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年増令嬢と記憶喪失  作者: くきの助


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2人の読書

「今日は暖かそうだ。午後のティータイムは庭のガゼボでしよう。」


窓の外を眺めていたエリック様が思いついたように言った。




今日は朝食後図書室に行きたいと侍女のネリーに話せばあっという間にエリック様に伝わったらしく、彼のエスコートで図書室を往復する事となった。

エスコートと聞けば聞こえはいいが抱っこで移動させられた。

彼が言うには部屋から図書室は遠いらしい。


今日も療養という名の軟禁生活だ。


ようやくお風呂に入れた日の次の日抜糸された。

しかし、もしや傷が開くかもしれないと心配したエリック様により、またお風呂は禁止された。


室内から出る事は許されずエリック様監視の元、室内で食事をし、彼の持ってきた本を読み、午後はティータイムを楽しむ。

もちろんティータイムは彼の膝の上で。


お医者様から激しい運動は避けるように言われているものの、普通の生活をしていいと言われているはずなのだけども。

しかしエリック様が少しずつ日常に戻るべきだとそれを許さない。


この過保護はいつまで続くのかしらね。


抜糸から三日目の今日。

やっとお風呂も許され図書室も許された。


そうして公爵家の図書室に行き感嘆のため息を漏らした。

さすが公爵家の図書室。

規模は大きく読んだことのない本もたくさんあった。


こうなったら一日中部屋にこもって本だけを読むなんてこんな贅沢な日を、エリック様の許可が出るその日まで満喫しましょうか、なんて気分にもなる。


部屋に戻りベッドに座ってクッションを背もたれに本を読む。

但しクッションを使っているのはエリック様。

では私はというとエリック様を背もたれにしていた。


エリック様は私を足の間に座らせ、片手で腰を引き寄せ、もう片方の手で器用に本を読んでいる。


彼曰く私達はいつもこんな風に本を読んでいたらしい。


そうだったかしらねえ……


とは言え三日目ともなると私もすっかり慣れてしまったらしく、彼の腕の中で本を読み耽っていた。

たまに「ページめくって。」とエリック様に頼まれるという邪魔が入るのだけれど、別に嫌ではない。


そしていつの間にかエリック様は本を読み終えていたのだろう。

窓の外を眺めていたエリック様が「午後のティータイムは庭のガゼボでしよう。」と言ったのだ。

言われて私も窓に目をやる。



窓から見える景色はキラキラとお日様が降り注いでいる。

ここからは見えないが桜の木があるのだろう。

チラチラと花びらが舞っているのが見える。


確かに午後の暖かい時間に庭に出れば気持ちのいいティータイムになりそうだ。


「ようやく外に出してもらえそうで嬉しいですわ。午後が楽しみです。」


ふふ、と笑いながらエリック様の手を離れた本を取った。


「エリック様は本を読み終えるのが早いですよね。」


本の分厚さを確認するように縦にして感心しながら言った。


「かいつまんで読んでるだけだからな。斜め読みってやつだ。」


「それにしても早いですよ。」


「どれ。」とエリック様がヒョイと私が読んでいる本を取り上げる。


彼も本を縦にすると

「ハハ、まだ半分も読んでいないじゃないか。」

と愉快そうに言った。


「私が遅いのではなく、エリック様が早いのでしょう。」

もう、と本を取り返す。


「まあ俺だって推理物だと最後の謎解きで知らない謎が出てきて首を捻ることがよくある。読みこぼしてるんだろな。」


機嫌を損ねたと思ったのだろうか。

エリック様からよくわからないフォローが入った。

思わず笑いがこぼれる。

すると「なんだよ。」と拗ねた声を出しながらも、彼自身自覚があるらしく一緒に笑い出した。



楽しい。



ついこの間まではこんな気安いおしゃべりはしたことがなかった。

彼はいつでも不機嫌で、私もそこに立ち入らなかった。


そこでどうして不機嫌なのか、問うべきだったのだろうか。

そうすればこんな気のおけないおしゃべりを楽しめたのかもしれない。


そこまで考えて小さく首を振った。


いいえ、違うわね。

私が15歳だから成り立っているだけだわ。


エリック様がこの関係をいつまで楽しむつもりなのかはわからない。

ただはっきりしているのは一つだけ。

私が記憶など飛んでいないと告白すればその瞬間終わる。


「どうした?」


エリック様が後ろから私の顔を覗き込む。


「いいえ。」


私は誤魔化すように笑みを浮かべると

「そうそうガゼボまでは自分で歩きますわね。」と言った。


エリック様は顔を歪める。


やっぱり抱っこで行くつもりだったのね……


「歩かなければいつまでも軟禁生活じゃないですか。」


「いいじゃないか、別に。」


馬鹿な事を……


エリック様は「あーでも歩けないと植物園もおあずけか…。」

と自分を納得させるようにぶつぶつ言いながら私の髪に顔を埋めた。

かと思うと「ふ…くすぐったい。」と笑い出した。


私の髪の毛は大きなクセがある。

それが顔をくすぐったんだろう。

なんだかゴネてみたり笑ったり、上機嫌の証拠なのかしら。


「なんだかご機嫌ですね?」


すると肩に埋めていた顔をぱっとこちらに向けた。

オニキスのような黒い瞳が私を捉える。


「妖精姫と一緒にいて不機嫌になる奴なんていない。」


まあどの口が言うのかしら……


「まして自分の妻で腕の中にいるなら尚更だ。」


機嫌のいい声で言いながらボンと後ろのクッションに体重を預けた。


もちろんエリック様の腕の中にいる私まで引っ張られて体勢が変わる。

ポフと彼の胸に私の頭が落ちた。


「公爵家で私はわたあめと言われているとリタが言ってましたわ。」


なんだか嫌ごとのひとつも言いたくなった。

しかしエリック様は「それは俺のせいだな!」と笑い声を上げた。


「家でローズの話題になった時に俺がわたあめのようだと言ったら姉が随分その言い回しを気に入ったんだ。ローズは妖精姫と言われるのが居心地悪そうだと言って、我が家ではわたあめ姫と呼ぶことになったんだ。」


くるくると私の髪の毛を弄びながらエリック様が言う。


「そうでしたか……」


この国では珍しい私の銀髪は祖母譲りだ。

父は受け継がなかったが隔世遺伝だろうか、私とアドニスが受け継いだ。

異国生まれの嫁入りでこの国に来た祖母は、今まで銀髪など見たことのないこの国で祖母は妖精と称されていたらしい。


祖母を知る方々から私が小さい頃は妖精姫とおだててもらっていた。

さすがに学園に通う歳になる頃には面と向かって言う人は居なくなっていたけれど。

ただ私のいない所では言われているようだった。


「我が家ではわたあめ姫と呼んでいるけれどね!」


銀髪で癖毛だからだろうと思った。


学園生にもなって銀髪というだけで妖精姫などと言われるのが恥ずかしかった私には彼女の言葉は嬉しかった。

思い出すと懐かしくなり、ふふと小さく笑う。


「軽い嫌味を言ったと思ったらもう機嫌が直ったのか。ローズって意外と単純だったんだな。」


感心したように言われたが彼に遊ばれている髪の毛が心地よく、酷いことを言われたような気もするが気にならない。

猫になった気分で目を細めた。


このまま……15歳のローズのまま居ればこの時間がまだまだ続くのだろうか……


彼の優しい手つきを感じながらそんなずるい考えが頭をよぎっていた。


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