プロローグ
魔族が主となり生活を営むアーシュラ大陸。ひし形のような形と言えば想像し易い。この大陸では、東西南北で分けられた区画を、四天王と呼ばれる強者が統括している。
そしてここ、魔王城は大陸の中央区、小高い山の上に座す。
郵便物の受け取りを担う執務室に、各方面から様々な荷物が届く。たった一人の担当者が、封を開け中身を確認し、問題がないと判断された、若しくは差出人の如何により手紙は受取人の元へと渡される。
この大量に積み重なった手紙は『死の信奉区:東』から。本来、手紙を出すなんて文化が、罪人を檻に入れて育てるような絶望の淵で、養われるはずはないのだが。
あそこでは命が軽い。毎日誰かの血がどこかしらで流れている。
その無法は、統治者に依って整えられた環境。元々は栄えた都市だったのだろうが、今では煤けた廃墟群が、忘れ去られた墓場のように監獄を挟み、放置されているだけ。
統治するは、ソドム。死を司るもの。剣を一つ、振るうだけでいい。それだけで戦いが終わる。
【死を信奉する者:ソドム 所属:死の信奉区 スキル:剣術Lv6 ???Lv6】
『私はあなたを完膚なきまでに叩き潰したい。果てに終わりのない戦場の中で、永遠に高め合い、殺し合い、愛し合いたい。』
北から一枚の便箋がひらひらと。これは『竜の巣』からか。封は、赤いハートのシールで止められている。
なんとも奥ゆかしい話だが、竜にだって筆は持てる。であれば、人間と同じ様に恋を認める道理だってあるはず。
あそこは弱きに見捨てられた大地。氷と炎が同居する。竜が過酷な環境を好むことは、どの時代でも、どの童謡でも、変わりはない。
『巣』とは言ったものの、ここでも魔族は社会を構築している。
竜人、竜骸、竜そのもの、竜を司る炎踊姫。竜を司る氷踊姫。
そして環境を司る者、竜神。
見たなら祈れ。瞬くな。命が惜しいなら。地獄の業火で焼かれたくなければ。
【竜神:ナイ―ラ 所属:竜の巣 スキル:???】
『私はあなたに食べられたい。私の皮は、肉は、脂は、隅まで味付けされて、あなたにとって、とても美味しい。液を舐めて、一つ口を噛んで、舌を食べて。そうやって順番に食んで咀嚼された後、私はあなたの体の中で、永遠にあなたと混ざり合いたい』
南から。等身大の、十を数えるような少女の形をした機械仕掛けの人形が手に持つ。
これまた物々しい。手紙にするには、少々装飾が派手過ぎやしないか。その封筒は金糸で余白無く編まれ器を成し、中心をサファイアで閉じる。
人間社会を模した『魔道協会』の本部からこの恋文は届いた。
そびえたつ城に、城下町。魔族も獣人も、人間だって入り乱れ、種を問わず生活する。
ここには市場があり、交流があり、営みがあり、平和がある。それは城下町の外でも変わらない。
城の中までは、保証しないが。
【管理者:イヴォルグ 所属:魔道協会 スキル:??? ???】
『世界をあなたで満たしたい。24時間、365日、1000年を越えてあなたを守り続けるために。
カメラの中にも、鏡の奥にも、瞼の裏にも、あなたを貼り付けて。
閉じられた本の1ページ目と2ページ目のように、私はあなたと永遠に見つめ合う事を始めたい』
『第零陥凹地帯』からだって手紙は届く。西から、片目が欠けた白い鳥が、この真っ赤な経血に浸され乾かされた手紙を、わざわざ届けに来てくれた。
ここに関する情報は少ない。秘匿されずとも、秘されるものは秘される。
天から見る限りは、ここは姿形を変える。成長するわけでもなく、気儘に。望むままに。
天から見る限りは、地中で何が起こっているのか迄は、把握できない。大地が蓋となり視線を遮る。
天から見る限りは、生きて帰ってきた者を見たことがない。生者は勿論、死者すらも。
つまり天に暴かれることなく、西を支配している者が存在しているということになる。
【ダンジョンマスター:サタリカ 所属:第零陥凹地帯 スキル:ダンジョン操作Lv6 ???】
『子供なんていればいるだけ良い。ましてや、私とあなたの子供なんて。
私はあなたの子宮の中にこんこんと、私の子供を注ぎ、あなたの子宮が溺れそうになるまで、私はあなたを湛え続けたい』
……おや。もう一枚、書きかけの手紙がこんな所に。
まだ、思いを伝えることに慣れていないのか、そもそも書き慣れていないのか、照れくさいのか。手紙は中途半端に終わっている。消しゴムを使った形跡も散見される。しわくちゃの紙なんか捨てて、新しい紙に書き直せば良いだろうに。
……手紙の主が来たようだ。その主は周辺を見回し、その手紙を拾い、読み、確認した後、そそくさと出ていった。
まるで子供のように透明な文章だった。
いつまでも、あんな気持ちでいたいものだ。
『私はあなたと一緒にいたい。それ以外は何も望まないと言いたいけれど。でも本当は、あなたと一緒に外に出て、行く宛もなく歩き慣れた道を歩いたりして……』
4月からちまちま書いていた公募用の作品を急遽なろう様の企画に参加されているコンテスト用に整えた後、ぶん投げてます。




