亮との打ち合わせ前にマナーモードにしてあった。直ぐに折り返し電話をかけた。
「ああ、西脇さん。良かった。つかまった。大変なことになりました」
「すいません。鬼牟田先生と会議中でした。今、テレビをつけたところです」
「森で首を吊っていたのは東野正純のようです」
「誰が? どうやって遺体は発見されたのです?」
「今井町では今日、山狩りが行われていて、警察官が大勢、やって来ています。山狩りの部隊が遺体を発見したようです」
「山狩り? 東野正純が山に逃げ込んだという情報でもあったのですか?」
「いいえ。東野正純を探していた訳ではなく、碇屋恭一の胴体部分を探していて、東野正純の遺体を見つけたようです」
「ああ、そうか」
碇屋恭一の胴体部分は未だ見つかっていない。生首が発見された神社は山裾にある。当然、山中に胴体部分が遺棄された可能性が高い。胴体部分を探して、神社を中心に山狩りが行われていたのだ。
「西脇さん。東野正純が碇屋恭一を殺害し、それを苦に自殺したのでしょうか?」
「まだ分かりません」
「そうなると、この事件も一件落着ですね。不謹慎ですけど残念です。折角、こうして西脇さんと共同戦線を張ることができたのに」
藤代との共同戦線はともかく、これで鬼牟田圭亮との取材旅行は無くなりそうだ。報道局長に話をする前で良かった。
電話を切ると、圭亮が怯えた表情で「西脇さん」と名前を呼んだ。
「何です? 先生。そんな不景気な顔をして」
「気がついていないのですか? 首吊り死体ですよ?」
「どうやら首を吊ったのは東野正純のようです。やつが犯人で決まりでしょうね」
「違いますよ。ほら、西脇さんの夢。首を吊った男が何か話しかけてきたっていうやつです」
「あっ・・・」西脇は絶句するしかなかった。すっかり忘れていた。
「東野正純さんは西脇さんに何かを訴えたかったのかもしれません」
「そんな馬鹿な。変なこと言わないで下さい」
圭亮は会議の冒頭、言った言葉を繰り返した。「分かりませんよ。西脇さんはイタコの末裔なのですから」




