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閑話/アンディ・友人との日常(後編)


「ところで件の侯爵令嬢だが……にわかには信じられない情報を手に入れてしまったんだが」


 少々真剣そうな口調で、コルトが言う。


「何かあったのか?」

「いや……うちに出入りしている行商人に聞いたんだが、アイゼンシュタイン領で魔物の群れを見つけたらしい」

「そんな事、親父は言ってなかったけれどな」


 不思議そうに言うディルク。

 彼の父親は騎士団長だから魔物の群れを発見したならば、その討伐に駆り出される。

 だから情報が一番最初に行くのは彼の家と騎士団だし、そうなれば空気が変わるので分かるのだろう。


「まぁ、すぐ退治されたらしいからな」

「ふーん。でもアイゼンシュタイン領なら、私設騎士団くらいはあるだろ?

 あそこでっかいし、領地の運営も評判良いし」

「……あぁ。そうだな」


 フォルクマールの言葉に、少しだけ言葉を濁すコルト。

 彼があんな風に濁すのは珍しい。それだけ信じられない情報だったのだろうか。


「――話を戻すぞ。

 それでその魔物を退治した人物の情報なんだが……件の侯爵令嬢だったらしい」


 ディルクとフォルクマールが紅茶を吹いた。

 僕は幸い口に含んでいなかったので、其れは免れたけれど、そうでなかったら、きっと二人と同じようにむせて咳き込んでいただろう。


 ……なんて言ったの、今。


「まさか一人で……じゃないよな?」

「彼女の兄上が空を飛んでいたという話は聞いているが……実際に戦っていたのは彼女一人だという」

「え、エリクさんも抜きでか?」


 ディルクの言葉に首を横に振るコルト。


 攻撃魔法が使えるから、後ろからミーナが魔法を撃つというのなら戦術としては正しい。

 だと言うのに、前衛役であるエリクが居なかったとは……。


 絶句する僕たちに、コルトは情報を淡々と開示していく。


「自分の周囲に、私達に見せたあの氷の剣を周回させるように飛ばしながら、接近を拒んでいたらしい。

 その上で、周囲にも攻撃魔法を使い次々に撃破していったとか」

「お。その戦い方良いな。便利そうだ。今度使い方聞くか……」

「さっきまで敵視してたのに其れか」

「良いところは全部奪った上で、物にしてから俺様のが格上だと知らしめるんだよ」

「当分無理じゃね?」

「真似ている間はな」

「うるせぇ!!」


 友人たちが楽しそうに話しているのを聞き流しながら、僕は衝撃に震えていた。


 彼女が強い理由。

 彼女があの時戦えた理由。


 それが氷解したと同時に――友人たちが言う「守る意味があるのか」という言葉が頭に響く。


 僕も強くなったと思うが、群れに一人で挑んで勝てるとは思えない。

 護衛騎士の彼はどうだろう? ……彼は僕よりも強いし出来るのだろうか。


(いや、其れは良いんだ)


 彼が群れを一人で倒せたとしても、別段問題ない。しいていうなら、目標が少し遠くなっただけだ。


 ――ふいに、彼が彼女に対してどう思っているのかかが気になった。


 あんなに素敵な彼女の傍にいて、彼が主従以上の想いを抱えていても不思議じゃない。


 でも彼の家は、侯爵に一家で世話になっていると聞いている。

 いくら常に傍に居て、彼女が頼りにしていたとしても、彼が何か行動を起こすとは思えない。


 だから、そういう意味では安全な男だ。

 それでもこんな風に彼を気にするのを――嫉妬と呼ぶのだろうか。


(いや、ちょっと違うかな……)


