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File : Project G.O.D. 11

——傍観者機構 活動開始

——接続……成功



 対象ミヤビの生体反応を確認。対象は書類らしき紙の束を小脇に抱え、室内の大半を埋める広いテーブルに腰掛けていた。光源は大きな窓ガラスから入る外からの光のみ。テーブルの他に複数の椅子がテーブルを囲む様に並んでいる。

 ミヤビは目を細め、窓から見える空を見つめていた。対象の視線の先、雲一つ無い晴天。

 そして、対象ミヤビは空を見たまま口を開いた。

「なんであんたは来るかな。よりによってこういう時に限ってさ。これからユリカゴ上層部の人が来てね、サナに関する書類を提出しなきゃならんの。今時、紙媒体でのやり取りなんてこんな時ぐらいでしょうね。一応重要機密なのよ? これ」

 ミヤビはそう言いながら、抱えていた書類を掲げ、そしてそれをテーブルの上に置いた。

「さっきサナが言ってた星の悲鳴、意味解る? あれね、共感病患者特有の症状の一つ。まさにこの病気を表す根源、地球との共感から生まれる苦痛の悲鳴」

 対象ミヤビ、両手を白衣のポケットに入れ、天井を仰ぎ見る。

「その悲鳴に医学的、科学的根拠はまったく無い。ただ、共感病患者全員がその苦痛を訴える。どんな痛みなのか、どんな悲鳴が聞こえてくるのかは解らないわ。患者本人にすら理解できないらしいの。だから、それが解る事こそ共感病の真に繋がるのかもしれないわね」

 対象ミヤビ、両手を外に出し、一緒に取り出した携帯端末を操作する。

「でも問題はそこじゃない。彼らはその星の悲鳴を聴き続ける果てにある行動を起こす」

 ミヤビは携帯端末から目を離し、こちらに顔を向けた。

「私たちはそれを終末行動と呼んでいる。昨日起こった事件が良い例よ」

 携帯端末を再び操作するミヤビ。操作後、空間に大量の文字列が表示された。

「見える? まあ読んであげるわ。要約すると、ある家族の長男が共感病に感染して尚、病院に連れて行かずに家族は長男を匿っていた。共感病の末期に近づいた時、彼は家族と駆けつけた周辺住民を惨殺。そして長男は建物から飛び降りて自殺……大半は自分自身に矛先が向けられるのだけど、中には自分以外の人間を道連れにしたがる患者もいる。家族の気持も解らないでもないわ。病院に突き出したが最後。死に目にも会えず、二度と生きて会う事は出来なくなる。正直こちらでも手に負えないから、自我があるうちに薬剤投与で処分が基本」

 ミヤビ、携帯端末を操作。空間に浮かぶ文字列が消え、対象は再び窓の外を見つめる。

「何十人、何百人と見てきたわ。そうやって彼らが死んでいくのを……いくら感染ルート減少と危険行為抑制の為とは言え、身勝手なものよね、社会って」

 対象ミヤビは、テーブルに置かれた書類を手に取り、めくり出した。

「でもね、私は思うの。人ってさ、やっぱり何だかんだで優しい生き物なのよ。共感病患者が末期寸前で危険行動を起こすのは、それから起こる惨劇を本能で知るからじゃないかって私は考えてる。その惨劇を起こさぬ為に、彼らは自ら命を絶ち、被害を押さえるために周囲の人間にも手をかけるんじゃないか……まあ、これは私が勝手に考えた希望的観測だけど。これを見ると的外れでもなさそうな気がしてきてね」

 ミヤビは書類の束から、数十枚の紙を取り出した。

「これは本社研究機関の最重要機密項目。共感病患者の兵器運用の可能性と、その実験結果が書かれたレポート。病気の解明が難航し始めて、痺れを切らした本社上層部の連中がやらせたらしいわ……書かれているのはね。末期患者を完全拘束して、自殺ではなく共感病によって死なせた場合の感染範囲。そして患者の個体差による感染速度。感染範囲の差異。データでは若ければ若いほど感染範囲も進行度も大きくなるそうよ。そしてこの検証データの一部には私が担当した患者も含まれている」

