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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第四章 15歳 クラース領編
58/95

45/手記



「クラースの魔法について知りたきゃ、本家の書庫を調べな。

 先祖が残した研究書があるはずさね」


 アデル婆さんはそう言った。


 だから私は、クラース家本邸に戻って、すぐに伯父さんへ話す機会を求め、彼の前に居る。


 部屋には私と伯父さんの二人だけ。

 エリクにはいつも通り、誰も入ってこないように部屋の外で見張ってもらっている。


 ――何より、この話は絶対に彼にだけは話せない。……話したくない。


「ミーナ嬢。それで話というのは?」


 いつもの穏やかな笑みを浮かべて、私を心配そうに伯父さんが言う。


 『魅了』の事を話すのは怖い。

 私の『魅了』は最強のハニートラップだ。

 野心を持ってない人間でも、野心を持ちかねない最強の手札。


 ……この人がそんな人じゃないと分かってはいる。


 でも、私の『魅了』は異性に対しのみ有効な能力だ。

 同性のシルヴィアならば、同情をしてくれるかもしれないが、この人はどうだろう。


 だが、信じてもらえないのは困る。

 かといって――嫌われて遠ざけられるのは、怖い。


 そんな気持ちが顔に出てるんだろう。

 伯父さんは心配そうな顔で、私が話すのをただじっと待ってくれている。


(えぇぃ。覚悟を決めなさいっ! 女は度胸!! 誠意を見せずに教えてもらえると思うな!!)


 心の中で自分を叱咤し、私は重い口を開いて語りだす。


 流石に『魅了』の能力そのものについて、詳細を話す訳にはいかない。

 なんで知っているんだっていう事になる。


 ただし嘘も言えない。信じてもらうための誠意を見せないといけないのだから。

 代わりに少しだけぼかすことにした。


 まずはアデル婆さんに同類と言われて、クラース家特有の固有魔法について知ったこと。


 そして、かつて会って間もなかったエリクが私に見惚れてしまったこと。

 ――誘拐事件の時、アンディが自分の血に触れて、明らかに狂ってしまったこと。


 伯父さんは私の説明をただじっと聞いてくれていた。

 驚いてはいるものの、その顔に嫌悪がない事にすごくホッとする。


「……なるほど。確かに……君は血が繋がっているし、あり得ることだね」

「お願いしますっ!! あの時、私……すごく怖かったんです!

 あのままじゃ、アンディ様が死んでしまうんじゃないかって……っ。

 だから、この魔法のことについて知りたいです。

 一族の固有魔法なんて、当主と一族でも発現した本人しか閲覧出来ない情報だとは思います。

 ですが、どうか私に見せて下さい」


 誠意と言えば土下座。

 私は日本人の心に従って、心を込めて土下座をして頭を伏せる。


 そのかいあってか、私は少々狼狽えた伯父さんから、秘密の書庫に入る許可を貰うことが出来た。



* * *



 クラース家本邸は、お城だけあって色々と隠し扉や秘密の通路があるらしい。

 秘密の書庫も、そういった場所に隠されていた。


 伯父さんが私に背を向けて、扉の解錠を行う。


 当然ながら、いるのは私と伯父さんの二人だけ。

 『魅了』の事を話してる以上、伯父さんが私を警戒してもおかしくないのに、全くしていないのはすでに影響を受けているからだろうか。


(……気をつけてるし、好意は持ってくれてるだろうけれど、男女としてのものではないよね……?)


 そんな事を考えていると、重い音が響いて扉が開いていく。


「さ、ここからは君一人で行きなさい。扉は閉めるけれど、夕食の時刻には迎えに来るから」

「はい。ありがとうございます」


 魔法道具の明かりを受け取って私が中に入ると、扉が閉まっていく。


(さぁ、気合を入れて調べ物をするわよ……っ!!)


 まずは本の分類を確認しなければならない。

 ざっとタイトルを追っていくと、普通の魔法書らしき物も複数あるようだ。

 興味はあるが、関係ないので続けて本を調べていく。


 さほど量のない書庫。

 目当ての研究書の棚を見つけるまで、さほど時間はかからなかった。


 適当に一冊手にとって読み始める。

 軽く中を確認しながら読んで、『魅了』などの固有魔法に関係がなければ次の本へ。


 読み漁っていくと、クラース家の固有魔法について色々と分かった。

 確かに『愛情』というものは色々ある。だからって、こんなに種類があるとは……。


 まずはヒロインが持っている恋愛(ラバーズ)


 これは、愛し合う二人の相互強化が出来る固有魔法だ。

 当然独り身では発動せず、片想いでも意味がない。

 ゲームでは兄貴を倒せるほどの強力なものだが、発動条件は特に書かれていない。


 発現条件は……読む限りだと、純粋にたった一人の人を愛した場合、だろうか。


 次に見つけたのは自己愛(ナルシスト)


 文字面で分かるように、これは自分のことが好きで好きでたまらない人間に発現する魔法らしい。

 また、術者を超絶強化するけれど、他者に関心を持つと効果が解けると書かれていた。


 ある意味で兄貴が発現してそうな能力だが、幸いなことにあの人は男だし、自分を愛してもいないだろう。

 ……本当に発現してなくてよかった。


 時間制限があるかもしれないが、これもかなり強力な魔法だ。


(……この本、書き殴られてるように書かれてるけれど……)


 確か、アデル婆さんは「力や情愛の方向性が自己に向いていた」と言っていた。

 つまり――これは彼女が発現した固有魔法と言うことだろうか。


(……そりゃ詳しく言いたくもないわよね……)


 彼女の逸話が本当ならば、自分最強と謳って騎士団に入団し、その後も破竹の勢いで功績を上げていた。

 それがこの固有魔法に起因しているとなると――完全に黒歴史である。


 固有魔法が消えたと言っていたし、思い出すのも嫌な過去だろう。


(むしろよく教えてくれたな……。同情してくれたのかな……?)


