第十七話、勇者が 話し掛けて きた
第十八話です
よろしくお願いします
あれからなにかと帰ろうとしたがるミゼルを宥め、なんとか帰宅時間まで我慢してもらうことに成功した。
あそこまで取り乱すなんてよっぽどのことなんじゃないか、と思って内容を聞き出そうとしたが、今度は黙りである。話す気配は微塵もない感じであった。
むふふ~、と変な笑いを脳内で時おり挙げるのでうざったい。
昼間の説明を終えてからこんな感じが続いている。よっぽど嬉しいことなんだろうが、それを聞かされ続けるこちらは朝とは別の意味で授業に集中できていなかった。
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身内からの妨害でまったく理解できなかった今日の授業内容は後日復習するにしても、精神的な疲労をこんなところで負うとは思っていなかったので行動が鈍くなっている。足が前に進まない理由が気疲れだなんて初めての経験だった。
『終わったな! はよう行くぞ!!』
「(お前後でデコピンな)」
『なんじゃそれは? それよりゆくぞ!!』
聞く耳もってくだしあ。
テンション爆上がりの魔神様はこちらのことは意識を向けず、自らの欲求に従い行動されておられる。
もう抵抗なんて考えていないので促されるまま、俺は帰宅の準備をやりおわり、教室を後にした。
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「やあ、待っていたよ」
そんな風に声を掛けられたのは靴を履き替え、校門を出たあたりだった。
最近はなにかと聞くことが多くなった、できれば会いたくない類いの男のその声に、俺は嫌な予感を感じながらも一応奴も関係者であるので向き合わざるをえなかった。
「少し話があるんだ。来てもらえないかな?」
そいつはそれはまあムカッつくくらいの笑顔のでこちらを誘ってきた。絶対後悔するんだろうな。そんな未来を思い浮かべながらそいつに対応する。
「一体なんのようだ?」
魔神レイの契約者、『勇者』神田橋 正道の姿がそこにあった。
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話があるという神田橋に連れられ、俺は学校の近くのある公園に訪れていた。
この公園は帰り道に近いところにあるので、話に付き合う以上の時間を食わないことだけが幸いだった。
公園には人影はなく、内緒の話をするのにはいい環境だった。
「(なあミゼル。俺この野郎と内緒話するって考えたら吐き気がしてきたんだけど)」
『我慢せい。それだけ時間が掛かるじゃろうが。そんなことはわし、許さないのじゃ』
善性自己中男と会話をするとか罰ゲームよりひどいわ。そんな思いも彼女には届かないらしい。そんなに鉄の棒がご所望なんですかねぇ。
「そいで、なんなんだよ? 早くしてもらえると助かるんだが」
「まあそう焦らないでよ。もうじき絹恵も来るからさ、彼女のことで提案があるんだ」
どうやら眷族になった蛍川についてらしい。だったら最初から二人で来てくれないですかねぇ。
「(どうしたこったろうね?)」
『興味がないのじゃ』
「(右に同じだ)」
この世の不条理にまたため息を吐いていたら、公園の入り口に人影が写る。どうやらそれは蛍川のようで、息を切らせるようにしてこちらに走って来ていた。
「ごめん正道! 教室の掃除に時間が掛かっちゃって!」
今回の中心人物の蛍川さんは、こちらには目もくれず真っ直ぐに神田橋に近寄っておられる。待たされた俺たちに対する配慮は一欠片もない。大丈夫、キレてないよ。ムカつくだけ。
「大丈夫、全然待ってないよ」
それに対し神田橋のイケメン対応。俺にはできないことを平然やってのける、そこに悪寒が込み上げる。
話なんぞする気がない様子でイチャイチャするその姿に、さらに気持ち悪さが増加していく。砂糖じゃなくてゲロ吐きそう。
「お二人さんよ、早くしてくんないかね? うちの子が痺れを切らしそうなんだよ」
『子供扱いは絶許』
俺もこいつらが絶許。
もうすでにこちらの存在を忘れているこいつらに声を掛け、現実に引き戻してやる。正直逃げても気付かれないんじゃないかと思ったが、それで因縁つけられても困るのでしょうがないから聞いてやろう。
「なによ! 邪魔しないで!!」
「絹恵、そう起こらないで、ね。彼も悪気はないんだよ」
悪意100パーセントですがなにか? さっさとせんかいワレぇ!