 そう言うと、ミヤビは再び窓の空に視線を移す。

「特にあの二人の事は今でも覚えているわ。まだ研究も初期段階の頃よ。二人とも二十代前半の若い男女で、その二人は研究にとても協力的だった。自身の犠牲で多くの人が救われるのなら、自分はどうなってもかまわない……二人とも、そう言い切ってた」

 ミヤビ、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

「まったく、泣ける自己犠牲よねぇ。笑っちゃうわ。その多くの人とやらが二人の犠牲で釣り合うほど価値があるものとは到底思えないのにね……でも見方を変えれば、そういう英雄的思考が二人の正気を保っていたとも考えられるけどさ」

 ミヤビ、手に持った書類を隣に置き、両手をテーブルに乗せ、天井に視線を移した。

「その二人はね、別に恋人同士とか兄弟とか夫婦とかじゃなかったの。完全な赤の他人。二人はその研究施設で出会ったのね。しかも協力的な男女の患者同士。一緒に行動することも少なくない。お互い惹かれ合い、愛し合うようになるのも必然みたいなものよ。だから途中からは二人の希望で同じ部屋にさせて、研究スケジュールも合わせさせた」

 ミヤビは顔を床に向け、目を細める。対象の手は白くなるほど力強く握りしめられていた。

「自分の死期を知りながら、星の悲鳴を聞きながら、研究で体をボロボロにされながら。そんな状況で二人はいつも笑顔だった……必要最低限の臓器以外は全部提供してもらった。二人の片足と片腕も取った。共感病で機能しなくなった卵子と精子も、薬付けで使い物にならなくなった性器も、眼球の片方も……何もかも、何もかもよ!!」

 対象ミヤビはテーブルに拳を叩きつけた。震える手。こわばる体。

「なのに! それでもあいつらは! 笑顔で私たちを見るのよ!? 笑顔で私たちを気遣ったりするのよ!? 恨みごとの一つぐらい言えっていうのよ!」

 ミヤビは暫く沈黙した後、頭を振りこちらに顔を向けた。

「ごめん、取り乱しちゃって……それでね、勿論二人も例外なく二十四時間監視されていた。だから私たちが見ていないところで愚痴だなんだ言っててくれれば、少しは自分の気も晴れるかと思って、記録担当が必至に止めるのも聞かずに、見たのよ」

 ミヤビはテーブルから手を離し、俯いた。

「正直、見なきゃ良かったわ。二人ね、残ったお互いの手を繋いで何も言わずにじっとしてるの。何時間もずっと、ずっとよ。まるで自分たちにはそれだけで十分なんだって顔で……」

 ミヤビは先程テーブルに置いた書類を手に取る。

「そして、二人の最後が近くなった日。本社から指令が来た。末期患者の最終検査及び最終処理の委託って書かれていたわね。勿論、このレポートに書かれている事が行われているとは当時は知らなかった。知っていたら止めてたわよ。でも当時は、あの二人を見ているのも辛い所があったのも事実。だから二人には本社の研究施設に行ってもらったわ。完全拘束されて、それでも笑顔で、最後には礼まで言いやがって……」

 ミヤビは顔を上げ、手に持った書類を見つめる。

「ごめん。話がそれちゃったわね……話を戻すわ。これの実験で使われたのは、共感病の末期患者と世界中からかき集めた死刑囚。まあ最終的には死刑囚問わず、重犯罪者の殆どが使われたらしいけどね……ある州の大部分を閉鎖して実験したそうよ。そしてその中でもっとも範囲が広かった実験結果の詳細がこれには添付されてる」

 ミヤビは何枚か書類をめくり、それを凝視した。

「要約するとね。囚人達を放棄された施設に集めて周囲を完全封鎖。そして、囚人達が大勢屯してる中に、ある若い末期の女性患者を放置したのよ。そこで何があったかは省くわ。ここには詳細に書かれているけど結果とは関係ないし、反吐が出るような話だから……それで、とうとうその患者が共感病で死亡。感染源に近い囚人達は一斉感染。連鎖するように末期症状が起こり、殆どが死亡……でも、そこで終わりじゃなかった。周囲を完全封鎖していたにも関わらず感染はさらに広がり、一つの州を丸々巻き込んだの。予想外の被害に報道管制も間に合わなくてね。未曾有の大災害としてメディアは報じていたわ」

