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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第三章 15歳 デビュタント編
43/95

37/分水嶺



 ドレスと言う名の拘束具から解放され、私は自分のベッドへと倒れ込む。


 本当に疲れた。


 久し振りに着飾ったし、周囲の値踏みや嫉妬の視線をあんなに浴びたのは初めてだ。


 これなら兄貴によるモンスター狩りのが、まだマシかもしれない。

 あっちは何も考えずに倒せば良いだけだし。いや、命の危険はあるのだけれど。


 ふかふかのベッドは、ダイアンが疲れて帰って来るのを見越して、丁寧にベッドメイキングをしてくれたのだろう。

 その心配りに甘えて寝てしまいたい。


(でも、そういう訳にもいかないのよね……)


 内心でため息をついて、パーティーで兄貴に教えてもらった面々を思い出す。


 ゲームでは纏めて流され、あまつさえ名前すら開示されずに退場するクーデターの主要面子達。

 その扱いの悪さとは裏腹に、彼等のヤバさを私は肌で感じていた。


 私のような小娘が一人正面から立ち向かっても、簡単に潰されるだろう。そう錯覚させられる相手達だ。


 そして、仮にあいつらを首尾よく暗殺できたとしても、奴らは国の中枢に食い込んでいる。

 そうなると、奴らが死ぬことで確実に国が荒れてしまうのだ。


 だが、あいつらをどうにかしない限りは、近い将来クーデターが起きてやっぱり国が乱れるだろう。


 生きていようが、死んでいようが国に害を出さずにいられないとは、本当に困った連中である。


 とはいえ、放置するわけにもいかない。


 今は身内だけではなく、王家側の友達もいるのだ。

 友人が不幸になるのは見過ごせない。


(――しかし、あれだけの面子を排除するのは、普通の方法では無理だろうなー……)


 そう考えると、あれらを纏めて始末し、さらには組織乗っ取りまでやってのけるゲーム版の兄貴は本気で魔王だと思う。

 ……まぁ、現実の兄貴もやれそうな気がするが。


(でも……そうね……前向きに考えよう)


 うとうとしつつ、ベッドの柔らかさに身を任せながら考える。


 狙うべきターゲットが分かったのは良いことだ。

 手段はまだ考えなければならないが、これで行動を起こすことができるだろう。


 自分を慰めるようにそう考え、私は眠りについた。



* * *



 次の日、私は例の設定メモノートを読み直しながら、ゲームのストーリーを確認する事にした。


 現時点で原作まで後数年。

 だから、確認するべきは開幕までの流れだ。


 まず、ヴィルヘルミーナが『魅了』の力に無自覚ながらも目覚める。


 私が憑依した時点ですでに目覚めていたみたいだから、ここが約五年前。

 その後、彼女がエリクとの恋仲になり結ばれ、彼の人格を壊してしまい絶望する。


(これは……もしかして、きっかけはあの誘拐事件なのかな)


 王都の警備責任者にクソ親父の手駒を配置するのが計画の一部であれば、似たような事件が起きていただろう。

 その際、生け贄に自分の娘はさぞや都合が良かっただろう。


 そう考えると、むしろアンディは巻き込まれたと言って良い。


(……多少事件のタイミングがずれてるとしても、この辺りでエリクと……)


 独りぼっちで恐怖に身を縮ませていた彼女を、ヒーローさながらに現れて助けてくれるエリク。

 これで惚れない理由はない。


 ただ、大事には想ってくれてはいただろうが、まだ未成年の彼女にエリクが手を出したのかと思うと少し複雑である。

 エリクはそんな非常識ではないので、恐らくは『魅了』のせいだろうが。


(……実際のところ、ゲームのエリクが彼女をどう想ってたかは謎なのよね……)


 出来れば彼は彼で好意を持っていて欲しい。

 ヴィルヘルミーナにもそれくらいの救いはあっても良いだろう。


 とはいえ、彼女を愛してくれてたとしても、結局人格が破壊されてしまうなら悲劇でしかないのだが。


(――ま、今の私には関係ないけれど)


 気を取り直して、次の流れを確認する。


 ここで、兄貴が彼女の力に興味を持って力を試す。

 ただし兄貴にはなんら効果を上げなかった為、すぐにあの人は興味を失った。

 だが、ヴィルヘルミーナには違う。


 絶望していた中での、希望の光に見えたのかもしれない。


 こうして彼女は、自分を愛しても壊れない兄貴へと執着し始める。


(そもそもそれが勘違いなのにね……)


