勇者覚醒
「あー、そっちじゃないって。ザコに構ってたら金田に逃げられちゃうじゃない」
聖女鈴木の魔法の目は、こういう時に役に立つ。念話で勇者に指示を飛ばし、コントロールできる筈だった。
「あーもう馬鹿! 馬鹿過ぎる!!」
血を見て興奮した勇者須田は、手近な相手に無差別に襲い掛かって行く。その隙に金田はまんまと逃げてしまった。
「万を超す軍勢よ。百人や二百人倒したところでどうなるって言うのよ。頭を潰さなきゃ駄目でしょ」
何しろ盗賊同然の雑兵達だ。費用換算では正規軍の騎士の数百分の一の低コストな連中だ。
「数だけ多い雑魚って本当に厄介。時間稼ぎに使われると、相性の悪い相手ではあるのよね。勇者の力が勿体ないわ」
帝国軍の兵達は強敵と見るや、散開して逃げに徹する。自分が生き延びるためには簡単にプライドなど捨ててしまえる連中。おかげで勇者相手にそこまでの被害は出していない。逃亡した先で集合して、再び略奪を繰り返すだろう。
勇者の剣は、肉の壁として拉致されて来た人々にも容赦なく襲い掛かる。もはや相手は誰でも構わないようだ。
「やめなさい馬鹿! ここまで使いにくいとは誤算だったわ。仕方ありません」
金田は討ち取れなかったが、帝国軍を敗走させることには一応成功した。
後は暴走した勇者の処分だ。鈴木は胸元から宝石のはまったペンダントを取り出す。乳白色の石の表面に複雑な術式が浮かんでいる。勇者の冠の起動装置だ。神の国から取り寄せた、防御力を無視して脳を吹き飛ばす伝説の秘宝だった。
「ごめんね」
深呼吸の後、石に魔力を流す。
獲物を求めて戦場を彷徨っていた勇者須田の頭が吹き飛んだ。大地に倒れた体は、しかしムクリと起き上がる。
「アハハ! なんだこれ。頭スッキリ? 生まれ変わった気分だ。ハハ、そういうことか。これが勇者の固有能力か。確かに最強じゃないか、最強としか言いようがない!!」
「嘘! 確かに死んだ筈なのに、生き返った?」
「鈴木か、聞こえているんだろう? よくもこの僕を殺してくれたね。いや、もっと許せないのは僕を利用しようとしたことだ」
「だって、仕方なかったじゃない!」
「僕は寛大だけど、罪には罰が必要だ。今後は僕の命令に絶対服従すること。嫌とは言わせないよ」
勇者は剣を天に掲げる。無数の稲妻が走り、逃走中の帝国軍兵士を悉く撃ち倒していった。