 ミヤビ、手に持った書類を丸めて握りしめる。

「結局、この実験で得たものは共感病患者の危険性を再認識させただけ。そしてユリカゴ内で共感病対策の方針が大幅に変更された。今までは共感病の解明が主だったものが、共感病の抑止対策に大幅に予算を裂かれたのよ」

 対象はバラバラにした書類をまとめ、テーブルに戻した。

「おかげで共感病の研究機関はこの施設を残して殆どが解体。解体後の施設は共感病患者の収容所になった。表向きは共感病専門の医療機関だけど、実態は刑務所と変わらない。いえ、もっと酷いわね。完全拘束して監禁。末期症状が出る前に薬剤投与で殺処分」

 ミヤビ、顔をこちらに向ける。目を細め、苦笑いを浮かべている対象。

「さて問題。こんな状況で、なぜサナが優遇されているか、あなた解る? 答えは簡単、あの子が歴代最年少の共感病患者だから……兵器としては最高の条件でしょ? 一応効果の予測範囲は出てるけど正直なところ未知数。少なくとも、この国でやったら誰一人生きてはいられないと思うけどね」

 ミヤビは顔を窓の空に向け、両手を重ねて強く握りしめた。

「死の少女。それがサナの現在の兵器名でありプロジェクトの名前。本社が勝手に付けた物の直訳だから身も蓋もない名前だけどね……例えば、そう例えばの話よ。全世界で地球脱出に向けて本格始動しているこの世の中で、北半球のとある国、灰色化の進行具合から二世代は余裕がある国がある。その国はこの時代に逆行して、完全に鎖国状態。灰色化の境界線からも離れているから共感病患者も居ない。いえ、数が少ないから隠しきれてるだけね」

 ミヤビは視線を空に向けたまま、自身の髪に手を添え、指を絡めた。

「本来は口に出すだけで重罪なんだけど、あんたには話しておくわ。その国にね、サナを末期症状直前で入国させる手筈が整ってる。近々計画が最終段階に移行するわ……見せしめよ。近隣諸国が鎖国強行に同調しようとしていて、クレイドルとしては忌々しき事態。散々説得と脅しをかけたけど効果がなかった。だからこの計画もすんなりと上層部に通ったわ」

 ミヤビは再びこちらに顔を向ける。

「共感病患者の死亡予想時間は割と計算しやすくてね。クレイドル本社の潜入部隊が既にその国に入り込んでる。後はサナの終わりが近づくのを待つだけ……ねえ、こんな馬鹿げた案を立案して実行しているのがどこの誰だか、あなた解る?」

 ミヤビ、暫くこちらを見つめ続けた後、顔を空に戻した。

「……私よ」

 ミヤビの白衣ポケットから電子音発生。対象、携帯端末を取り出し、耳に添える。

「ワカバ何の用? 今は連絡するなと……ナオトさんが? ……わかった、通してあげて」

 室内扉開閉音。対象ナオトを視認。

「珍しいですね、ナオトさんが来るなんて」

 ナオトは対象ミヤビの前まで歩き、金属性の鞄をテーブルに置いた。

「私はただの代理だ。人手不足はどこも一緒と言いたいところだが、総裁の私に対する嫌がらせのつもりなのだろう……おや、今日の私は幸運だな、再び君と会えるとは思わなかった」

 対象ナオトの視線を感知。対象ミヤビもこちらに視線を向ける。

「お知り合い?」

「今朝方、私のオフィスに来ていた。まさか、ここでも会えるとは思わなかったよ」

「彼、昨日からサナに付いて居てくれているんです」

「そうだったのか……まあいい。先に用件を済まそう」

 対象ミヤビは口を噤み、テーブルに置いていた書類をナオトに手渡した。

「確認だけさせてもらうよ」

 対象ナオトは受け取ると、書類を淡々とめくりだした。

 沈黙が続く室内。紙が擦れる音だけが室内に響いている。

 ミヤビは腕を組みながら自身の両腕を掴み、俯いていた。

「ナオトさん。この部屋のセキュリティは私の権限で全て切ってあります」

「ああ、知っている」

 ナオトは書類を見続けたまま、ミヤビの声に答える。

「だから、ここで何が起こっても記録には残りません」

「何が言いたい」

「好きなだけ私を罵倒していいんですよ? 殴るなりの暴力でも構いません。私の体で済む事でしたら何でも結構です。それだけの事がそこには書かれています。そうするだけの権利がナオトさんにはあります。それに、その程度で許される事でない事も解っています」