 兄貴は彼女を愛していない、だから魅了されなかっただけなのに。


(……まぁ、物語だものね)


 苦い想いが浮かぶが、あくまでそれは物語というシナリオで予め決められている流れだ。

 ここで文句を言っても、変わらないし、そもそも私が生きる現実とは違う。


(えーと、それから……次がここか)


 兄貴とシルヴィアが出会い、兄貴が変化の兆しを見せたところで、今は原作の流れが止まっている。

 この後、嫉妬したヴィルヘルミーナが、シルヴィアを殺害してしまう。


 そしてシルヴィアを失った兄貴は、自身でもよく分からない何かを探して、退屈しのぎと言う名のクーデター乗っ取り計画を始めるのだ。


(こうして読み直すと、攻略ルートの兄貴は結構好みなのよね……)


 まぁ、現実見てると「そんな感傷的な部分あるのか?」と問いたくなるので、これぽっちもそうは思えないのだが。


 ともあれ、ここまできてようやく原作へと入れる。

 ここから先は三種類に分岐するのだ。


 一つはヒロインがヒーロー達と共に、クーデター計画を乗っとった兄貴と対決するストーリーで、最後は兄貴を倒しクーデターを阻止する物語。

 二つ目はヒロインと一般人枠との交流がメインのストーリーで、ヒロインがクーデター関連と関わらなかった結果、兄貴がクーデターを成功させてしまう物語。


 三つ目はエンディング後の裏ルート。

 ヒロインと兄貴(クーデター計画乗っ取る前)が出会って交流し、怪物が人間になるまでの物語。


 そのストーリーの中で、兄貴はヒロインとシルヴィアを重ねるような言動を繰り返す。

 それだけ彼女は兄貴の中で楔として残っていたのだろう。



* * *



(……やっぱりキーはシルヴィアなのよ)


 彼女の死が物語の大きな転換点なのだと、今更ながらに理解する。


 多くの人の幸せを願うなら、目指すべきルートは兄貴更生ルートだ。

 なにせ他のルートでは、クーデターが起きるので、少なくない犠牲が出てしまう。


 それにそもそもこの物語は、兄貴の動きこそが主軸で、彼が原作に向けて動き始める為には、シルヴィアが死ななくてはならない。


(……でも嫌)


 友達を――シルヴィアを殺すなんて絶対に無理だ。

 死んだことを想像するだけで悲しくなるのに、それを自分の手でなんて、絶対にやりたくない。


(……逆に、彼女を放っておいたら……)


 どうなるのだろうか。


 少し想像してみる。


 まず、兄貴は特に動かないだろう。

 その結果、クーデターはクソ親父を主導に進むはず。


 兄貴が言った言葉を考えるに、彼女はクーデターの幹部連中について探っているのだろう。


(どう考えても無理よ)


 彼女が単独でどうにか出来る相手じゃない。

 私みたいに魔法が使えるわけでもなく、剣が使えるわけでもなく、己の身を守ることさえままならないはずだ。


(……冷静に考えてれば、普通の貴族令嬢は戦う力なんて持ってないわね……)


 同時に自分が規格外だと認めることに、ちょっと悲しくなった。


(いや、良いのよ……私はヒロインじゃないんだから。

 ただ待って守られるだけなんてごめんだし、それで何とかなる立場じゃないし)


 なんて言ったって、悪役令嬢である。

 待ってても来るのは、最悪の結末だろう。


 問題なのはシルヴィアもヒロインではない事だ。


 その上”死”をシナリオ(運命)に決められている。

 この先の彼女に待っているのは、不審死とか行方不明という変わらない結末。


(――放置も駄目じゃん!!)


 原作――ゲームではアンディは十八歳だった。

 つまり約三年後には原作が始まってしまう。


 彼女の死の時期は分からない。


 ――だが、たった三年でクーデターをどうにかしないといけないのだ。


(短すぎる……どうすれば良いの……?)


 誰も答えをくれない問いが、私の胸を締め付けた。



乙女ゲームの三つのルート。

でも、ミーナさんとシルヴィアさんが救われるEDは、ない。


* * *


お読み頂きありがとうございます。

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