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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第四章 15歳 クラース領編
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閑話/エステル・物語のヒロイン



 今日は待ちに待ったお茶会だ。


 私――エステルは、約束の部屋で深呼吸を繰り返す。


 なにせ待っているのは、正真正銘お嬢様達だ。


 きさくで優しい、男爵令嬢のレナさん。

 遠縁の親戚らしいけれど、「貴族令嬢」を体現しているシルヴィアお姉様。

 末とはいえ、王子様の婚約者であるヴィルヘルミーナ姫様。


 対して、私といえば辺境の村娘。


 皆様とても良くしてくれるけれど――やっぱり気後れしちゃう。


 きっかけは姫様が私の村に来て、おばあちゃんにお話をしたことから。

 それから、私の人生はがらりと変わる。


 「瞬間移動」なんて、特殊な魔法を覚える事から始まった。


 いつか行ってみたいと願っていた王都で、綺麗なお洋服を着て、美味しいご飯を毎日食べる。

 そんな、夢みたいな生活が待ってるなんて、思ってもみなかった。


 当然だよね。


 あくまで、それは夢。

 現実とは違う。


 それくらいは私だって、知っている。


 でも――びっくりすることに、これが現実なのだから、人生って本当分からない。


 どきどきと高鳴る胸に手を当て、再び深く深呼吸。


 今日のお茶会は、いつも忙しくしている姫様達がみんな揃う。

 私が「もっとお話してみたい」と言ったからこそ、実現したお茶会だ。


 開催してくれたのはお嬢様だけど。

 お願いした私が、みっともない真似をするわけにはいかない。


(服は……よし。

 髪もさっき鏡でチェックしてから、出来るだけゆっくり動いたから大丈夫)


 用意してくれた服は、私が着るにはもったいない程上質だ。

 うっかり汚したりしたら、その弁償に何年かかることか。


(……気をつけなくっちゃ)


 礼儀作法は、前もってレナさんにちゃんと聞いたし、覚えた。

 よほど予想外の事がない限りは、きっと大丈夫。


(――よし。行くわよ!)


 初めてのお茶会に、少々の怯えと期待を胸にドアをノック。


 すると、すぐに扉が開いてレナさんが現れた。

 柔らかく微笑んで、私を「どうぞ」と中へと招いてくれる。


「お、お邪魔します!」


 思わず、声が大きくなっちゃった。


 慌てて口元を抑えると、レナさんはくすくすと楽しげに笑う。

 そして「大丈夫ですよ」と笑って、一緒にテーブルへと進んでいく。


 すでにお姉様と姫様は席について座っていた。


「久しぶりね、エステルさん」

「は、はい。お久しぶりです、お姉様」


 ドキドキと心臓が煩い。


 本当、上品さがにじみ出てるっていうか……お姉様って感じだ。


「ほら固まってないで、座りなさいな」


 姫様が呆れたように私に言う。

 こちらはこちらで、芸術品みたいな美しさが緊張させるって気づいているのかな。


「エステルさん。こちらですよ」


 そう言って、レナさんが椅子を引いてくれたので私は座る。


(……レナさんも十分美少女だけど、こう……落ち着くなぁ)


 姫様とお姉様が輝く宝石だとしたら、レナさんは花だ。

 華美な主張はないけど、ほっとするような、側にいて欲しいような――そんな人。


「それじゃお茶会を始めましょうか。

 初めに言っておくけれど、今回のお茶会はあまり身分だとか気にしないで、気楽にね」


 笑って、私とレナさんを見て言う姫様。

 慌てて頷く私と反対に、レナさんは少し楽しそうに「わかりました」と呟いた。


「ちょっとしたショーだと思って、エステルは見てて」


 おちゃめにウィンクをして、姫様が言う。


(何をするんだろ?)


 空のグラスを四つ並べ、一つ一つにまずは氷を生み出す。

 氷と言っても、グラスよりも大きい球体だ。


 このままではお茶を入れられないし、入れたとしても飲めなさそう。


 期待に胸を膨らましつつ、姫様が何をするのかとじっと見つめる。


 私の注意が氷に向かってるのを確認するように、彼女はちらと私を見て――指をパチンと鳴らす。


「えっ!?」


 すると、氷が一瞬で細かに割れてグラスの中へと入った。

 残りのグラスの氷も、順次同じように割っていく。

 最後に紅茶を注いで――ことんと私の前に起きながら、姫様が微笑む。


「少しは面白かったかしら?」

「はいっ! すごいですっ!」


 素直に感想を告げると、姫様は嬉しそうに笑ってくれた。


「本当見事よね。それに綺麗。何度見ても楽しめるわ」

「ありがとう」


 お姉様の言葉にやっぱり嬉しそうに笑いながら、姫様は私達へグラスを置いていく。


「今のって魔法なんですか?」

「そうね。ちょっとしたコツが必要だけれど、エステルも練習すれば出来るんじゃないかしら?」


 本当かな?


