44/竜殺しの戦乙女
アーデルハイドは原作キャラクターだ。
――と言っても主人公パーティーに加わるようなメインキャラクターではない。
物語上、その時点ではどうしようもない格上が現れた時などに、フラリと現れ助力をする師匠ポジ的なお助けキャラである。
自身の顔を仮面で隠し、ど派手なマントで身を包み、ゴツい大剣を振り回す――プレイヤー視点で見るとその正体はバレバレなのに、何故かヒロイン達は気が付かない。
そんな――ある種のお約束的存在。それが彼女である。
そして、今私達はそのアーデルハイド大叔母様――アデル婆さんの自宅に居た。
どこにでもあるボロい農家なので、当然小さい。
なのでエリク含む護衛の皆は家の外で待機だ。
(それにしても……なんというか……)
本当にボロい。
狭い部屋。最低限しかない家具。
それのどれもが、さして品質はよろしくない。
(英雄とまで讃えられた人が、こんな場所に住んでるなんて不思議)
我ながら失礼な感想を抱いていると、シルヴィアがいつもの完璧淑女になって挨拶を始める。
「始めまして、大叔母様。わたくし、シルヴィア・フォン・クラースと申します」
「は、はじめまして。わたくしは、ヴィルヘルミーナ・フォン・アイゼンシュタインと申します。
わたくしの母が、クラース家の人間で、シルヴィアとは従姉妹となります」
慌てて私も挨拶を交わす。
しかし、お助け仮面――もとい、アデル婆さんはカラカラと笑う。
「やめとくれ。あたしゃ、ただの農民、ただのババアだよ。そんな丁寧に礼なんぞされても困る」
そう言いながら、食器棚らしき場所へと歩いて木製のカップを三つ取り出し、水瓶から水を汲んで私達の前に置く。
「茶は切らしてるから出ないよ。
まぁ、此処じゃお嬢さん方を満足させるようなもんは、そもそも手に入んないけれどね」
言って、自分の分をがぶ飲みする。
そこに優雅さの欠片もなかった。
彼女の令嬢時代ならば、クラース家は全盛期に近かったはず。
だというのにこれである。
令嬢らしさなど、微塵も残っていない。
(でもまぁ、こういう生活を続けていれば自然とこうなるのかな)
実際自分自身、もともとこんな礼儀作法がしっかり出来る人間じゃなかった。
それでも、今侯爵令嬢に相応しい動きが出来るのは、そういう生活を続けたからだ。
(――この人の場合、元々の性格という可能性も捨てきれないけれど)
「それで本家のお嬢さんが何の用だい?」
先程までと違い、射抜かれるような視線を受け、思わず身をすくませる。
(怖い。何なのこの人。どこがただのババアなんだ!!)
ババアであるのは確かだろう。
でも”ただの”ではない。絶対にない。
剣術の稽古をエリクとやってもらっているからか、それとも兄貴みたいな化物を傍で見ているからか。
私には分かる。
この人、現時点でもまだエリクよりかなり強い。
兄貴よりは弱いかもしれないが、アレは規格外としても、今でも国の頂点に立てる実力ではなかろうか。
(確かにゲームでも、兄貴には勝てない、でもすごく強いって設定だったけれどさ……!?)
未だにエリクより強いってどういうことなのか。
「はい。大叔母様を私の護衛に雇いに来ました」
怖がってる私の横で、空気を読まずにシルヴィアが微笑みながら言う。
この眼光に怯まない辺り、さすがのシルヴィアだ。そういうとこ、すごく尊敬する。私には無理。
「あたしゃ荒事からは足を洗ったんだけれどね」
「そこをなんとか」
「だいたい、あたしを護衛として必要とするとか、何に狙われているんだい?」
胡散臭そうに私達を見ながら、もう一度水を汲んで口に含む。
私とシルヴィアは、顔を見合わせてから同時に口を開いた。
「「国家転覆を企む悪の組織」」
ぶふぅ、とアデル婆さんが水を吹き出す。
「何をやらかしたんだいあんたら!?」
ちょっと驚かせて楽しかった。
とはいえ、ここからは真面目に話さなければ信用してもらえない。
私は例の魔法道具を持ち出し、さらに伯父さんに説明したようにアデル婆さんにこちらの状況を説明していく。
事情を説明していくと、伯父さん程でないけれど、どんどん疲れたような様子になっていくアデル婆さん。
「また厄介なもんに首を突っ込んで……これだからクラースの女は……」
「貴方にだけは言われたくないです」
ぼそりと呟く。
だってこの人は、女だてらに騎士となって、最後にはドラゴンの群れまで退治してるし。
それに比べたら私もシルヴィアも巻き込まれただけだ。
立ち向かおうとはしてるけれど、我々はか弱きただの一般人だし。
「……」
小さく呟いた言葉はしっかり、アデル婆さんに届いてしまっていたらしい。
「あぁん?」とガン付けられて睨まれた。まじ怖いです。
「――ん?」
「ご、ごめんなさいっ!!」
思わず謝ったけれど、アデル婆さんはそんなの気にもせず、私をじっと観察するように見る。
じろじろと見られるのは、気持ちの良いものじゃない。
「な、何か……?」
「……まさか、生きてるうちに同類と出会すとはねぇ……」
ため息を吐きながら、しみじみとした口調で言う。
「どういう意味でしょう……?」
私は別に騎士になりたいとか、英雄になりたいとか考えてはいないし、アデル婆さんほどはっちゃけてもない。
もちろん、せっかくのファンタジー世界だから、いつか世界を冒険というか、旅するのは吝かではないけれども。
「あんた、質の悪い力に目覚めてるだろう」
睨まれたのとは別の意味で、私の身体が固まる。
(……どうして)
兄貴にすらバレていないのに。
なぜ、初対面の彼女が分かるのだろう。
「な、何の話でしょうか……?」
「隠さなくたって良いよ。同類のことだからなんとなく分かるだけだしね」
(同類……?)
彼女の逸話に、異性からモテたというのはあったけれど、それは『魅了』によるものだったのだろうか。
でも、彼女には孫のエステルがいる。つまりは結婚しているのだ。
それなら『魅了』はどうなったのだろう?
結ばれた相手は廃人になってしまうはずなのに。
「クラースの女はね、情を拗らせた厄介で強力な固有魔法を発現させる事があるのさ。あたしもその一人さね」
(……だから、同類? 私と同じ『魅了』ではないと言うこと?)
それから彼女は、簡単に自分が発現してしまった魔法と、クラース家の魔法について語ってくれる。
簡単に言うと、クラース家の固有魔法は『愛情』。
ただし、それが向く方向によって効果は変わるという。
アデル婆さんの場合は、力や情愛の方向性が自己に向いていたらしい。
何故か詳しくは教えてくれなかった。
(私の場合は『愛情』を渇望して、向けて欲しいって感じなのかな。
それで、ヒロイン――エステルが持つ予定の『恋愛』のバフはクラース家の血筋由来ってことになるのかしら?
……実はクラース家って結構凄い家柄なんじゃ……)
「後天的に別の魔法に変化したり、失われる場合もあるんだけれどね。――あたしもその一人さ」
そう言って肩をすくませるアデル婆さん。
「終わったことさ」と言いたそうな彼女だけれど、私にとっては救いの言葉だ。
後天的――つまり、今後私の『魅了』は無くなるかもしれないのだから。
アデル婆さんを娶った男は剛の者。
見目はともかく、中身がアレな人なので。
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