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偶然の発見


 夜空にあまねく星々を背に、紅蓮の龍は飛翔する。


 その大翼を広げ、灼熱の鱗に覆われた巨躯が悠然と空を駆ける姿は、現実とかけ離れていて幻想的だ。大気を震わせるほどの咆哮を耳にし、総てを焼き尽くすブレスを眼に焼き付けた時など、此処が現実の世界なのだと、つい忘れてしまいそうになる。


 そう、ここは御伽噺おとぎばなしやゲームの中の世界じゃあない。紛れもない現実、道路には自動車が走り、空には人工衛星が浮かんでいる世界。ここは実際に俺達人間が住み、文化を築き上げてきた社会の中だ。


 いま、その現実の中で仮想の身体からだをあやつり、天高く舞い上がった紅蓮の龍と戦っている。嘘みたいな現実の中で、俺は剣を握っていた。



 MMORPG【ジュエリー・テール】


 宝石の物語と名付けられたこのオンラインネットゲームは現在、通信障害でプレイ不可の状態に陥っている。表向きは、そう言うことになっているらしい。おそらく、今後一切、永遠にジュエリー・テールを画面越しにプレイすることは出来ないだろう。


 なぜなら、宝石の物語は仮想の世界を飛び出して、現実の世界に干渉しているのだから。


「うー、さむっ」


 当時、ジュエリー・テールを遊んでいたプレイヤー。つまり、俺のようにネトゲ廃人一歩手前の人間や、ゆるりと楽しんでいた人達だけが知覚し、認識することができたこと。それが世界の異変だ。


 それは例えるならばリアルとゲームの融合、ジュエリー・テールから現実への干渉だ。


 プレイヤーだった者は自分が育てたキャラクターの身体を、現実の身体と置き換えることが出来る。その状態になると従来のジュエリー・テールのように、視界にメニュー画面を展開したり、ステータスの確認や装備の変更、クエストの受注にフレンドリストから他のプレイヤーにテレパシーを送ることも可能だ。


 そして仮想の身体となった自分は、プレイヤー以外の人間から絶対に認識されなくなる。


「いつまで待たせるんだよ、まったく」


 世界がこんな風に変わり、ゲームの舞台が現実になってから、数ヶ月が経つ。


 だが、やはりと言うべきか世界を元に戻す――いや、自分を元に戻す方法はまだ見付かっていない。まぁ、見付かったとしても実行に移すプレイヤーは誰一人としていないだろう。俺を含めて、そんな馬鹿なことをする奴はいない。


 こんなことになってもクエストは受注できるし、モンスターと戦える。そしてクエストをクリアすれば、報酬と共にボーナスとして現実の身体や才能を強化することが出来るのだから。進んで元に戻りたがる奴などいない。いたとすれば、そいつは大馬鹿者だ。


「というか、待ち合わせ場所が学校の屋上ってなんだよ。真冬だぞ、いま」


 そんな今更なことを思い浮かべつつ、愚痴を口から吐き出した。


 俺はいま、放課後の学校校舎の屋上で人を待っている。今か今かと待ち焦がれている。


 空はまだ茜色だが薄暗く、太陽は半分ほど地平線に沈んでいる。このまま星空を拝むことになるのだろうか。思いも寄らぬ心配をするはめとなり、そろそろ本気で家に帰ってしまおうかと思案し始めた頃、ようやく屋上の扉は開かれる。


「よう、遅かったじゃあないか。人を呼び出しておいてさ」


 屋上に踏み行ったのは、同級生にあたる別クラスの女子生徒だった。


「ごめんなさいね。すこし人払いに手間取ってしまったのよ」

「人払い、ね。流石は学園のアイドル様だ」


 十六夜夕奈いざよいゆうな。俺を屋上に呼び出した張本人だ。


 学園のアイドル的存在である彼女は、一人で学校の屋上にくることも難しいらしい。


 清楚で可憐な黒髪美人。学校内で一番の美少女とくれば、たしかに男子生徒共が放って置くわけがない。運動系、文化系とわず、あらゆる部活から勧誘を受けているというし、毎日のように誰かしらから告白されているとも聞く。男からはもちろん、同性の女子からも白を告げられるらしい。


 どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。噂をすべて鵜呑みにする訳じゃあないが、火のないところに煙は立たない。とにかく、男女とわず誰からも人気があり、校内で一人になるにはそれなりの苦労と時間が必要なのだろう。


 そう理解しているし、仕様がないとわかってもいる。だが、しかし、この寒空の下で待たされた時間と忍耐力の消費を考えると、とてもじゃあないが看過できない。文句を口には出さないが、たしょう険のある言い方をさせてもらう。


「それはどうも」


 さらっと流された。


「もうすぐ日が落ちてしまいそうだから、早速だけれど本題に入らせてもらうわ。今日、貴方を屋上に呼び出させて貰ったのは、いくつか質問したいことがあったからなのよ」


 質問、か。なんで俺みたいな一介の男子生徒に聞きたいことがあるのやら。


 はなから期待なんてしてはいないが、どうも愛の告白という雰囲気でもなさそうだ。そんな華やかな話じゃあない。むしろ花が枯れるような、からからに乾いた話を聞かれそうな空気だ。


「ジュエリー・テール」


 ぴくりと、無意識に自分の身体が反応する。


「その反応、やっぱり昨日の夜にドラゴンと一人で戦っていたのは、貴方だったのね。にのまえくん。一一にのまえはじめくん」


 目敏い。そう思わずにはいられなかった。


 ジュエリー・テールという言葉に反応したのは、ほんの一瞬だ。まばたききがまたたく間に終わってしまうような刹那の出来事である。けれど、十六夜はそれを見逃さなかった。


 しかし、同時に納得もしていた。これくらいのことならば、今の俺にも出来るからだ。毎日のようにモンスターと向かい合い。その一挙手一投足を食い入るように観察してきた者なら、おそらく人間相手でも些細な動作を見逃しはしないだろう。


「いえ、やはり此処はキャラクターネームであるファーストと呼びましょうか?」

「それは止めろ」


 キャラネームをリアルで呼ぶな。


「しかし、なるほどな。それを知っている、見ているってことは、お宅もプレイヤーだったって訳だ。とすると、こうして呼び出されたのはジュエリー・テール絡みの話か」

「そういうこと。話が早くて助かるわ」


 それにしても十六夜がネトゲを、か。


「いくつか質問したいことがあるって言ったよな、お宅。なにが聞きたいんだ? モンスターとの戦いかたか? それともルールについてから説明しようか?」


 ルールとは、プレイヤーに課された制限のことだ。


 ルールその壱。

 プレイヤーは仮想の身体を用いてモンスターと戦うこと。


 ルールその弐。

 プレイヤーはモンスターと戦う際、必ずクエストを受注しなければならないこと。


 ルールその参。

 プレイヤーは仮想の身体である限り、実体のある物質を破壊することが出来ないこと。


 ルールその肆。

 プレイヤーは仮想の身体、現実の身体に関わらず、すべての犯罪行為に対する規制を受けること。


 ルールその伍。

 プレイヤーは仮想の世界から現実の世界へと舞台を移すこと。


 仮想の身体となって視界にメニュー画面を表示させると、その一番下の欄に規約という文字のアイコンがある。それに指で触れれば、上記のルール五つが書かれたテキストが表示される。


 それすらも知らないとなると、ちょいと面倒なことになるのだが。


「心配してくれているところ悪いのだけれど、私は丸っきり初心者というわけではないのよ。そんな初歩の初歩くらい心得ている。聞きたいのは、そんなことじゃあないわ」

「ふむ、そうか。それは良かった。なにも出来ない、知らないって状態だから、色々と指導してくれって訳じゃあないんだな。なら、いい。面倒がなくてとてもいい」


 危惧していた面倒なことは回避された。


 ゲームの舞台が現実となってから数ヶ月経つ。にも関わらず、初歩の初歩すら知らない奴は、最初の段階、つまりモンスターとの戦闘行為ができずに脱落したということだ。


 そんな脱落者の再起となると、物凄く面倒なことになるのは目に見えている。ゆえに十六夜が初心者である可能性を危惧していたのだが、どうやらその心配は杞憂に終わってくれたようだ。