 多分僕は、彼が羨ましいのだ。

 身分は僕のが上だし、彼女の婚約者という立場だというのに。

 僕が彼の立場で、彼女に思いを寄せていたら、きっと羨まれるべきは僕の立場のはずなのに。


 ――彼は彼女に信頼されている。


 その事実が、どうしても羨ましい。


「どうしたアンディ」


 ふいにコルトの声が聞こえて顔をあげると、他の二人も僕を不思議そうに見ている。


「なんでもないよ」

「――なぁ、アンディ。本当に彼女が婚約者で良いのか?」

「えっと……どういう意味?」

「あの一家は……なんとなく好きになれない。まだ彼女は良い方だけれど、みんな……なんて言うかな。仮面を感じるというか」

「って言っても、貴族なら大なり小なり仮面被るもんじゃねーの?」


 不思議そうに言うフォルクマールは、確かにこの中で誰よりも仮面を被ってると思う。

 ……まぁ、少し甘くて尊大なところは出てるけれど。最近はともかく、前は大分表に出てたからなぁ。


「確かに魔物の群れを一人で潰す女ってのは、ちょっと嫁には嫌だな」

「そうか? そこは別にどうでも良いだろ。

 それに俺様たちの爺時代には、似たような侯爵令嬢居たらしいぜ」

「うちの国の侯爵令嬢は化物しかいないのか……?」

「流石にたまに出るだけじゃないか?」

「そんな突然変異みたいな言い方はちょっと……」


 苦笑しながら、ちらりとコルトを見る。

 だが、彼は浮かない顔のままだ。


「……お前たち、レオンハルト殿をどう思う?」

「化物みたいに強い」

「大抵の魔法を使える凄い奴」

「僕の憧れの人で目標」


 あの時母さんを助けてくれた時から、彼は憧れで目標で。

 あの誘拐事件が起きてから、彼女の隣に立つ理想像になっている。


 この事は何年も前から言っているので、コルトも覚えているはずなんだけれど……。


 どうにも、彼は彼女が僕の婚約者であることに、不満があるようだ。


(彼の性格上、彼女に恋して横恋慕っていう意味ではないと思うんだけれど……)


 何が不安なのだろうか。

 良く分からないが、もう少し彼女と皆の交流の機会を増やした方が良いかもしれない。


 こう言ってはなんだけれど、屋敷からほぼ出ないせいか、彼女には乳姉妹以外の友人がいないようだし。

 やっぱり友人と婚約者の仲は良い方が良い。


「――そうか。すまない。忘れてくれ」

「よく分かんないけれど、コルト大丈夫か? お前人を疑うのが仕事って言ってたもんな」

「宰相の息子だからって、んなことしないといけないの面倒くせぇな」

「いや、疑うのはお前らが揃いも揃って素直過ぎるからなんだが……?

