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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第三章 15歳 デビュタント編
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閑話/激辛なデート



「お願いがあるの。一日だけ私に協力してくれない?」


 ある日のこと、シルヴィアとお茶をしていると、彼女はいきなりそう切り出してきた。


「何をですか? 出来る範囲であれば、構いませんが……」

「あのね、この部屋を涼しくしてる冷房魔法――だったかしら?

 この魔法を我が家に来て、使ってほしいの」


 近くで控えていたレナが眉をひそめるのが見える。

 そりゃそうだろう。


 シルヴィアの発言は、私に使用人のマネをしろと言っているのと同じなのだから。


「えっと……そちらの使用人では出来ないのですか?」


 彼女の実家は我が家と同じ侯爵家。

 前にアイスの作り方を教えた時には、魔法は使用人にやらせると言っていたはず。

 冷房魔法自体はそこまで難しくないので、クラース家に仕えてるレベルの魔法師が練習すれば、すぐに習得出来ると思うのだが。


「それがね……使えなかったの。

 後もうちょっとっていう感じの人は何人か居るんだけれど、長時間使ったり程よい気温にするのが難しいらしくて……」

「そういうものですか」


 昔をちょっと思い出してみる。

 私は魔法初心者だったから、最初の方はかなり苦労した記憶があった。


 だが、それが素人だからではなく、そもそも制御が難しかったという理由であれば、正規の魔法師が苦労するのは道理なのかも。


 なにせ、この世界の魔法師は意外としょぼい。

 冷静に考えれば、初期のフォルクマールが天才扱いなのだ。

 確かに最初から三種類くらいは、初級魔法が使えたけれど……それじゃ、ゴブリン狩りすらままならないだろう。


(うん。兄貴のせいで魔法の感覚狂ってるわ)


 紅茶を飲んでから苦笑する。


「――分かりました。丸一日とかだと困りますけれど、三時間位なら構いませんよ」

「本当!?」


 花が咲いたように顔をほころばせる。

 それだけでお願いを受けて良かったなと錯覚させるのだから、美少女って得だ。


 しかし、可愛いだけで終わらないのが彼女である。

 彼女はすぐに、悪巧みを企んでそうな悪い笑みを浮かべた。


「ふっふっふ。これで……うふふふ」


 何やら凄く楽しそうだが、やっぱり彼女もちょっと残念な美少女だとしみじみする。

 いや、私よりは全然良いと思うけれどね?


「そうそう、ミーナさん。

 手伝ってくれるお礼っていうと何だけれど、当日は面白いモノが見れるはずだから、楽しんでね」


 そう言って彼女は楽しそうに微笑んだ。



* * *



 クラース家は土地持ちの貴族である。

 なので我が家と同じく王都に別邸があり、シルヴィアも私と同じ様に王都暮らしをしているらしい。


 ついでにいうと、比較的近所でもある。


(仲が悪いのに近所ってのも不思議ねー)


 多分、王都の一等地という都合で近いだけだと思うが。


 ガタガタと馬車に揺られながらそんな事を考える。

 幸い、街中なのでそこまで道は酷くない。


 ぼんやりと景色を見ていると、すぐにクラース家へと辿り着く。


 この時、出迎えてくれたシルヴィアの格好が、かなり気合が入っていることに気づくべきだった。



* * *



 言われるがままに、案内された部屋を涼しくしているとシルヴィアがやってくる。


「ミーナさん、ありがとう。とっても涼しいわ」

「じゃあ、後は私はどこかで待機させてもらいますね」


 そう言って離れようとしたけれど、シルヴィアが手を掴んで止める。


「えっと……何か?」

「面白いもの見せるって言ったでしょ?」


 そういえばそんな事言っていた気がする。


「それに、出来れば私の合図に合わせて、気温を調節して欲しいの。

 ……駄目かしら?」


 本当に美少女ってずるい。

 いつもは気丈な彼女が、少し不安げにこちらを見ながらそんな事を言うのだ。


 私は気がついたら首を縦に振っていた。


(……まぁ、普段お世話になってるから、付き合うのも手伝うのも良いんだけれど……)


 先程言っていた合図の内容を二人で打ち合わせしていると、いつの間にか椅子が用意されていた。


「ここに座ってて。多分一時間位だと思うけれど、その間動かないでいられる?