 同じ本の後半には信頼(フレンズ)と書かれた固有魔法が載っていた。


 この固有魔法は、深く信頼しあった仲間との相互強化。

 仲間の数が多いほど、強化倍率は高まっていくが、恋愛(ラヴァーズ)に比べると、少人数時での強化倍率は高くないとの事。


(とはいえ、たった一人の大事な人よりも、複数人対象に出来て、人数が多いほど効果も上昇するとなれば、こっちの方が強力かも)


 これが同じ本に書かれていたということは、アデル婆さんは自己愛(ナルシスト)を喪失し、信頼(フレンズ)を得たのかも。


(……本当に喪失することも、変質することもあるんだ……)


 希望を胸に私はさらに本を読み進める。


 やがて―― 一冊の本に辿り着く。

 それは私と同じ『魅了』に目覚めてしまった女性の手記。

 固有魔法名は魅了(サキュバス)


 一方的な愛を押し付け、支配する魔法。

 もともと好意を持っている者に対しては、効果が極大化していくらしい。

 副次効果として、魅了対象は強化されるとも書かれていた。


 これらは私も知っている。ゲームで設定として語られていた部分だったから。


 だが、それよりも踏み込んだ内容がこの手記には書かれている。


 特に条件による持続時間の変動等は、実際に相当数のデータを取って検証しなければ書けない。


 この手記を書いた女性は、時の権力者に便利な道具として使われ、とても苦しんでいた。

 所々、文字ににじみが見えるのは――きっと涙だろう。


 この頃の権力者と言えば、この地をかつて支配していた国の王族――つまりは、我が家のご先祖様。


(……皮肉なものね)


 長い時を経て、自分の一族から同じ能力者が出るなんて。

 しっぺ返しだろうか。――クソ親父から見れば幸運だったのかもしれないが。


(……ううん。私はあんな奴の都合のいい道具になんてならない)


 そう思いながらページを捲る。


 最後のページには、手記を書いた女性の研究ではなく”言葉”が書かれていた。


『魅了の力に苦しむ者よ。愛することを諦めないで。

 真実の愛こそが貴女を救う導なのだから』



* * *



 手記を閉じ、息を吐く。


 最後の言葉の真意は私には分からない。


(でも……)


 これだけの詳細な情報があれば、いつでも『魅了』の力を自分の意図する範囲で使う事が出来る。

 自慢じゃないが、これでも魔法には精通している方だ。ぶっつけ本番でも、これだけの情報があれば問題ない。


(この力なら……)


 あまり頼りたくない力だ。

 しかし、この力ならば最小限の被害でクーデターを阻止できるのではないだろうか。


(そうなると、必要になってくるのは効率ね)


 効率と言われて連想したのは――ラスボスとなったヴィルヘルミーナの姿。


 ラスボス化したヴィルヘルミーナの操った赤い靄の様な触手、可視化した魔力と設定集には書かれていたけれど、本当は何だったのだろう?


 あれならば、触れるだけで対象を『魅了』出来る。

 彼女みたいに暴走する気はないが、原理が解れば真似が可能かもしれない。


(確か……直前に、彼女は嫉妬に狂って血の涙を溢して――そうかっ!)


 血の涙の後、彼女のドレスは赤く染まって――黒くなった。

 それはつまり、血が酸化した事を指すのだろう。


 ならば可視化した触手とは、血液を霧状にして風と水の魔法で操っていたのではなかろうか。

 それに血液での『魅了』なら、そこまで忌避感もない。


「……真似できるかな」


 氷のナイフを生み出し、自分の人差し指をぷすりと刺す。

 ぷっくりと赤い玉が浮かんできたので、それを風と水の魔法を使って操ってみる。


「固有魔法、運命の赤い糸――なんてね」


 自嘲気味に呟きながら、実戦してみたソレは、見事成功した。

 思い通りに糸状の血が動くし、途切れることなく動かせる。


 今までの魔法鍛錬の積み重ねのお陰かも知れない。

 だが、『魅了』を封じる手段を探すために鍛錬してきたのに、効率良く使う為に役に立つというのも少々複雑だ。


(これなら、出来る)


 できるだけ穏便に。

 クーデターそのものを起こさせずに、クソ親父達をどうにかすることが。


 そう考えた瞬間、脳裏に三人の人物が浮かぶ。


 最初に『魅了』を受け、少し放心していたエリクの姿が。

 次に、自らの意志で『魅了』をし、熱に浮かされた兄貴の姿が。

 最後に、私の血で『魅了』されてしまい、願いとは裏腹に自分の命を燃やして戦うアンディの姿が。


 ――怖い。


 だが、それでも。


「……今は魅了を封じる事よりも、クーデターをなんとかすることを考える時よ」


 私は私の望む結末を手に入れる為だったなら。

 なんだって利用してやる。


 ――そう決めたのだ。



 ミーナ は 魅了能力の全容 を 知った!


 最悪の呪いでも、望む未来の為になら。


* * *


 お読み頂きありがとう御座います。

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