↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第三章 15歳 デビュタント編
45/95

39/決断



「お嬢様ご機嫌ですね」

「えぇ、最近ずっと悩んでたことが解決……はともかく。

 ちょっと前向きに吹っ切れたの」

「それは良かったです」


 上機嫌でエリクに答えると、彼も嬉しそうに微笑んでくれる。

 でも、その横で歩くレナは文句を言いたそうだ。


「――それは良い事ですけれど節度は必要です。

 特に最近食が細かったのに、あんなにたくさんお菓子を食べて……」

「うっ。だって、その……甘い物は幸せな気持ちになれるでしょう?」


 ジト目で言ってくるレナに、視線を逸しながら言うと彼女は困ったように笑う。


「もぅ……。今日だけですからね? 太っちゃいますよ」

「はぁい」


 苦笑して、二人に別れを告げて私は部屋に入る。

 エリクは扉の前でそのまま護衛のお仕事。レナは隣の侍女の控室にだ。


(さて、机の上ちゃんと片付けないとね)


 さっきはテンションが上がりすぎて、勢いのままに行動してしまった。

 叩きつけたノートもそのままだし、ご都合主義全開の物語も放置しっぱなしである。


 机のペンとメモ用紙を片付けて、後は設定メモノートを回収――と思ったところで違和感を感じた。


 ノートがない。

 しかし、叩きつけたのは確かに机の近くだ。


 そしてこの違和感。

 嫌な予感に周囲を見回し――ソファを見る。

 よくよく目を凝らすと、そこには寛ぎながら例のノートを読む兄貴の姿。


「あ……あ……あぁぁぁぁ!?」


 思わず指を指して、声にならない声を上げると兄貴は顔を上げた。


「な、ななんでそれを……!!」

「そこに落ちていたから。なかなか面白い内容だね。

 それと大きな声を上げるのははしたないよ」


 そう言って指をパチンと鳴らすが、視線はノートに落とされたまま。

 良く分からないが、先程のようにエリクが声を掛けてこない辺り、音が響かないように細工をしたのだろう。


 だが、今はそんな事どうだって良い。


 人の部屋に入るな!

 勝手に人様のノートを読むな!!


 叫びたくなったが、それより何よりすべき事がある。


「読んじゃ駄目っ!!」


 優雅さをかなぐり捨てて、兄貴のもとへ近寄りノートを奪う。

 特に抵抗されることもなく、ノートは回収できた。


「まだ全部読んでなかったのに」

「何を残念そうにしてるんですか!?

 いいですか、ここは私の部屋で、これは私の私物です!!

 勝手に入るのも、人のノートを読むのも非常識ですよ!?」


 ノートを抱きかかえ、思いつくままに叫ぶ。


 どれくらい読まれたのだろうか。

 万が一を考え、ストーリーの部分はある程度、名前を置き換えたりイニシャルにしてぼかしてある。

 だが、後半のキャラ設定の部分はそのままなので、ノートを全部読まれていたらきっと内容を解読出来ているだろう。


 背中を嫌な汗が流れる。


「実に興味深い内容だったよ」

「小説! 小説の設定ですからね!?」


 満足そうに微笑む兄貴に、ツッコミを入れる勢いで言い訳を叫ぶ。

 しかし兄貴は、私の言い分など無視して問いかけてきた。


「――それで、どのストーリーを選んで書くのかな?」


 その言葉はつまり、ほぼ読んであるという事と同義。


 思わず固まる。

 なんて答えるのが正解だろうか。


 迷う私を楽しげに見ながら、兄貴はなおも続ける。


「どのストーリーを選ぶにしても”彼女”は死ななくてはならないみたいだけれど……殺してしまうのかな?」

「殺しません」


 硬直していたのが嘘のように、自然と強い口調で言葉が出た。


 私はもう決めたのだ。

 この質問の意図は分からないが、それだけは決まっている。


「悪くないストーリーだと思うけれど、それでもかい?」

「絶対――絶対に殺しません。誰にも殺させません」


 楽しそうに笑う兄貴の目をまっすぐ睨みつけながら、私はきっぱりと言い切る。


 こんな風に、この人をまっすぐ見たのは『魅了』を使った時が最後だと思う。


「だとしたら、全てストーリーは書き直しになるね。――それでも?」

「それがどうかしましたか?