 厳しいようなら他の方法にするけれど」

「一時間位なら別に大丈夫だと思います」

「なら良かった!」


 にこーと微笑み、用意された椅子に私が座ると周囲に何やら置き始める。


「えぇと……何やってるんですか?」

「これ? 魔法道具よ。簡易結界で外から中は見えなくなるし、声も聞こえなくなるわ。

 もちろん中からは声も聞こえるし、外も見えるから安心してね」

「便利ですね」


 ただ、暗殺だとかそういうのにも使えそうで怖いけれど。

 ……すぐにそういう発想が浮かぶ自分が一番物騒な気もする。


「そうでもないわ。

 起動中ずっと魔力を消費するから、そんなに長い時間は使えないし、見えなくなって音が聞こえなくなるだけで、防御力があるわけじゃないし。

 これは、護身用に使う道具なの。襲われた時に、身を隠すために使うのが一般的ね」

「なるほどー……あれ、私の魔力が切れたら、私の姿見えるのでは?」

「大丈夫よ。貴女の魔力ってもはやおかしいレベルだから!」


 とてもいい笑顔で言い切られた。

 そういうのは兄貴に言って下さい。


 だが、実際に起動された時、思ったより魔力消費が低かったので、規格外って証明されてしまった。


 自覚がない訳ではないが、少し悲しい。



* * *



「さぁ、こちらです」


 シルヴィアの声が聞こえてきたのは、待機して用意されたお菓子のどれから食べようかと悩んでる時だった。


(そういえば、面白いものって結局なんだろう……?)


 そんな事を考えつつ、声のする方を見ると――兄貴が居た。


(ちょ、ど、どゆこと……?)


 兄貴がシルヴィアと一緒に居るのは、さほどおかしくはない。

 一応婚約者だし、理由がなければ兄貴も誘いを断ることもないだろう。


 だが、なぜそこに私が居るのか。


(シルヴィアの言ってた、面白いものって、兄貴と関係してるのかな)


 観察してると、兄貴と目が合った気がした。


(見えないって話じゃなかったの!?)


 頬が引きつる。

 兄貴なら魔法道具の効果など、簡単に見抜けるかもしれない。


 しかし特にリアクションもなく、兄貴はシルヴィアと共に、私から少し離れたテーブルについた。


 しばらく二人が歓談していると、やがて料理が運ばれてくる。

 通りすがりにちらりと見た感じ――赤いモノが多かったような……?


 ことん、ことんとテーブルに置かれていく料理。


 兄貴の眉が少しだけ動く。

 それを見て、シルヴィアは不敵な笑みを浮かべた。


「刺激的な物を求めていると聞きましたので、今日はレオンハルトさんの希望に添えようと思いましたの」


 「食えるものなら食ってみろ」という副音声が聞こえた気がする。


 兄貴はその言葉の意味を理解し――ふっと笑う。

 そしてカトラリーを使い、優雅に口に運んで咀嚼した。


「辛いものは苦手だった――が、慣れれば意外といけるね」

「でしょう?」


 兄貴の対応に、ショックを受けないはずがない。

 やり込めるために激辛料理を用意して、あげく私に「面白いものを見せる」と言ったのだ。


 前回の二の舞になる姿を期待してのサプライズ。


 だというのに、あっさりと克服した兄貴に対して、にこやかに返事をした彼女を褒めてあげたい。

 私だったら絶対叫ぶ。


 割と笑顔が硬いから、驚いてはいるみたいだけれど。


「苦手なものは克服するべきだ、というのが私の考えでね。あれから少しずつ慣らしたのさ」

「素晴らしい考えだと思います」


 兄貴が挑発すれば、シルヴィアも微笑みながら闘志を燃やす。


(冷房効きすぎたかな……)


