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生首の神饌  作者: 西季幽司
第一章「生首村」
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血塗られた伝説③

 馴れ初めを聞いてみると、プライベートは話したくないようで、妻は大学のゼミの後輩なのですと軽くいなされてしまった。

「脱線しましたね。神社の歴史というと、どうしても外せない出来事があります。今日の会談が決まってから、郷土史をおさらいしていて、今回の一連の事件との恐るべき符号に気がつきました。今日はそのことを、どうしても話さなければと思いやってきました」

「どうしても外せない出来事ですか?」

「時は源平の昔に遡ります」

「おおっ! 随分と昔の話ですね」

 歴史好きの圭亮が身を乗り出す。

「平氏一門に名を連ねていた高階経章という貴族が、平家の没落と共に兄、泰章の荘園だった西ノ庄にやって来ます。兄は悪大弐と渾名された十人力の強者でしたが、経章はあまり壮健な性質ではなかったようです。一ノ谷から屋島、そして壇ノ浦へと続く平家の都落ちに、途中でついて行けなくなり、兄の荘園に残りました。西ノ庄で兄の帰りを待つことにしました。何時の日か、平家が源氏を滅ぼし、都に凱旋する日がやってくると信じていたようです。

 そして、壇ノ浦の戦が起こります。ご存知の通り、平家はわずか一日にして滅亡してしまいます。戦後、源家による平氏の落人探しが始まりました。何時、振袖の村に源家の追及の手が伸びてくるか分かりません。当時、宝来家は甚兵衛、東屋は利右衛門、碇屋は嘉平の三人が当主を勤めていました。平氏の落人を匿っていると、源家よりどのような罰を下されるか分かりません。三人は額を寄せ合って、都の貴人をどうすれば良いか相談しました。

 実はこの三人、それぞれ胸に一物を抱えていました。

 荘園領主だった泰章は壇ノ浦の戦で平氏と共に海の藻屑と消えたはずです。宝来甚兵衛は経章さえいなくなれば荘園を我が物にできると考えました。碇屋嘉平は経章が都より連れてきた美人の奥方に懸想していました。美人の奥方を我が物にするためには経章の存在が邪魔だったのです。そしてもう一人、東屋利右衛門です。こちらは経章が都より運んできた珍しい家財を残らず渡すので、仲間に加われと甚兵衛と嘉平に言われ、二人の悪巧みに加わりました。利右衛門は奥方に付き添って来た若い婢女をもらい受けたいと条件を加えたようです。そこで――」

「そこで?」

「時は初夏、三人は暑くなって来たので、納涼の夜船を仕立てました。夕涼みでもいたしましょうと経章を誘い出します。何も知らない経章は喜んでやって来ました。夜の海の船上で、獲れたての珍味でもてなし、酒を飲ませて経章を酔いつぶしてしまいました。もともと壮健の性質ではない経章は酒が強くなかったみたいです。そして、残酷なことに、経章が寝入ると、足に錨を縛り付けて、生きたまま海に放り込んでしまったのです」

「まあ――!」

 話に聞き入っていたアシスタントの久美が悲鳴を上げた。西脇が久美を睨む。久美がばつの悪そうな顔をした。

「そして三人はそれぞれ望みの物を手に入れました。ところが、話はこれで終わらないのです。死んだと思われていた泰章が生きていたのです。壇ノ浦の戦で重傷を負って海に落ち、潮の流れに乗って何と豊後の地、今の大分県まで流されてしまっていたようです。

 泰章は生きていました。泰章は源家への復讐を誓い、当時、鉄輪と呼ばれていた別府の湯で養生し、体が回復するのを待っていました。ようよう傷が癒えた泰章は、荘園で待っている弟のことが気になりました。泰章がひょっこり振袖の里に戻って来ました。ところが、振袖の里に経章の姿はありません。

 近くにいた農民を締め上げると、経章が都から連れてきた婢女が東屋にいると言います。泰章は東屋に乗り込みました。そこで、利右衛門を捕まえると庭に連れ出しました。そして、利右衛門の首に縄を巻きつけると庭の木の枝にかけて吊り上げ、本当のことを言わないとこのまま縊り殺すと脅しました。

 利右衛門は三人の企みを白状しました。そして、命だけはお助けをと命乞いをしましたが、泰章は許さず、利右衛門をそのまま縊り殺してしまったのです」

「何と、東屋利右衛門は縊り殺されたのですね!利右衛門の子孫にあたる東野正純氏は首を吊った状態で死んでいました」

 圭亮の言葉が、静まり返った室内に響き亘った。

「正純君が自殺したことを聞いた時は驚きました。でも、まだ続きがあるのです。怒りに燃えた泰章は刀を腰に、槍を手に、今度は碇屋に攻め込みました。気の荒い漁師たちも、悪大弐の敵ではありません。あっという間に蹴散らされ、泰章は嘉平の首根っこを押さえ込みます。知らぬ存ぜぬと不敵に笑う嘉平に、あの世で経章に詫びよと言い放つと、血刀一閃、首を刎ねてしまいました」

「碇屋の子孫、恭一氏も首を刎ねられています!」

「それでも泰章の怒りは納まりませんでした。まだ宝来家の甚兵衛が残っています。嘉平の首を片手に、村を駆け、泰章は宝来家に押し入ります。嘉平の生首を片手に家に押し入ってきた泰章を見て甚兵衛は肝をつぶしました。屋敷内を逃げ回る甚兵衛を追い回すと、泰章は槍で串刺しにしてしまいました。

 復讐を果たし、振袖の里を立ち去る時、泰章は嘉平の生首を神社に供えて姿を消したと言い伝えられています。神社に嘉平の首を供えることで見事仇を討ち果たしたことを鬼籍に入った経章に知らせたかったのでしょう。あの神社、かつては振袖神社と呼ばれていましたが、以降、誰ともなく、生首神社と呼ぶようになりました」

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