暴走勇者緊急対策会議
「ぼーそーゆーしゃきんきゅーたいさくかいぎー」
怠け者の吉田が会議を主催するなんて珍しい。
食堂兼会議室が完成して以降、秋山さんが事あるごとに会議を開きたがって、みんな辟易としていた。あの人どれだけ会議大好きなんだよ?
会議で居眠りをするのは悪くないと思う。退屈な会議が悪いんだ。
でも、今日は皆が吉田の話を聞きたがっている。余程のことだろうからね。
滅多に働かない怠け者への信頼感が半端ない。
それでもお茶うけにきっちりプリンをねじ込んで来るあたり、吉田はとことんブレないよ。
無糖紅茶に甘いプリン。いい趣味してるぜ。眠気も吹っ飛ぶしね。
「緊急事態です。聖女の鈴木さんが勇者の須田君を呼び寄せました。馬鹿の金田を倒すために」
「何それ面白い。ちょっと頭いいかも」
「須田君ってダンジョンに閉じ込められてたんでしょ? 余計なことするなあ、あいつ金田よりヤバそうなのに」
あれ? わりと皆他人事感覚? 最近は金田の非道なビュースにもなんか慣れてきちゃっている。
この危機意識の無さを警戒して、吉田は会議を開いたのか。新作プリンを食べたかったからじゃないよね。
「ハブ退治にマングースを連れてくるくらいの愚行」
「マングース知ってるよ。イタチっぽいゆるキャラ? 毒ヘビを食べるのよね」
「ゆるキャラ違う、凶暴な肉食獣。毒ヘビよりアマミノクロウサギとかヤンバルクイナを食べちゃうの」
「ダメじゃん。天然記念物とかそういうのでしょ?」
「でも食べちゃう。どう考えてもハブを狩るよりずっと楽だもん。浅墓な人間の行動が悲劇を産んだの」
「へー、羽山ってさ、エスディーなんちゃらとかって言ってそうなタイプだよね。いい意味で。意識高い系?」
「はいはい、そこ、脱線しない。続き聞く気ある?」
吉田は偉そうに言っているが、羽山たちがマングースの話をしている間に、しっかり一つ目のプリンを平らげていた。
「えーとですね。須田君と金田の戦いは、金田が逃げ出して須田君が勝ちました。そのあと須田君が暴れ出して見境なく人を殺し始めたので、鈴木さんが須田君の頭を吹き飛ばしました」
「何それ本当? もう訳わかんない状況なんですけどー」
「ほらね、須田君はヤバいんだって」
「鈴木の奴も大概ね。利用しといてあっさり殺すかな? て言うか、聖女ってそんなに強いの?」
「えー、須田君を殺したのはダンジョン産の頭装備アイテムだと思われます。遠隔操作で頭が吹き飛ぶので、皆さんもうっかり装備させられないよう注意してくださいね」
まるで孫悟空の輪っかだな。味方に使用するアイテムだというのが非道過ぎる。
「うわあ、なんで鑑定持ちがいないのよ? 秋山さんの鑑定っぽいのは植物限定でしょ?」
「あー、一応あたし、罠や呪いは見抜けるみたいだから」
相変わらず吉田が便利だ。
「なによ、よっしーばっかりズルくない?」
「いや、器用貧乏なだけだって。結構苦労してるんだよ」
プリンを食べながら言っても説得力がない。せっかくだし僕も食べよう。ちょっと甘いかな? でも、無糖のアイスティーで舌を洗い流すと、なんか爽快だ。
「あー、でも須田君ちょっと可哀そうかも。逃げた金田はまだ生きてるんでしょ?」
どうせなら共倒れしてくれたら良かったのにと思う僕は、心が汚れているのかもしれない。
こっちに来ていろいろ辛いことがあったからね。仕方ないんだよ?
「ところがどっこい。なんと須田君は生き返りましたー」
「何そのマンガみたいな展開」
「何かのトリック?」
「聖女が復活を使えるとかかな? でも、自分で殺しておいて、生き返らせるとか悪趣味ね」
「ブー。残念みんなハズレです。実は須田君は勇者の特殊能力で死んでも生き返りますー」
何だよそれ? 初めて聞いたぞ。
「それちょっとズルくない?」
「デスペナとかないなら、チートにも程があるよ」
あー、ゲームであったねデスペナ。デスペナルティだ。そういうのがないと、復活ゴリ押しで無敵プレイができてしまう。
「所持金半減、経験値ロスト、アイテムロスト、残機制、クールタイムが長い、等々いろいろ考えられる」
今日はずっと黙っていた秋山さんが、突然活き活きとと語り始める。
「え? 何? 秋山さんってゲーマー?」
「このくらい常識じゃないかね」
「まあ、どれもありそうですけど、確かめる術はありませんね?」
「所持金半減は無いと思うな。誰かに預けとけば実質ペナルティ無しだし。この世界のモンスターって倒してもお金落とさないし」
へえ、そうなんだ。そういえば僕が倒したモンスターっぽいのってシカくらい? 大ウミヘビ? 海産物は微妙だよねえ。
よく考えたら僕はほとんど冒険してなかったかも。別にこの世界に遊びに来たわけじゃないからなあ。
今は毎日がキャンプみたいでちょっと楽しいけれど、平和で便利な日常があってこそキャンプを堪能できるんだよ。
「最悪の事態を想定して、勇者がペナルティなしで復活できるとしたら、どうかしら?」
「その状況だと、あの須田君が素直に鈴木さんの言うことを聞くわけがないよ」
「鈴木ならソッコー須田に媚びるよ。あいつはそういう奴だし」
「うわー、ありそうで最悪なんですけど」
「私は良く知らないんだけど、須田君ってわりと礼儀正しい子じゃない? 荒れてる金田君より話が通じるんじゃない? そもそも金田君だって話せばわかると思うのよ、修学旅行にちゃんと来たってことは、本当は皆と仲良くなりたかったんじゃないかな?」
「梅姉それは甘々だよ。金田は竹ちゃんの三倍は馬鹿だし、須田君は竹ちゃんの十倍ヤバいから」
「あたしは、そこまで酷くない!」
うーん、最近の竹井はそこそこ更生してきてるよな。梅木さんだったら金田だって更生させられたかもしれないけど、正直そこまでしてやる必要性は感じない。
須田については、よく考えたらあまり知らない。なんとなくいけ好かない奴だったけど、僕の中では竹井よりはずっとマシなポジションだった。
女子達がこんなに須田を嫌ってたとは予想外だ。あいつって見た目はそんなに悪くないと思うし、ああ、でも、金田や竹井も見た目だけならそこそこだしなあ。
「須田君には、彼なりの善悪の基準があるのよ。自分の力量をわきまえて自重もできる人だけど、凄い力を手に入れてしまったから、これからは好き放題すると思うの」
そういえば、吉田は須田のグループだったよ。戻りたいとか言い出されたらどうしよう。
須田に鈴木と吉田が合流すれば、それはちょっと怖いな。
一方で吉田がいなくなれば、僕らは大事な目を失ったようなものだ。
吉田には島の秘密も知られちゃってるし、出て行かれるのは本当に凄く困る。
プリンでなんとかならないものだろうか?