 薄ら寒い交流を見ていて、肌寒くなってきた。


(おかしい……。あの二人は婚約者同士で、これはデートと見て良いはずなのに……)


 まずはオードブルをクリアする兄貴。

 事実、そこまで辛くはないようだ。……結構赤かったけれど。


 口元を拭きながら、兄貴はシルヴィアに問いかける。


「ところで、今日は例のアレは使われているのかな?」


 例のアレとは、この間のハバネロ的な調味料の事だろう。


「もちろん。メインディッシュの肉料理は、アレに数日漬け込んで味を染み込ませた、最高の一品ですのよ」

「ほお、それは楽しみだ」


 想像するだけで辛そう。

 だというのに、兄貴は本気で楽しみにしてるように見えるから恐ろしい。


(なんだろね、この二人で楽しむ激辛チキンレース的な状況)


 一番謎なのは、それを見守ってる私だ。


 やがて、匂いを嗅ぐだけで、汗が滴り落ちるようなグツグツ煮えたぎるスープが運ばれてきた。

 ちなみに実際に煮えているので、比喩ではない。石の器を熱してスープを入れてるのだろう。


(……匂いだけで目がしぱしぱしてきた……)


 このままだと危険と判断して、自分の周囲だけ風の魔法で気流を調節する。


 だが、兄貴はそのままのようだ。

 普段なら魔法を使ってるだろうに、使わないのは珍しく”挑戦”する側だから?


 どんなモンスターを目の前にしても、物凄く強いエリクを相手にしても、汗一つかかない兄貴が、滝のような汗をかいている。


(すげぇレア……)


「一度にこれほどの汗を流したのは、生まれて初めてかもしれない」


 感想がそれでいいのか。

 というか、食べる前からそれってあらゆる意味でやばくない?


(牛乳飲んで胃に膜を作るのが、激辛料理を食べる前の胃荒れ対策と聞いた事があるけれど……)


 二人共食前酒しか飲んでなかった気がする。


「そうですか。これ、血行が良くなりますからね」


 そう言ってシルヴィアは左頬に手を添えて微笑む。


 あれは合図だ。

 もっと気温を下げろという事だろう。


(いや、涼しくしても汗の出る量位しか、変わらないと思うんだけれどな……)


 辛いものは辛いもののままだろう。


 下手に寒くすると、汗のせいで風邪を引くだけの気がするが、一応頼まれた仕事である。

 要望通り気持ち気温を下げていく。


 二人共スープを一口含んでは、お互いに微笑んで牽制する。


(完璧にチキンレース……)


 飲み終わるのが先か、相手がギブアップするのが先か。


「次は妹や彼女の友人も招いての食事会も、良いかもしれないね」

「あぁ、良いですね。殿下のお友達も招いても楽しそうです」


(止めろ。

 お前らのチキンレースに私達を巻き込むな!!)


 叫びたくなるが、ぐっと我慢する。


(それにしても……兄貴、私がいるの気づいてたのに、もはやシルヴィアしか見てないわね)


 ある意味で、仲良くなろうというシルヴィアの目的は達成されているだろう。


(っていうかこれって……惚気けられてない?)


 仲の良いところを見せつけられてるとも、取れるのではなかろうか。


 ため息を付いて、用意されたお菓子を口にする。

 甘い香りと味が口の中に広がっていく。


(まったく。人様にデートを見せつけないで欲しいわね)


 どう考えても激辛な光景なのに、妙に甘みを感じる辺り、あの二人は割とお似合いかもしれない。



シルヴィア は 微笑んで いる!

レオンハルト は 微笑んで いる!

ミーナ は 恐れ慄いて いる!


激辛料理は用法用量を守り、ちゃんと対策してから食べましょう。


* * *

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