「初心者じゃあないとくれば、おのずと用件は絞られてくるな。装備やアイテムのトレードか、それとも共闘してクエストに挑んで欲しい、とかか」

「ご明察。その二つのうち、後者が正解よ。私は一くんをパーティーに誘いに来たの」


 そっちか。自分では前者のほうが正解だと踏んでいたんだが、予想が外れたな。


「なんでまた俺なんかを? 他に候補はいくらでもいるんじゃあないか? 一声かければ喜んでついていく奴らばかりだろうに」

「貴方を誘った理由? 簡単よ、だって貴方、ぼっちでしょう?」

「……もう少し柔らかい表現の仕様はなかったわけ?」


 普通、もっとオブラートに包んだ遠回しな言い方をするものじゃあないのか? それが思いやりってものじゃあないのか? 


 どうしてそんなにストレートな表現をした。心の柔らかくて繊細なところをスパイク付きの靴で踏み荒らすような所行だぞ、今のは。穴だらけになって水漏れしたらどうしてくれる。涙になるだろうが。


「不思議よね。どうして貴方はぼっちなのかしら? 近寄りがたい奇天烈な顔面をしている訳でもないし、取り分けて変な性格もしていない。髪型もオールバックで整っているし、先生からの評価も悪くない。なのに、聞けば高校二年に上がった途端に、ぼっちになったらしいじゃない。一体なにがあったの?」


 よくそんなに俺の情報を握っているな。


「誰から聞いたんだ、そんなこと」

「貴方のクラスメイトに聞いたら、親切に教えてくれたわよ。一はとんでもなく性格の悪い奴だ、という悪口のおまけ付きで」

「それはまぁ、親切なクラスメイトなことで」


 十中八九、あいつだろうな。間違いない。


「実際のところ、どうなの? どうしてぼっちになったの?」

「それを聞いてどうするんだよ」

「べつに、どうもしないわ。けれど、興味がある」

「趣味悪いぞ。まぁ、べつに良いけれどさ。ぼっちになった経緯くらい、お宅に教えて上げても」


 なんてことはない、ありがちな話だ。どこの学校にでもあるような、平々凡々で普遍的なイジメ。それは意図も容易く巻き起こって、瞬く間に日常を変えていく。


「下らない話さ。ただクラスの人気者様と言い争いをして、そして嫌われただけのことだ」

「ふむ……つまり、その人気者と敵対してしまったから、クラスメイト全員が敵に回ってしまった、と」

「そう言うこった」

「関係を改善しようとは思わなかったの?」

「思ったよ。思っただけで実行には移さなかったけれどな。人間関係の修復作業だなんてかったるいことは正直やりたくなかったんだよ。面倒だから。それにジュエリー・テールにログインすれば、仲の良いフレンドが沢山いた。クラスの友達なんて別にどうでも良くなったのさ」


 ジュエリー・テール内で人間関係が完結していた。


 そうなると現実にいる友達の必要性は薄くなる。それでも親友と呼べる人や、深い繋がりのある人がいれば、また違うのだが。所詮はクラスが同じになっただけの赤の他人だ。そこまで必死になって繋ぎ止めておく意味もあるまい。


 それに、あいつらは拒絶したのだ。俺なんか入らないと捨てたのだ。そんな奴等と関係復習など誰がしようと思うのか、という話である。


「なるほど。それがぼっちの誕生秘話なのね」

「あぁ、そうだ。……というか、話がズレているぞ。なんで俺のぼっち話に花を咲かせているんだ。違うだろ、そうじゃあなかっただろ。どうして俺をパーティーに誘ったのかっていう話だっただろうが」