「実は君に頼みたいのはね、絹恵を守って欲しい。そういうことなんだ」
蛍川を宥める神田橋の口から出たのはこちらの耳を疑うような内容だった。
こいつ正気なのかと思って顔を凝視してしまったが、そこに冗談を言っている様子はない(さらにテンションが下がった)。蛍川の反応もないのでどうやら彼女も了承済みらしい。
「具体的なこと言って貰えるか?」
「絹恵が戦闘には参加しないのは知っての通りだけど、彼女には僕の応援をしてもらいたいんだ。近くで安全に応援してもらうために、君に守って欲しいんだよ」
絹恵の声援は何よりの力だからね、などとほざく自称勇者に呆れるばかりである。
「それって俺がしなきゃいけないことか? 応援するにしたって自前で防壁ぐらい張れるんだろ?」
「私に使うくらいなら正道にあげるわよ。なんたって絶対に勝って妙姉さんを魔王の手から救ってもらうんだから!!」
どうやらこいつらとって魔王は完全な悪役らしい。まああんな感じで人を使っていれば反感を持つのも当然か。俺はあいつ嫌いじゃないぞ、お前らより遥かに常識知ってそうで。
しかし、そういうことならここで引き受けておけばこいつらも勝手なことはしないだろう。そんなことするやつを俺は勝者にするつもりもないし、魔王はすでにハンデを負っているのだ。いくらこいつらがトラブルメーカーでもルールくらいは守るだろう。
「蛍川が絶対に対決に参戦しないっていうなら引き受ける。そのくらいはやってやるよ」
「もちろんさ。僕からもよく言っておくし、そんなことはさせないさ」
「そうよ。私がそんなことするわけないじゃない!」
それはどうっすかねぇ(呆)。
今までお前らの痴話喧嘩で破壊されたものに対して同じこと言えんの? あれって八割あなたですよね?
ナチュラルブレイカー蛍川の信用できない発言はさておき、本人達に僅かでも言ったことを守る意思があることをかなり妥協して信じることにし、この場を治めることに決めた。
「わかったわかった、了解ですよ。大事な彼女さんはこっちでお守りしますよ。そっちも安心して決着つけるのに集中してくださいや」
「助かるよ。でも僕たちはそんな関係じゃあないよ。ただの幼馴染みさ」
こちらの協力を受けることができたことに感謝をしてくるが、彼女発言は否定された。そうかこいつ鈍感系スキル持ちだったな。あそこまでアピールしてる蛍川の気持ちに気付かないなんて、ある意味幸せな野郎だ。
「そ、そうよ! バカねあんた私たちがこ、恋人同士だなんて、そんな、そんなわけ・・・!?」
おう、ちょっとは隠せよ脳内桃色女。だだっ漏れじゃねぇか。それで誤魔化せるわけないって考えなくても分かるだろ。そしてそこまでのことは言ってないです。
「じゃ、話はここまでってことで。おいとまさせてもらうぜ」
「ああ、それじゃまた夜に会おうか」
まだ照れている蛍川は放っておいて俺はようやく帰路についた。どこまでも自分本意な奴等だったが、そういや勇者ってそんな奴ばっかな気がしてきたので俺は考えるのをやめた。
「(なんか、疲れたわ。俺)」
『帰ろう。帰ればまた来れるから』
「(来たくないし、帰宅したいんだし)」
さして面白くない返答をしてしまうところまで弱っている。もうダメだ、早く家に帰りたい。
沈んでいく気持ちをなんとか奮い立たせ、自宅への道を歩きだした。ミゼルさんのテンションも好調に戻り始めている。さあ、今度はこの方のお話ですわ。
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