第十八話、魔王ミゼルの機能紹介コーナー
第十八話となります
よろしくお願いします
「いよーーし! ようやくこの時が来たのじゃな! さあ、早く例の物を持ってくるのじゃ!!」
魔神ミゼル、帰宅直後の第一声はプレゼントを待ち望む子供のような弾んだものであった。
ここまで来るのになぜか精神的なダメージを受け、歓迎しがたい疲労と戦いながらなんとか家に着くことができた。
原因の一つである我が協力者であるところの魔神様にはどこかで痛い目にあってもらうことを願いつつ、そのテンションを治めていただくための供物を探しに向かうことにする。
「とりあえずお前は俺の部屋に行っといてくれ。話はそこで聞くからよ」
「わかったのじゃ。はようするんじゃぞ!」
「へいへい」
すでに姿を表に出していたミゼルはそう言うと、俺の部屋に飛んでいった。その後ろ姿がやっぱり子供にしか見えないことは黙っておこう。もうこれ以上疲れたくないからな。
上機嫌で移動する彼女を追うようにして、俺も二階へ向かう。目的の物は昨日、ミゼルを追いかけるためにそのまま放置しっぱなしだ。一式が隠れていた部屋にばら蒔かれていることだろう。
目的の部屋に入り、内を確認する。やはりそのままの状態でそれは床に存在していた。
「こんなもん何に使うのかね?」
ぼやきつつもそれを改めて手に取る。
天道に頼んで作ってもらったこの警棒だが、これが勇者どもが戦う場で活躍できるとは、とてもではないが思えない。ミゼルにはこれをどうにかできる手段があるんだろうか。
「ま、聞いてみりゃ分かることか」
「おーい! まだかのー!!」
魔神様の催促の声が掛かる。お待たせさせちゃいけませんからして、そそくさと参りましょうかね。
対策として用意していたものを一通り抱え、俺はミゼルが待つ自室へと足を進めることにした。
◾
「おらよ、お望みの物だ」
ベットに座り込むようにして待っていたミゼルに二本の警棒を差し出す。一目で分かるサイズ差だが、これをどうするつもりなんだか。自分で振るう訳ではないだろうが、想像してそのシュールさに少し笑えてきた。
「おおーーー!! これじゃこれじゃ!! これを待っておったのじゃ!!」
目に見えてテンションをあげるミゼル。布団の上に置かれた警棒に頬擦りせんばかりに近寄って、まだ新品の光沢を放つ鏡面に自身の顔を反射させている。
「わかる。わしにはわかるぞ! これはよほど良い鋼が使われておる。これほどのものにわしはもあったことがないくらいじゃ!!」
この世界の治金技術は異世界のそれを越えているらしい。やったな天道。次は異世界進出だ。
「喜び勇んでるとこ悪いがよ。さっさと本題に入ろうぜ。お前さんの趣味に付き合うためにしてるんじゃないんだかならな?」
「ふふふ、なーに心配するでない。すぐに分かる」
もう頬擦りどころか体ごといってる金属マニアの方に、本来の話題に戻ってくれるように言ってみるが、ドヤ顔するばかりで焦らしてくるだけだ。結構我慢の限界だって言ったほうがいいかな?
「よし、このくらいでよいじゃろ」
よかった。キレる前に終わってくれたみたいだ。あと少し遅ければこいつを布団ごと放り投げていただろう。俺の寛大な心に命拾いしたな。
「では」
「おう」
「・・・・・・いただきます」
「・・・はい?」
真剣な顔を作ったからなんか話すんかと思ったらそれは間違いだった。
いただきます。
それは、我が国において食事の前にする挨拶。
それは、食材になってくれた様々な命、生産者への感謝の言葉。
それは、真心。
はむはむと軽快に、警棒をその小さな口で咀嚼していく。それが通常の食材でないのが残念なくらいの、それは気持ちのいい食べっぷりだった。
「うむ、うまい!」
「いや、それキュウリじゃないんですけど」
◾
それから止める間もなく二本の警棒を完食したミゼルは、それはそれは幸せそうな顔で腹をさすっている。かなり大満足したのだろう、ゆるみにゆるんだその表情は今にも天に昇りそうなほどだ。
「ああ~、久々に・・・、ようくったのじゃ・・・・・・」
胃袋を存分に満たしたであろうミゼルとは裏腹に、体積が十倍はあるはずのものを腹に納めた光景に唖然を通り越した感情でいっぱいである。いったいなにが起こったというのだ・・・・・・?