 ――もう良い。それで、前回の話の続きでもするか?」

「あぁ、そうだね。僕としてはやりたいんだけれど……」


 コルトの提案にディルクとフォルクマールの二人を見る。

 二人共構わないと頷いた。


 それでは――と前回の続きから話し合いを始める。


 近い将来僕はきっと、王族から外れるはずだ。

 すでに父上が次期後継者として第一王子の兄上を指名している。

 余程のことがない限り、これは覆らないだろう。

 後は兄上に世継ぎが出来てしまえば、ほぼ確定となる。


 昨年、兄上は婚約していた令嬢と結婚した。

 まだ懐妊の知らせはないけれど、多分そう遠くない未来に生まれるはず。


 そうなれば晴れて、僕は自由の身だ。


 外交の仕事をするために、王族として残る道。

 どこかの領地で公爵として領主になる道。

 軍部である騎士団に入隊する道。


 ミーナと結婚出来るなら、どの道だって別に構わないけれど、僕には目標があったので、騎士団への入隊を目指すことにした。


 こうして友人たちにも声をかけ、同じように騎士団に入る算段を計画している。

 基本的に案を各々出した上で、コルトがそれらをまとめて更に具体的にしているわけだけれど……。


 僕の希望につき合ってくれる皆に感謝と同時に少しだけ、罪悪感がある。


 だって騎士になろうって言うのは、国民を守るという正義感だけで選んだ訳じゃ無い。

 最初のきっかけは彼女が言ってくれたからだ。


『――確かに今の貴方は弱い。

 だけれど――いつか。そう遠くない未来。

 貴方は騎士隊の隊長となって、仲間と共に国や人を守れる人になる』


 まるで予言のような言葉に聞こえた。

 仲間と言われて思いつくのは、友人の彼等だけ。


 だから、こうして僕の我儘に付き合って騎士団入隊を目指してくれるのはとても嬉しい。


 しかし今の主な動機は、彼女とデートをしたいからだったりする。割と切実な願いだ。


 なにせ彼女は僕と会う時は、だいたい書庫で読書を始めるし。

 彼等と引き合わせた時は、僕より彼等と友好を深めようとするし。


 いや、確かに本を読んでる彼女の姿は綺麗だし、邪魔したいわけじゃないよ?

 友達と仲良くなってくれるのはありがたいし、中々会えないんだから彼等を優先するのも分かってるんだよ?


(そういう意味では街歩きは最高だった……)


 はしゃいだ彼女の笑顔はキラキラしていて可愛かった。

 それに、はぐれないようにと手を繋いでいられたのも良かった。


 最後があんな事にさえなってなければ、二回目の街歩きを企画出来てたのに。


 ミーナは僕にとって愛しい人だし、このまま婚約を続けたい相手だ。最終的には結婚したい。

 けれど、彼女にとっての僕はどうなんだろうと、たまに不安になる時がある。


 エスコート以外での接触は極力避けられてる気がするし、僕が「愛してる」「好きだよ」と言うとどこか申し訳なさそうな顔をするし。

 何より兄上があのレオンハルトさんだ。理想が高くても仕方がない。


 その上、この婚約は前もって彼女に破棄する権利がある。

 仮に破棄したとしても、僕には何も言えない。

 そういう話を前提にしているし、約束したのがレオンハルトさんだ。破るなんて発想はない。


(いつ結婚するかっていう時期をそれとなく聞いたら「お兄様が結婚したら」と言ってたし……)


 思わずそれを聞いて、レオンハルトさんの婚約話について調べてもらったくらいだ。

 結論を言うと、今のところ候補はいても確定はしてないらしい。


 家のことを気にしてるなら、別に婿入りしてもいいのに……。


 ともあれ、そういった事情もあって、もう少し彼女と近づくためには街歩きデートが必要だと考えた。


 問題は街歩きで気づいたけれど、僕や友人、それからミーナといった僕の知り合い達は、皆見た目が格別整っているらしい。

 これではお忍びで行っても、何かしら邪魔をされる可能性が高い。それでは困る。


 だから、もう長期戦のつもりで僕が成人して、騎士団に入隊してから街歩きデートをしようと思うのだ。

 そうすれば、顔はもう割れてるだろうし人に見られても問題ない。

 さらに言うなら、騎士団に入れるくらいの実力があれば、護衛騎士というお邪魔虫も居ないだろうし。


 ……多分どこかに穴がある作戦だとは思うけれど、それなりに悪くはないはずだ。


 何にせよ今は下準備を進めなければ。

 その為には、剣も魔法ももっと修練しなければならない。


 いつか彼女に頼ってもられるように。

 いつか彼女とデート出来るように。


(……皆にこれ言ったら怒るだろうなぁ)


 でも友人たちと騎士団に入るのも楽しみなんだ。

 だから付き合って欲しい。


 少しだけバツの悪い思いをしつつ、僕は皆と議論を交わすのだった。



ミーナさんのレベル 現時点で30くらい

(だいたい兄貴のせい)


アンディのレベル  現時点で15くらい

(ミーナさんへの想いが原動力)


コルト達のレベル   現時点で5くらい

(アンディにひっぱられて)


兄貴のブートキャンプマジ鬼畜。


※参考 原作の上限99Lv クリア目安60前後


* * *


お読み頂きありがとうございました。


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