(でも、姫様がそう言って、本当に瞬間移動なんて覚えたし……)


 ちょっと練習してみようかな。

 おばあちゃんに同じようにお茶を入れてあげたら、目を丸くするかも。


(うん。練習してみよ)


 心に誓いながら、お茶菓子に手を伸ばす。

 綺麗な焼き色に香ばしい匂いが漂うクッキー。


 まずは半分と口に含むと、バターの香りがふわりと広がった。


(やばい。すごく美味しい!)


 美味しくて、つい、二個三個と口に入れてから、お茶会をやっていることを思い出す。

 恐る恐る三人を伺うと、微笑ましいものを見るかのような眼で見られていた。


「あぅ。ごめんなさい……」

「いいのよ。美味しいなら用意したかいがあったわ」


 くすくすと姫様は言ってくれたけど、やっぱり私は恥ずかしい。

 せっかく行儀作法を習っておいたのに。


「でも、エステルさんの気持ちも分かるわ。

 ミーナさんのお菓子って、すごく美味しいもの。

 今回のも、貴女のお手製でしょう?」

「えぇ。

 でも今回は、レナにも手伝ってもらったの。ね? レナ」

「はい。でもほとんどお嬢様の魔法ですけれど」


 魔法ってお菓子作りにも利用出来るんだ。

 ……これは、姫様に教えを請うべきかも?


 美味しいご飯はとても大事だ。

 いろいろ終わって、村に戻ったら皆にも食べてもらいたい。


(そのためには、自分で作れるようにならないとね)


 一つ目標を抱いていると、お姉様がクッキーを一つ手に取る。

 それを上品に食べながら――なんだかちょっと意地悪な笑みを浮かべた。


「――それで、ミーナさんはどうするの?」

「どう、とは?」


 よくわからないといった様子で、姫様が首を傾げる。


「えー? 本当に分からない?」


 にやにやとした笑みを浮かべるお姉様。

 あの視線は、村で見たことがある。


 隣の家のお兄さんが、旅商人の娘さんと恋人になったのが発覚した時。

 村中のおばさんが、あんな眼をしてた。


(つまり、恋バナ?)


 俄然興味が湧いてきた。

 そっと紅茶を飲みながら、悟られないように姫様へと向ける。


 けど等の姫様は、素知らぬ顔だ。


「婚約、どうするの?」


 お姉様が切り込む。


「流れるんじゃないでしょうか。

 我が家の当主が、クーデターの首謀者なんですよ?

 いくら秘密裏にしたって……少なくとも、国王の耳に入る以上、それが当然でしょう?

 何より、その方がアンディのためになります」


 戸惑いも迷いもなく、きっぱりと言い切る姫様。

 すまし顔で言うものだから、本気なのかそれとも内心では違うのか、よく分からない。


 ちらりとレナさんを見る。

 こちらは、なんとも言えない複雑そうな顔だ。


(レナさんの場合はもっと難しいな)


 姫様が結婚を諦める事が辛いのか。

 幸せになってほしいなと、でも難しいなと複雑なのか。


(それともエリクさんの事かな?)


 彼女のお兄さんであるエリクさんが、姫様に想いを寄せているのは私も気づいてる。

 だから、きっとレナさんだって気づいてるだろう。


(うーん……難しいな)


 とはいえ、私は完全に他人だ。

 口を出す権利なんてない。クッキーでも食べて、大人しくしていよう。


「あら。結婚したくないの?」

「……」


 さらに踏み込むお姉様。

 強い。本当に強い。


 どれだけ気になっていても、普通は聞かないのに。

 身分が同等であるとか、そういう前提にしたって凄い。


「ちゃんと答えを出さないと後悔しちゃうわよ?」

「……放っておいてちょうだい」


 つん、とそっぽを向く姫様。

 でもその耳が、赤くなっているのは誰から見ても明らか。


(可愛い……っ)


 王子様やエリクさんが、姫様にメロメロになるのもよく分かる。

 普段はクールで綺麗な彼女が、こんな風に照れたりするのを見たらドキドキするのも無理はないよ。


「いいなぁ……」


 ぽつりと呟く。

 それは、誰にも聞こえなかっただろうと思ってたのに。


 姫様が私を、じとりとした眼で見る。


「言っておくけれど、他人事じゃないんだからね」


 どういう意味だろう?


「絶対エステルだって、大変になるんだから」

「え、えぇと……?」


 わけも分からず、首を傾げて周囲を見る。


 お姉様は「確かに」としみじみ頷いて。

 レナさんは私と同じようにぴんとこないようだ。


 改めて姫様を見ると、どこか確信したような笑みを浮かべている。


「そう遠くない未来、絶対私より大変な目に遭うんだからね」


 どこが予言めいた言葉に。

 私は首を傾げるしかなかった。



あとがき


 エステル は 混乱 している!


 乙女ゲーヒロインが、モテないわけがない。

 その可能性を、すぐに見抜いたシルヴィアさんは流石である。


* * *

 

 お読みいただきありがとうございました。


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