「昨日の威勢はどうした。私がそのような事をできる人間かどうか、知らないわけでもないだろう」

 ミヤビは顔を上げ、ナオトを見つめた。

「勿論、だから半分は嫌がらせです。でも、残り半分はそれを懇願してます」

「今更、懺悔の時間が欲しいとでも言うのか?」

 両腕を掴んでいた手を下ろし、テーブルに添えるミヤビ。

「あの時は必至でした。ただでさえ共感病患者の扱いを見直した時期。そこにサナの共感病の発症。こうして時間稼ぎする他なかったんです」

「解っている。その事で君を責めるつもりはない。その件に関しては感謝しているつもりだ」

「それなら、少しぐらい行為で示してはくれません?」

「具体的には?」

 対象ミヤビ、頭を傾けながらナオトに微笑みかける。

「さっきも言いましたけど、この部屋のセキュリティは切ってあります。少しぐらい声を出したって誰にも気づかれませんよ?」

 対象ナオト、書類をめくる手を止めてミヤビを訝しげに見つめる。そして、口元だけ小さく笑みを浮かべると、ナオトはため息をついた。

「それで気が晴れるのなら構わないが、そうもいかないのだろう? 君の場合は」

 ミヤビはナオトから顔を逸らし、窓の外を見ながら片手で髪を摘み、指に絡めた。

「意地悪な人」

「サイトウ先生程ではないよ……確認した、特に不備はないだろう」

 対象ナオト、金属性の鞄に書類を入れ、鍵を閉めた。

 ミヤビは髪から手を離すとナオトに体を向ける。

「ナオトさん、ユリカゴの共感病研究は灰色化研究班に吸収されたと聞いています。あれから何か進展は?」

「残念だが無い。サイトウ先生が出した結果以降、頓挫しているのが現状だ。予算の無い中、良くやっているとは思うが時期も時期だ。次回の役員会で解散も視野に入れた縮小案が提出される。今後は抑止対策がより強化されるだろう……この施設も長くはないぞ」

「ご忠告、感謝します。でも大丈夫、ここにはユキナが考案して私が完成させたシステムの中枢があるんです。あいつらの好きな用にはさせませんよ」

「ミヤビシステムか……確かインターフェイス周りは君がモデルだったな」

「ええ、勝手にモデルにされた側としては少々複雑ですけど。今となっては妹みたいで可愛いものですよ? まだ試作段階ですけどナオトさんも会ってみます?」

「止めておくよ。ただでさえ君の事で未だに困惑しているんだ。これ以上似た顔が周りに増えるのは勘弁してほしい」

「そうですか……でもそんなに似てますか? いくら双子って言っても、私の方は色々いじくり回してるから全然違うでしょうに」

「怖い事を簡単に言うんだな……しかし驚いたな、双子だったのか。あいつからは全然聞かされてなかったよ」

「それはそうですよ。デザイナーズベビーの双子なんて他人のようなものですから。性格も極端に違ったみたいですし……残念ながら、男の好みは一緒のようですけど」

 対象ミヤビ、横目でナオトを見つめる。

 対象ナオトは再びため息をつき、ミヤビに顔を向けた。

「あの子に双子の件は伝えたのか?」

「いいえ、親戚とだけ伝えているだけで姉妹とも言ってません。もっとも、サナは感が鋭いから気がついてるかもしれませんけどね」

「なぜ伝えない?」

「やなんですよ。まだ伯母さんなんて呼ばれたくないじゃないですか。それに最近口が達者になってるから、かっこうの餌を与えたくないだけです」

「相変わらず仲がいいようだな」

 ミヤビは片手を自身の腕に添え、そのまま握りしめた。

「ねえ、ナオトさん。本当に会わなくて——」

「やめてくれ」

 対象ナオト、ミヤビから顔を逸らして鞄に片手を置き、その手に力を込める。

「ナオトさん……」

「会えるわけがないだろ。この私が」

 沈黙が続く室内。暫くしてミヤビは両手を白衣のポケットに入れ、テーブルから離れた。

「ねえ、ナオトさん。この後時間あります?」

 ナオト、無言のまま鞄を見つめ続ける。

「別にサナの事ではありません。さっき振られちゃいましたし、煙草くらいは付き合ってくれません? 最近は愚痴を言える相手が出来たのですけど、一人での屋上は少し寂しいもので」