「あぁ、そう言えばそうだったわね。忘れていたわ」


 ぬけぬけとまぁ、よく言ったものだ。


 本題からぼっちの話にすり替えたのは、他でもない十六夜だろうに。


「貴方を誘おうと思った理由は、私と同じだったからよ」

「同じって? お宅もぼっちなのか?」

「残念ながら、私にも友人と呼べる人が何人かいるわ。そうではなくて、私も貴方と同じソロなのよ。ゲームの舞台が現実になってから、ソロプレイヤーなんて絶滅危惧種でしょう? 親近感が湧いたのよ」

「だから、俺に白羽の矢が立ったってのか? ふーむ……いや、それこそ可笑しいだろ。なんでお宅がソロプレイヤーなんだよ。引く手数多だろ、お呼びが掛かるだろ、学園のアイドルなんだからさ」


 十六夜の人気を考えれば、そんなことは有り得ない。


 クラスメイトによって悪い噂が流布され、近所に住むプレイヤーからも孤立してしまった俺のような人間ならともかく。十六夜はそう言う困難からは無縁な人間の筈だろう。なのにどうして効率の悪いソロなんてものをやっているんだ。


「そうね、否定はしないわ。でもね、私はどうしようもなく、人の群れにいられない性質なのよ。騒がしい人間が嫌いで、群れている人が生理的に受け付けない」

「人嫌いって奴か?」

「そうかもね。単に好き嫌いが激しいだけなのかも知れないけれど。まぁ、そんなところよ。だから、基本的に誰かの誘いは受けない。受けたら最後、芋づる式に人が増えていくから」


 十六夜にとっては難しい話だろうな。


 騒がしい人間が嫌いで群れるのが苦手でも、向こうから止めどなく押し寄せてくるのだ。十六夜の身になってみれば、堪ったものではないと容易に想像がつく。俺だって嫌だ。常日頃から、延々と、間近でピーチクパーチク言われては、こちらの気が滅入る。


 俺に白羽の矢が立ったのは、恐らく芋づる式に人が増えるという惨状にはならないと思ったからだろう。俺がソロプレイをしている所を見たのだから、交友関係が希薄だと直ぐに理解できただろうし、実際にクラスメイトに聞いてぼっちであることを確信した。


 俺なら一緒にいても人が増えない。だから、俺を選んだ。つまりはそう言うことなのだろう。


「さて、それじゃあそろそろ、答えを聞かせて貰えないかしら? パーティーへの誘い、乗ってくれる?」

「んー……」


 十六夜と組む利点は、一応ある。


 ソロプレイは効率が悪い上に、多人数同時参加でなければ受注不可のクエストも選ぶことができない。人数が一から二に増えるだけで、戦術の幅がぐっと広がるし、受注できるクエストの種類も増える。一見して良いことばかりだ。


 けれど、懸念がまったくない、と言える訳でもない。


 たとえば性格の不一致や、戦闘スタイルの違いで致命的な問題がおこるかも知れない。なにしろ互いにソロプレイヤーだ。現実での共闘が上手く行く保証はない。そして、もっとも大きな懸念は、十六夜のレベルが幾つか、というところにある。


「参考までに教えて欲しいんだが、お宅のレベルは幾つだ? 職業は?」

「92よ。職業は、魔法騎士マジックナイト

「92? 魔法騎士マジックナイト? ……それ本当か?」

「いいわ。疑っているのなら、確かめさせてあげる」


 十六夜がそう言った直後、一瞬にして服装が変貌する。


 学校指定の学生服だったものが、一変して美しく絢爛なドレスに替わった。あのデザインは間違いなく、ジュエリー・テールの女性専用装備、バトルドレスだ。十六夜はいま現実の身体から仮想の身体となり、自分が育て上げたキャラクターになっている。


「それじゃあ、遠慮なく」


 十六夜に続くかたちで、俺も自分の身体を現実から仮想へと変えた。心の中で仮想の身体になりたいと念じ、ログインと言葉を思い浮かべれば、それで現実は仮想になる。ちなみに、現実の身体に戻りたいときは、その逆の行為をすればいい。


