炎武反転
「はあああああああっ!」
目にも止まらぬ速さで迫る拳を勘だけで察知し身を逸らして躱す。左足を前に出し、一回転しながら右腕を鞭のように振るいウェスタを払いのける。
拳の間合いにまで肉薄し、すかさず左手の掌底を打ち上げる。ウェスタは身体を反らして躱し、サマーソルトを振るう。
火の刃と化したサマーソルトを空気の盾で防いで間合いから外れる。
同時に手を軽く叩き、ウェスタが横に跳躍する。
残念、ブラフだ。
足元が爆破し、ウェスタは数メートル上に飛ばされる。
「なっ!?」
左腕を垂直に振るい、真空の刃を放つ。空中でウェスタは右足が振るい、真空の刃を切り裂く。
着地とほぼ同時に肉薄する足を左手を突き出した受け止める。焼ける痛みを我慢し右手を密着させる。
速いが、それだけだ。まだ感覚が追いついていない。
「させるか!」
炎が動き、火の蛇と化して噛みつこうと首を伸ばしてくる。
咄嗟に左手を離して後ろに跳んで躱す。着地と同時に振るわれる足を左足のサマーソルトで蹴り上げる。
着地と独自に背面の空気と壁を足場にして、ピンボールのように跳んで洗濯紐を左手を掴んで垂れ下がる。
「燃えろ!」
おっと。
右足が上段に向けて振るわれ、火の刃が放たれる。
洗濯紐を鉄棒のように両手で持ち、宙返りして空気の刃を放ち、飛来する火の刃を切り裂く。
確かに身体能力は高くなっている。だが、それだけで動き自体は単調。体の動きに感覚が追いついてない。
「曲芸師め……!」
ウェスタが壁面を走り、壁を蹴って迫る跳び蹴りを身体を捻って躱し、ウェスタの右肩目掛けて踵落としを叩き込む。
「ぐっ……!?」
ウェスタが着地し、火の刃を放つ。
洗濯紐を手放し、空気を足場に後ろに跳んで躱す。
着地し、跳び気味に放たれる回し蹴りを空気の盾で防ぐ。同時に空気の盾が突破される。
「嘘だろ……!?」
回し蹴りをパイルバンカーで受け止めて後ろに飛ばされる衝撃を利用して間合いを開ける。
「炎に潰されろ!」
傷口から噴出した炎が巨大な腕に変わり、振り下ろされる。
咄嗟に右手を突き出し、パイルバンカーを放つ。真空の杭は巨人の腕を吹き飛ばし、周囲の建物に引火する。
足払い気味にミドルキックを放ち、迫る足を受け止める。
腕の破壊からのこの動き、どうにも動くことを読まれているな。
純粋な殴り合いでは負ける。ならどうするか。単純な話だ。
ウェスタの背後に異界の穴を開ける。
「がっ!?」
穴いっぱいに突き出されるナイフ、剣、槍、矢がウェスタの背中を穴だらけにする。
咄嗟に跳び上がるウェスタの背後に異界の穴を開けるとウェスタはぶつかり、地面に落ちてくる。
落下地点に異界の穴から得物の刃を出すとウェスタは残った右手から炎を出し、その勢いで刃を躱す。
ダーティーな攻撃は良いよな!
異界の穴から出たナイフを投げると同時に着地したウェスタに接近する。
「くっ……!」
ナイフの腹に裏拳を当てて弾き、私のハイキックを当たるギリギリのところで躱す。
これもだめか……!
迫る拳を後ろに跳んで躱し、跳弾のように空気と壁を蹴ってウェスタの上を取り指を弾く。
ウェスタの周囲に出来た瓦礫の山が破裂し、散弾が撒き散らされる。
「無駄だ!」
ウェスタは自分に降りかかる瓦礫を足技でいなしていく。
知ってるよ。お前の実力ならこれくらい簡単にこなすくらいの事は。
衝撃でより上に上がり、洗濯紐に足裏を乗っけて真空の刃を構える。
「はああっ!」
足裏から空気を噴出し落下しながら空気の刃を振り下ろす。
刃はウェスタの右肩から右腰まで一気に切り裂く。同時に体の中から炎が吹き出す。
「冗談でしょ!?」
即座に跳び退くが左腕に炎が巻き付き、焼け焦げる。
「ぐうっ……!?」
これも【獣の唄】の特性か……!暴走した魔力が身体を傷つけるとそこから溢れ出してきやがる……!
傷口が焼けて塞がり、ウェスタが跳躍気味に間合いに入り、横回転しながら蹴りを放つ。
空気の盾は裂かれる。なら、するべきは……!
焼けた左腕の篭手で炎の刃を防ぎ、衝撃を利用して間合いから抜け出す。
間合いから抜けると同時に周囲の炎を風に乗せた空気の刃を放つ。赤く炎を纏った空気の刃をウェスタは手から噴出した炎で空気の刃を両断する。
力技かよ……!
炎の余波を空気のベールで防ぎ、迫る炎を真空の刃で切り裂く。
「ここだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その炎を突っ切り、迫るウェスタの蹴りをもろに受ける。
衝撃で吹き飛ばされたと気づいたのは壁に叩きつけらた後だった。
「ごほっごほっ……!」
呼吸できない……!身体の中が熱い。あの蹴りを加えられた時の熱で体内が焼かれたのか!?
「ノルディの仇、取らせて貰うぞ……!」
壁に背を預けて座る私に近づいたウェスタは私を蹴り上げ、拳を握り、高く振り上げる。
勝った、そう思っているのだろう。確かに、ここで無駄に傷をつければ勝手に自滅し、防ぐだけの余力もない。空気の刃も、パイルバンカーも、空気の爆破も今を打開しても次に繋げる事は出来ない。
だが、ちゃんと吸ってくれて良かったよ。
落下し、私の胸が殴りやすい場所に着くと同時に拳が振り下ろされ、胸を強打する。
「がはっ!?」
同時に、ウェスタの口から血が吐かれる。
口から赤黒い血を地面に溢しながら後ろに下がるウェスタの腹に風の砲撃を直接叩き込み、吹き飛ばす。
轟音と共にウェスタが叩きつけられた建物は崩れ、瓦礫の山にウェスタは埋もれていく。
ウェスタの一撃はとても重かった。特に、炎を突っ切った後の一撃、たった一撃で死ぬ3歩手前にまでさせた。だが、それが命取りとなった。
殴られてほんの数コンマ秒後に【寄生樹】を発動させたのだ。
植物系は体の耐久力が低い分、治癒能力と生存能力は高い。心臓が破裂した程度では即死しないほどに。
死ぬまでのほんの数コンマ秒、ほぼ無意識に【寄生樹】を発動し相手に私が受けた傷を転写させた。心臓が破裂し、それでも虫の息だったのは予想外だったが。
さて、と。それじゃあ私は……。
「おい、早く消火しろ!火の手がどんどん迫っているぞ!」
「お母さん、ねぇお母さん!」
「くそっ、金目の物を持ったらさっさと逃げるぞ。でないと巻き込まれちまう!」
ああ、戦闘が激しすぎてスラムに火が燃え広がってる。スラムに住んでいる連中は大パニックだな。
……とりあえず、逃げるか。責任なんぞ被せられるのも億劫だし、体の中が熱くて堪らん。




