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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第四章 15歳 クラース領編
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閑話/エリク・続く道のため



 目が覚めると。

 見覚えのある――いや、毎日見上げている天井が見えた。


 ぼんやりと窓の外を見れば、太陽の位置は高く窓からでは見えない。


(まだ、昼、だな)


 なぜこんな時間に、今自分はいるのか。

 ……どうも頭の回転が遅い。


 いくらなんでも、思考が鈍すぎる。


 原因は何かと考えていると、部屋に母さんが入ってきた。

 母さんは、俺を見るなり一瞬ほっとしたような笑みを浮かべ――すぐに叱りつけるような目で見る。


「……おはよう、母さん」

「自分が何をやったかわかっているのかい?」


 厳しい口調で問われ、ようやく自分がこうしてベッドの上にいる理由を思い出す。


 以前お嬢様に提示された、雷魔法の可能性。

 それを実用可能になるようにと、いろいろと試しては訓練していたせいだ。

 今回は、どうも出力を上げすぎたらしい。


 お嬢様の側に、アーデルハイド殿がいてくれるからこそ、出来る事。

 そうでなければ、万が一に備え無茶な訓練等出来ない。


 ――とはいえ、確かこれで二回目だ。


 母さんが心配し、文句を言いたくなるのも分かる。


 バツの悪さになんと言えば困っていると、母さんが口を開く。


「起きたなら、さっさとミーナ様のお部屋に行きな。呼んでいらっしゃるよ」

「……分かった」


 待っているだろう、お嬢様の叱咤に。

 どう弁明するべきかと悩み、重い足取りで彼女の部屋へと向かった。



* * *



 にこりと微笑むお嬢様。

 とても美しい――のだろうが。


 身に纏う不機嫌さが、こちらの背筋をぞくりとさせる。

 むしろ顔立ちが美しい分、不機嫌さも相まって、凍てつく氷のようだ。


「エリク、分かっているわよね」


 当然、といった口調で彼女は言う。


 普段あまり威圧的になることのないお嬢様。

 そんな彼女が、自分の身を案じている。


 反省すべきことだ。


(……俺って奴は)


 彼女に心配されていると感じ、悪くないなどと感じるなんて。

 それこそ、ろくでもない。


 ただの疲労時や、訓練ならばともかく。

 今回は自業自得ゆえの、結果。


 本来ならば、俺は主である彼女の命令に従うべきだ。


 だが。

 今よりも強くなる為には――それも、早急に強くなる為には、必要な手段。


 お嬢様に心配していただけるのは光栄で、不謹慎にも少々嬉しい。

 けれど――


(申し訳ないが、止めるわけにはいかないんだよな)



