File : Project G.O.D. 10
——傍観者機構 活動開始
——接続……成功
隔離フロア室内。対象サナ、対象ミヤビの生体反応を確認。対象二名は寝具に腰掛け、ミヤビが持つ携帯端末を見ながら何かを話し続けている。
「——ほら、これがナオトさんが最近まで関わってたプロジェクト。新型星間船の量産体制の構築作業と広報活動ね。そして、これが昨日の第一船団が飛び立ったところ」
「あ、私これは見ました。確か収容人数が桁違いらしいですね」
「そうそう、惑星着陸も視野に入れて建造されてた今までのと違って、離着陸機能を星間船とは別に設けて、宇宙空間のみの航行を考えて設計したやつなの。だから構造自体はモロいっちゃモロいんだけど、低コストで収容人数が確か……あ」
対象ミヤビの視線を感知。
「あれ、お帰りなさい。用事はもういいのですか?」
「馬鹿、あんた何処ほっつき歩いてたの。あんたが居ないから、サナが、もう……」
対象ミヤビ、俯きながら顔を両手で押さえる。
そんなミヤビを、サナが目を細めて横目で見る。
「先生、勝手に誤解を生むような言い方をしないでくれませんか?」
ミヤビは顔を上げ、サナを見つめ返す。
「そお? だって私がせっかく作ってやった料理をボロクソに言ってたくせに」
「あれは先生が厳しく採点しろって言ったからですよ」
「そーいうときは遠慮すんのよ、普通は」
「遠慮するなと聞いた気がするのですが」
「あーら、そうだったかしら?」
「はぁ……でも何度も言いますけど、本当に美味しかったんですよ」
サナはそう言ってこちらに顔を向ける。
「それより、ちょっと心配しました。シャワーから上がったら居なかったから」
「だってさ。まあ、あんたにはあんたの事情があるだろうし、野暮な事は聞けないけど……何処行ってたの?」
「そういうのが野暮な事じゃないんですか?」
「勿論、解ってて言ってんの。ほんと、喋れればいいのにね、あんた」
サナは天井に目を向け、自身の髪を指に絡めた。
「それは何か嫌ですね、私としては」
「……あー、確かに考えたら嫌ね。何処にも存在できるくせに、さらに喋れたらうざくてしょうがないわ。幽霊より質悪いかも」
対象ミヤビ、言いながら寝具に仰向けに倒れる。サナはそんなミヤビに顔を向けた。
「何もそこまで言わなくても」
「だってそうじゃない? 人のプライベートは覗き放題で、それを他人にベラベラ話しちゃうかもしれな……」
「ミヤビ先生? どうしたんですか?」
「ごめん、ちょっと別件思い出して自己嫌悪中」
「珍しい。今日は雪ですかね」
「なにそれ、私が自己嫌悪しちゃならんとでも言うの?」
「ミヤビ先生は後悔なんて考えないで突き進みそうです。我が人生に一切の悔い無しという感じですね。見た目は」
「昔よく言われた、それ。で、必ず最後に見た目だけって言われた」
「あはは、それなら大正解ですね」
「悪かったわね、ひねくれてて」
「そこまで言ってませんよ。ミヤビ先生は私にとっての憧れなんです。元気出してください」
「そう、ありがと。で、本題は何?」
「ミヤビ先生、何でそうすっとばすんですか」
「サナが世辞言う時は決まってお願い事でしょうが」
「さっきのは一応本当ですよ?」
「はいはい一応ね。で、何が欲しいの?」
対象サナは膝に置いていた手に顔を向け、小さく指を動かした。対象の手、腕の中程まで変色が進んでいる。
「……ピアノ」
「何?」
「ピアノが、弾きたいです」
ミヤビ、体を起こしてサナの手に視線を向けた。
「そう言えば習っていたのよね」
「はい、小さい頃だけですけど。母さんが死んで、それどころではなくなってしまったので」
「……そっか、いいわよ。さすがにグランドピアノは無理だから、電子ピアノとかアップライトなら、どっかが在庫抱えてるでしょうし、探せばあると思うわ」
サナは動かしていた手を止め、そのまま握りしめた。
「外は、やっぱり無理ですよね」
「さすがにきついわね。内容が内容だから私の権限だけじゃ許可は下りないわ」
「そう、ですよね……」
「そう落ち込まないの。そのかわり、最高級品を探してくるから、楽しみにしてなさい」
「ごめんなさい、こんな我が儘言って……」
ミヤビは暫くサナを黙って見つめ、そしてサナの頭にそっと手を置いた。
「ばーか、何言ってるの。言うなれば、今のサナは我が儘を言うのがお仕事。私はそのお仕事を完遂するのがお仕事よ。気にしないの」
サナはミヤビに顔を向け微笑む。
「はい、ありがとうございます、ミヤビ先生」
「よしよし、遅くても明日までには用意するから楽しみに待ってること。いい?」
「はいっ」
ミヤビはサナの頭から手を離すと、寝具から立ち上がって背筋を伸ばした。
「それじゃ、もう少しで検査始まるから、消毒して着替えて、いつもの場所に行くこと」
「解りました」
「今日も用事があって私は立ち会えないから、一人だけど大丈夫?」
「大丈夫です、どうせ検査中はずっと寝てるだけですから」
「それもそうね。じゃあ先に出るわ、また後でね」
対象ミヤビ、室内から退室。対象ミヤビを視界から消失。
「検査か……あれが一番退屈なんです。私は横になって、検査機器がずっと私の周りを回ってるだけ。それに、いつも途中で寝てしまうんですよね」
サナは自身の腕を持ち上げ、灰色に変色した部分を見つめた。
「腕まで進行してる……」
対象サナ、簡易服を捲り、自身の足を露出させる。
「足は、膝まで……灰色になるスピードは、地球の灰色化と進行速度が似てるんだそうです。だから正確に残り時間も解るらしくて……この調子だと予定通りの終わりなのでしょうね」
サナは自身の体を両手で抱きしめ、そのまま両腕を握りしめた。
「怖いんです、私。死ぬのはもう覚悟しています。だから死ぬのは怖くなんかない……でも、星の悲鳴が、私に響いてくるんです。それが最近強くなってきていて。最後は私、どうなっちゃうのか考えると……」
対象サナ、頭を振り、両手を下ろす。虚ろな瞳。開いたままの唇。
「……シャワー浴びて、着替えてきます」
サナは寝具から立ち上がり、おぼつかない足取りで部屋を出ていった。
室内に生体反応及び動作反応無し。
——傍観者機構 接続停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理