「・・・・・・あのー、説明の方、お願いしていいっすか」
あまりの事態に自然と口調が変わってしまった。大食いはいくらか見たことはあるが、この小さな存在がそんなことをするとはさすがに予想外でしかない。動揺もしかたないだろう。
「うむ、よいぞ。では聞くがいい。わしの素晴らしい機能を」
そして魔神は語り出す。自身の役割、それを実現させるためのその機能を。
◾
「わしら魔神は基本こそ同じじゃがそれぞれ書式が違うというのはどこかでいったじゃろ。わしは御弟子様方の師匠、大魔導師カイエン・モーゼス様に作られたが、それ故に他の魔神とは機能に差がある」
「あやつらが容易に力を与えるのに対し、わしは契約者にそのようなことはできん。なぜなら本来、わしはカイエン様の補助をするために作られたからじゃ」
これを見よ。
そう言って彼女が指差すその先に、急速に黒い塊が形成される。
「これこそが我が機能の根幹を成すもの。その名を『忌鋼』という。」
「これは固体に限るがあらゆる物体を侵食し、その物性を獲得する」
「今ある魔力量ではそこまで多くの鋼を操れんが、これを使い装具を造り出すこと。これこそがわしのもっとも優れた機能よ」
「カイエン様は全身を覆うに飽きたらず、剣軍を作りだし指揮をするように戦うのが得意じゃった」
「わしが防御用の魔導を使えん理由はそもそも使う必要がないからじゃ。この『鋼』はそんじょそこらのものとは訳が違う。おぬしのものもよかったが単純な強度で言えば、ほとんどの魔導、物理をものともせん」
「ああ、ちなみにあの鉄棒を食べたのは魔力の補給のためでもあるの。わしは他の金属を取り込むことで魔力を補給できるのじゃ」
「無論、『鋼』から取り込んでも同じじゃぞ」
「わしが審判役として動く理由。決戦の場を作り、勝敗を見定める。これを成すための力は、安易な破壊をもたらすものではない。あやつらの戦いの被害を減らし、無闇な追い討ちを鎮圧すること。
いわば『戦闘を止めるための戦闘』のため、あえて別の角度の機能を持った、言ってしまえば『守護者』なんじゃよ」
「いやー、本当にこの一週間は大変だったんじゃぞ。この世界に来てからこれまで使うばかりで、一切魔力を補給できず焦っておっての」
「なんたってそこかしこに鉄はあるのに、それに手を出して不審がられてはいったい何のために戦闘の形跡を消してきたのやら」
「あの時おぬしに出会えたのは結果的に最善であったと言えるじゃろうな」
これなら初めから契約者をおぬしにしておけばよかったわい。
そんな言葉を最後にして、ミゼルの説明は終わった。
◾
「・・・・・・なるほどなぁ、そういう理由があった訳か」
「カイエン様は戦う術は持っておられても、その御体はあやつらを押さえるには高年に過ぎた。それを支えるための補助だからの。戦闘ではなく支援に重きを置いておるのじゃ」
認識阻害もその一つよ。
こんな風にさらに話を進め、俺は魔神ミゼルの立ち位置とその機能を理解していった。
確かにそういうことであれば通常の人選では戦力にはならないだろう。最低限戦える前提でなければいくらミゼルでも支え切れない。
俺は魔力が少ない方だと言われたが、それも別に補給できる手段があるのであれば、さして問題にはならないだろう。
それならば、あれもこいつにやっていいかもしれない。
「ちょっと待ってろ。それならまだやれる金属がある」
確か部屋の隅に箱に入れておいたはず。えーっと、・・・お、あったあった。隠れるようにして置いていた箱。そこにはバラバラになった金属片。
そう、決意の朝に壊してしまった、あの目覚まし時計だ。
壊したはいいものの、処理に困ってひとまずこの箱の中に入れておいたのだ。しかし、これがここで役立つとは、人生何があるかわからないとはよく言ったもんだ。
「ほれ、こいつも食ってくれ。もう俺には要らないもんだ」
「ほう、なかなかよい心がけじゃな。遠慮なくいただくのじゃ」
箱を開いて中の残骸を見せてやる。今まで俺の日常の象徴だったこいつだが、これからの一戦に役立つのであれば本望だろう。
変わってしまった日常のことを、寂しく、そして不思議に思う自分がいる。望んだ訳ではないとはいえ、それでもその日常に生きる以上、俺も納得できるようにしなければならない。
そのために、出来ることをやるだけだ。
言葉通り遠慮の欠片もなく、瞬く間に食べられていく光景に、皮肉めいたものを感じてしまう。
魔神に食われた日常が、新たな俺の日常になったのだ。
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