* * *



 あの日、お嬢様は俺を連れクラース家へと向かった。

 普段ならば、理由を聞いたところだろう。


 でも、あの日はあまりに焦ったお嬢様の様子に、何も言うことなく従った。


 何も説明はなかったものの、自分を頼ってくれた事が嬉しかったからだ。

 同時に、危険な事に手を出そうとしている雰囲気を感じ、止めるべきかと悩みもした。


 クラース家に押し入り、強制的に俺に人払いさせる等、普段の彼女を考えれば絶対にすることではない。

 つまり、それほどの重要な話をするという意味だという事。


 お嬢様の安全を思えば、止めるのが正しいのだろう。


 ――彼女の強さを俺は知っている。


 それは、魔法の腕ではなく、心の強さ。


 俺が止めたところで、絶対に止まることはない。

 むしろ、一人で向かうだけだ。


 「クラース家へ連れてって」といった時の、彼女の眼差しは今でも忘れられないだろう。

 スカイブルーの眼は、強い意志を秘めていて。


 とても美しかった。

 その強い輝きを、曇らせたくないと思った。


 何より――主の願いを叶え、主の危険を排除する。

 それが護衛騎士たる自分の仕事。


 よほど無茶なことや、犯罪に関わる行為ならばともかく。

 「安全のため」とはいえ、主の意向を変更させる等、あるべきことではない。


 ――とはいえ。


 かつての誘拐事件での、己の不甲斐なさを嘆いて、新たに目標を掲げたものの。

 目標に据えた相手が悪かった。


 どれだけあがこうと、届かぬほどの高みにいる若様。


 身の丈に合わない目標は、途中で挫折するだけ。

 かといって、身の丈だけを重視して目標を掲げても、伸びはしない。


 諦めたつもりはなかった。

 けれど、いつの間にか若様という目標に対し「特別だから」「天才だから」と言い訳を自分に言い聞かせていたのかもしれない。


 そう自覚したのは、アーデルハイド殿の存在だ。


 若様以外で、俺が「今のままでは絶対に勝てない」と感じた人物。

 かつて「竜殺し」と称された女性。


 彼女の偉業や、物語は俺もよく知っている。

 幼い頃に、憧れていた。


 だから、彼女が天才であることも知っている。


 ――でも、彼女はそうは思わなかったのだろう。


 訓練の時に、そんな「諦め」を感じ取った彼女は言った。


『弱い? なら死に物狂いで強くなりゃいいだろ』


 シンプルにして、真理だ。


 才のある者に追いつきたいのなら。

 倍――いや、それこそ三倍、五倍……それでも駄目なら、十倍の努力をするしかない。


 幸いなことに、今ならばその「倍以上の努力」をするのに最適な師がいる。

 あとは己の覚悟だけだ。


 たとえ、お嬢様が殿下へと嫁ぐ日が来たとしても。

 自分は彼女の幸せを守れればいい。


 ――アーデルハイド殿にしごかれて、ようやく純粋にそう願えるようになった。


 あとはただ努力するだけ。

 多少の無茶など躊躇うことはない。



* * *



 ――なのだが。


(うーん……お嬢様に素直にそう言っても、きっと受け入れてもらえないんだろうな)


 その優しさも彼女の魅力の一つ。

 けれど、そう言って聞いてもらえるだろうか。


「自分が強くなるためにと、自分で決めた事なのですが……」

「……」


 念の為言ってみるが、やはり納得してくれないようだ。

 眉を釣り上げ、どこか拗ねたように彼女は俺を睨む。


 頬をかきつつどう伝えるべきか悩み、考える。


「エリクはもう十分強いじゃない……そんな危険なことしなくたって……」


 咎めるような響きを含む、お嬢様の言葉。


 少し前なら、彼女を心配させるよりは――と考えたかもしれない。


 だが、今は違う。

 自分が強いなどとは、欠片も考えられない。


 確かに弱くはないだろう。

 けれど、誰よりも強いわけでもない。


 ”最強”などと言った称号に興味などないが。

 それがお嬢様を守るのに、必要だというのなら。


 俺は目指すべきだし、目指したい。


「お嬢様。

 確かにきっかけは、貴女かもしれません」


 ひた、とお嬢様を見つめ、出来るだけ言葉に力を込める。


「ですが、いつかは自分で気づいた事かもしれません。

 もしかしたら、他の誰かに教えられたかもしれません」


 あくまで可能性。

 お嬢様の提案はきっかけだ。


「でも……」


 顔を曇らせ、自分を責めるように口ごもる。


(……そんな顔をしないでください)


 自分が原因で、彼女が苦しむなんて嫌だ。

 だから、出来うる限り言葉を選び、伝える努力をする。


「きっかけはなんであれ、それを選び取るのは、それぞれ個人の意思です。

 仮にお嬢様が言わなくても、きっと自分は今と同じ道を選びます」


 そう。お嬢様に言われたからではない。


 強くなれると俺が感じたから、訓練を重ねているのだ。


「確かにお嬢様の言葉は、その身分もあって、いろいろな人間に影響を与えるでしょう。

 ですが、それは決して貴女だけの責任ではありません」


 身分のある者ほど、その発言には重みがつきまとう。

 貴族である以上、多少なりと誰もがその責任を持っている。


 いや――生きている限り、きっと誰もがそうなのだろう。


 かといって、誰もが誰かの言いなりという訳ではない。

 誰だって「選んでいる」。


 従うも、従わないも自分次第。

 それが生きるという事。


「自分は強くなりたい。

 そのために必要な努力を惜しむつもりはありません」

「エリク……」


 貴女を守るために。

 貴女が幸せであるために。


 それこそ、俺の命で彼女が幸せになってくれるなら、喜んで捧げよう。


 ――きっと、そんな事を言えばお嬢様は怒るだろうけれど。


 内心苦笑しながら、傅いて彼女を見上げる。

 お嬢様は困ったような、戸惑うような――そんな顔をしていた。


 なんだかそれが嬉しくて、俺は微笑みを浮かべて口を開く。


「どうか、御身の傍に。

 貴女が望んでくれる限り、私は貴女を守り抜きます」


 ――そう。


 例えその結果、明日へと続く道が途切れようとも。

 いつか、自分の手から離れる日が来るまで――



あとがき


 エリク は 一皮 向けた!


 ただただ、全てはヴィルヘルミーナの為に。


* * *


お読みいただきありがとう御座います。

本日はもう一話、更新を予定しております。

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