「それぐらいなら構わんよ」

「ありがとうございます、じゃあ行きましょうか」

 出入り口に歩き出す対象二名。ミヤビは扉前で立ちどまり、こちらに振り返った。

「あなたも付き合いなさいよ。一人より二人、二人より三人だからさ」

 対象より動向要請。拒否要素無し。対象に動向開始。距離を固定。

「……ありがとね」

 移動先、施設屋上。対象二名、備え付けの灰皿を挟み、壁にもたれかかる。そしてミヤビは白衣から煙草の箱を取り出すとナオトに差し出した。

「いります?」

「止めておくよ。立場上吸うわけにはいかなくてね」

「あっとごめんなさい。そうでしたね……じゃあこっちで」

 ミヤビ、手のひらほどの紙をナオトに渡した。ミヤビとサナの写る写真。隔離フロア内での写真と推測される。

「昨日撮ったサナの写真です」

 対象ナオトは写真を見つめ、表面をそっと指で撫でた。

「ナオトさんにあげます」

「ありがとう」

 ナオトは写真を上着にしまい、空に顔を向け、瞳を閉じた。

「良かった」

 小さく微笑みながら、ミヤビは煙草を取り出し、火を点ける。

 対象ミヤビの視線を感知。ミヤビは煙を横に吐き出し、顔をこちらに向けた。

「そういえば、あなたナオトさんの所に行ってたのね。もしかして私が言ったから?」

「なんだ、サイトウ先生の差し金なのか?」

「かもしれませんね。灰色化の事はナオトさんの方が詳しいって昨日言いましたから」

「灰色化、ね……」

 ナオトは視線を下に落とし、腕を組んだ。

「何か進展はありました?」

「ここのセキュリティレベルは?」

「レベル1です。ここはこの施設で数少ない盗聴器が入っていない場所です。ただし、彼は特別ですけどね」

 対象ミヤビの視線を感知。

「カメラと感圧装置だけか。ならいいだろう。出たのは灰色化の地質調査の結果だ。二日前に本社にも最終提出がされた。現時点で、地質的には何一つ問題が無かったらしい」

 対象ミヤビ、眉をひそめながらナオトを見つめる。

「驚いたろう? 灰色に見えるだけで、大地の物質自体は何一つ問題なかった。勿論海底調査でもだ。ただし、生命は相変わらず宿ることはなかったそうだよ。動物は逃避、植物は死滅、微生物は消滅。解っているのは南極から変色が進行している事実だけだ」

「……ますます奇妙ですね」

「まったくだ。本社も随分荒れたらしい。会議中にユリカゴによるプロパガンダ説を唱えだしたやつが出たほどにだ。無論、現実なのは誰一人否定できない事実だがね」

「では灰色化は星の死ではないと?」

「現時点では何とも言いがたいな。ただ、どちらにしろ我々に未来が無いのは変らんよ」

「そうですね……ほんと、私達はこの星に余程嫌われているのでしょうかね」

「嫌われたがゆえにここまでされるのか?」

 ミヤビ、煙草をくわえながら微笑んだ。

「それか、地球としては自分の子供達を巣立ちさせたいのかも」

「なるほど、そんな風には考えなかったな。もしそうなら我々の存在も無駄ではないか」

「ふふっ、でもそれにしては酷い仕打ちですよ、やっぱり」

「そうだな、サイトウ先生」

 対象ミヤビ、風になびく髪を押さえながら空を見つめた。

「サイトウ先生……か」

 ナオトはミヤビと同じように空を見上げたまま、なにも答えずに沈黙していた。

「昔みたいに呼んで欲しいとまでは言いません。でも、もうそんな他人行儀な呼び方、止めにしません?」

 ナオトは暫くの沈黙の後、口を開く。

「言ったはずだ。私は家族をつくれる資格は無いんだよ……もう、二度とな」

「意地っ張り」

「何か言ったか?」

「いーえ何も……そうだ、ナオトさん。一つお願いしたい事があるのですが——」



——端末破損部の再構築準備完了 再構築を最優先 接続を一時停止

——傍観者機構 接続停止





管理番号_20160805 管理者名_若葉代理

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