 そうして仮想の身体から覗く視界には、意識すれば相手の簡単なステータスを映し出すことができる。俺は十六夜のステータスを、本人の頭の上へと表示させて、先ほどの言葉に偽りがないか確認する。


 キャラクターネーム、イブニング。

 レベル92。職業、魔法騎士マジックナイト


 たしかに言う通りだった。嘘偽りなく、本当のことを言っていた。けれど、これは。


「どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」

「いや、ちょいと驚いてさ。正直なところ、高くてもレベルは50台だと踏んでいたから、92っていう数字に面を喰らったんだ」


 ジュエリー・テールにおいて、レベル上限というものは存在しない。


 モンスターを倒し、経験値を得て、必要量溜まれば無制限にレベルは上がる。ただ、レベルが上がるに連れて、当然ながら必要な経験値の量は多くなっていく。ゆえに、現実的な計算をすると、限界点はおよそレベル100前後という解が導き出される。


 レベル92は相当だ。かなり昔から、ひょっとすればサービス開始直後の頃から、十六夜はジュエリー・テールをプレイしているのかも知れない。たかだか一年二年程度で、ここまでレベルを上げることは不可能なのだから。


「しかも職業が魔法騎士マジックナイトと来たもんだ。よくこんな化石みたいな職業を愛用していたな」


 魔法騎士マジックナイトという職業を化石と称したのは、今はもう絶対に手に入らない職業であるからだ。


 通常、職業はジュエリー・テールをプレイするにあたり、一番はじめに決めるもの。その種類は全部で九種類あり、魔法騎士マジックナイトはそのいずれにも該当しない。この職業はかなり昔に期間限定で配布されたイベントクエストの上位報酬だったのだ。


 イベントクエストの上位報酬は、どれも異質で希少なものばかり。


 たとえば魔法騎士マジックナイトのようなレア職業が報酬とされていたり、時にはレア種族を報酬とするクエストまであった。もちろん、装備や武器であることが殆どなのだが、ときたまにとんでもないものが報酬となることがある。


 それがまた、楽しく。人を惹き付けるのだ。


「そう言う貴方も、レベル93でしょう。それも職業が暗器使い、ウェポンマスターなら、人のことをどうこうは言えないのではないかしら?」

「まぁ、な」


 俺の職業、暗器使ウェポンマスターいも、かつて配布されたイベントクエストの上位報酬だった。いまはもう手に入らない化石のような職業という点において、魔法騎士マジックナイトと非常によく似ている。


「けれど、なんというか以外だったんだよ。お宅がネトゲをしていたっていう事実も、こんな高レベルだった、ってこともな」

「あら、私ってかなりのゲーム好きなのよ?」

「人は見掛けによらないって本当のことだったんだな」


 十六夜は、どこかはんなりとした女子だと思っていた。


 着物を身に纏い、和室で花を生けているような、なにかの物語にいる登場人物。見上げれば首が痛くなるほどの高嶺の花。容姿端麗、才色兼備の完璧超人。それが俺が抱く、十六夜に対するイメージだった。


 たぶん、他の生徒もそのイメージと大きく離れたものは持っていないだろう。けれど、違った。至って普通の、どこにでもいるような女子生徒だった。自キャラのレベルを92まで上げ、レアな職業につく、トップレベルのプレイヤー。ネトゲ廃人一歩手前。


 そう分かると現金なもので親近感が湧いてくる。手が届きそうだと思えてしまう。単純だな、俺って。


「いいよ、分かった。その誘いに乗ってやる。お互いの利害は一致している訳だし、まぁなんとかなるだろう」

「そう、それは良かった。貴方に、一くんに声を掛けて正解だった」


 十六夜から手が伸びる。


 差し出されるように置かれた手、それはたぶん、共闘の証だ。俺はその手を取り、握った。互いに目線を合わせて、手を握り合う。握手は交わされて、俺達の共闘は成立した。

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