ゴムは電気を通さない
勇者須田のヤバさが明らかになったので、僕達は当分商売はやめて島に引き籠ることにした。
須田が神の国と接触するのは時間の問題だ。聖女鈴木はすでに上層部とそれなりに関係があるようだし。
そもそも季節風の関係で、大物の貿易商は年に一回とか二回くらいしか取引しないらしいし。何だったらマンドレイク商会を廃業させたって痛くもかゆくもない。元々遊びみたいなものだったし。
何かの拍子に嗅ぎつけられて、島に須田が乗り込んで来たりしたら詰むからね。
アイナ村をはじめ、魔族の国から必要な物資は調達できるし、島で自給自足も可能だ。
可能な限りリスクは減らさないといけない。
それでも安心できないので、皆で勇者対策の研究を始めた。
勇者の能力でヤバいのは、不死身以外にも電撃の魔法を使えることがある。秋山さんが何故かその話を聞いて興奮していた。
電撃って、要するに雷の小さい版みたいなので、電気だから凄く速い。もう一瞬らしい。速過ぎて、見てからじゃ防御できない。
赤松が結界で雷が防げないかどうか研究しているけれど、魔法の電撃だから電気と同じとは限らない。それでも頑張っている。
僕らも何かできないかってことで、考えたのがゴム。ゴムは電気を通さないらしい。だからゴムを用意できないかって話になった。
ゴムはゴムノキの樹液から作るって話はなんとなく知っていた。ゴムノキは観葉植物だから知っている。だけどあれはインドゴムノキで、パラゴムノキっていう別の種類の植物の方がいいらしい。ややこしい話だ。
問題は、パラゴムノキを欲しがっている秋山さんでさえ、名前だけしか知らないということ。どうやって探せと? そもそも異世界にあるとは限らない。
それでも、探しに飛び回る。手掛かりは南方系の植物だということだけ。まあ、インドゴムノキからでも少しなら生ゴムは採れるらしいので、そっちも一緒に探す。
一番いいのは、現地で製品にまで加工して売られているパターンだ。旅の商人を装ってそれとなく聞き込みをしていく。
僕が一人で商売していると、妙なものを高値で買わされてしまうんだけれど、それもなんだか懐かしい。
そしてついに、それっぽいアイテムを発見。黒いゴムでできた人形だった。どこか土偶っぽいグロテスクなデザイン。乳房のようなものがついているから、おそらく妊婦のつもりなんだろう。豊穣多産のお守りだという。
問題はその材質だ。ボロボロに劣化しているが少し弾力があり、化学薬品っぽい匂いがする。タイヤのゴムに似た何かだと思う。
大金を積んで入手先を聞き出し、疫病の森と呼ばれている場所から材料が運ばれて来たことを突き止める。疫病か何か知らないが、宇宙服代わりにも使えるおならバリアーがあれば大丈夫だ。
森の奥で僕が見つけたものは、ゴムノキではなく油田だった。どうやらあの人形は天然アスファルトを加工したものだったらしい。
布にアスファルトを塗りつけて、絶縁服とか作れないものだろうか?
とりあえず、空き樽にアスファルトを採集。ついでにゴボゴボ湧き出している原油も樽に詰めて持ち帰ることにした。
「ゴムノキを探してたら油田を見つけちゃったよ。どうしよう?」
「え? 油田? 凄いじゃない。ミー君大金持ちよ。石油王よ」
「確かに中世世界でも灯油として需要はあるかもしれない。でも、そのままだと揮発成分が多過ぎて危険なんだよ。精製してガソリンを分離しないと」
秋山さんはドライバーだけに興味しんしんだ。
「錬金術師ならそういうの得意みたいだけど」
ふーん。個人的には灯油もガソリンも必要ないかなあ。メタンガスがあるからね。
「この匂いはヤバいでしょ」
「島に公害を持ち込まないで」
原油は想像以上に大不評だった。やっぱ匂いが問題だね。しばらく放置してガソリン臭が抜ければ、灯油として使えるだろうけど、輸送コストや手間を考えると馬鹿々々しいからやらない。
地球じゃ大人気だったのにねえ。
アスファルトも匂いが嫌われたけれど、こっちは一応防水用途や接着剤としての出番がありそうだ。匂いが移らないように、専用の穴倉を掘って保存する。
ゴムについてもなんとなく有耶無耶になってしまった。やっぱり樹液からだと難易度高いよ。
勇者対策については、一つ閃いたことがある。蠱毒の術式では、一番最後に勇者も生贄にされる予定だったんだ。つまり、勇者を始末する方法もそこに書かれている。
グラさんがいれば一発だったよなあ。術式とか分かる人に、解析を頼む? それはそれで、余程信用できる人でないと危険だ。
やっぱり宇宙に捨てに行くしかないのかな? 須田と一緒に太陽にダイブ? それは嫌だなあ。