 書き直せばいいなら、書き直します。ただそれだけの事じゃないですか」

「なるほど――それが賢明だろうね」


 そう言って兄貴は微笑んだ。


(……どういう意味?)


 眉をしかめていると、兄貴は「仮に彼女を殺しても物語は破綻するからね」と言う。


(……本気でどういう意味?)


 彼女が誰なのかはもう言うまでもない。

 だが、兄貴が心動かされた瞬間を私は見た。


 だというのに、破綻するとはどういう事だろうか。


「確かに彼女も興味深い。

 しかし、彼女が死んでも魔王の心は今更大きく動かない。

 何故なら魔王の心は、既に別のものによって動き出しているからだ」


 魔王が誰なのかこの人は分かって言っている。

 つまり――この言葉は、兄貴が自分について語っているという事だ。


 そこまでは分かる。


(でも、”既に別のものによって動き出している”って言うのは、どういう意味?)


 私の知らないところで、兄貴は既に何か変わっているのだろうか。

 言葉の意味する事を考え、頭の中が軽くパニックになる。


「……まあ、君が手を出さなくても彼女は勝手に消えそうだけれど」


 ぼそりと兄貴が呟く。


 それは聞き捨てならない。

 どういうことかと、言わんばかりに私は兄貴へと詰め寄る。


 自分からここまで近づいたのは初めてだ。


「話して下さい」

「彼女は我が家との交流を深める傍ら、父上について探っているようでね。

 自身の境遇は理解しているだろうに愚かな事だ。――いや、身を捨ててでも家に尽くす健気な娘と見るべきなのかな?」


 どこか他人事のように言う兄貴に苛つく。

 自分でも目つきが悪くなっているのが分かる。


「やはりシルヴィアさんは……クラース家からの人質として嫁ぎに来たんですね」


 私の言葉に応えはない。

 だが、それこそが答えだ。


 間違っていればこの人は訂正するだろう。


「……お兄様は、彼女のことをどう思っているのですか……?

 貴方の婚約者なんですよ……?」


 兄貴の言う通りであれば、このまま放置することで彼女は死ぬ。

 私の問いに、少しだけ考える素振りを見せてから、兄貴は口を開く。


「面白い人物だと思っているよ。実に興味深い。

 出会うのがもう少し早かったら、もっと強く惹かれていたかもしれない」


 やはり彼女は楔たる資格があったらしい。

 その後も、兄貴にしては珍しく褒め言葉が続いていく。


「物怖じしないところがいい。私に堂々と話しかける人物は希少だ。

 味の好みは少々変わっているが、それも面白い。あの辛さは衝撃的だった。

 ……そう言えば、私に無理だと言わせたのは彼女が初めてだな。いつかは見返したいね。

 そして、そこらの令嬢より頭が良いところも好ましい――何しろ、この短期間で一つの成果を出すくらいだ」

「……成果、ですか?」

「二年前の誘拐事件を覚えているかな。彼女はアレの真相に辿り着きそうだよ」


 兄貴の声が響く。


 真相。

 それは――クソ親父による、自作自演だという事。


 実際に確かめたわけじゃない。

 だが、事件後に起きた変化を見れば、それは間違いないだろう。


 彼女が兄貴の婚約者になって二ヶ月程度。

 確かに彼の言う通り素晴らしい成果だと思う。


 喉が乾く。


 そこまで考えて、彼女がどう行動するかが予想出来てしまう。


「……お兄様は助けないのですか?」

「助けを求められていないからね」


 当然のように、兄貴は言う。

 この男が冷たいことは分かっていた。


 だが、少しだけ予想を超える言葉を続ける。


「彼女がそれを求めるなら考えなくもないが――それは多分ないだろう。

 私は彼女に父上寄りだと思われている節があるし、とても意地っ張りなようだからね」


 意外と兄貴は、シルヴィアの事を見ている。

 それが少し嬉しくて、とても悲しい。


 ここであと一歩、自ら動けるようになってくれれば、私は兄貴とシルヴィアの結婚を心から喜べたかもしれないのに。

 この言葉はつまり――死んだら死んだで仕方がないと言ってるのと同じだったから。


 血の気が失せてきているのが分かる。

 彼女が勢いのままに行動すれば、その結末は想像に難くない。


「さぁ、どうする?」


 楽しそうに――実に楽しそうに兄貴は笑った。


兄貴 は 楽しそうに 笑っている!

ミーナ は 激怒 した!


これより先は、道なき道。


* * *


お読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。