4 父と弟-2
久しぶりに家族揃った夕食を楽しんで、たった一人のメイドが淹れたお茶を味わっていると、エリオットが照れくさそうに、言い始めた。
「姉さん。僕は学院を卒業するし、仕事も何とか決まった。これから姉さんも幸せになってほしいんだ。今まで、僕の学費のことで姉さんにはすごく負担をかけたのはわかってる。これから少しずつ返していくから。この家のこともちゃんとする。」
卒業前とは言え、まだ18歳のエリオットが殊勝な事を言うものだから、フィオナもほろっと気が緩む。
父は感動のあまりティーカップを持って固まっている。
「エリオット、、、。急に何を言うの。家族なんだから、助け合うのは当然でしょ。お金のことはもう言わないで。そんな立派なこと言ってもらえただけで、もう十分よ。」
不覚にも涙が浮かぶ。
「私が、私が不甲斐ないせいで二人には苦労を、、、!」
父も泣いていた。
この父は大変良い父親で、母のいない心の隙間も十分に埋めてくれたが、いかんせんお金の管理が下手だった。
下手な投資で僅かな財産を減らしてしまい、今は何とか不動産管理の下請けをして家を維持している。
エリオットがこんなにしっかりと育ったのは、目の前に反面教師がいたからだろう。
会計の事務仕事ではあるが、第一騎士団で働くのだ。福利厚生も王国でトップクラスだろうし、何ならフィオナより給与もいいはずだ。
もう、私の小さな弟はいないのね。
フィオナは感慨深くお茶を飲んだ。
「でさ、ミューラー様とはどうなの。結婚しないの?」
危うくお茶を吹き出しそうになる。涙も引っ込んだ。
父が再び固まった。
さて、何と言おうか。今の辛い二人の関係をここで話す気にはなれず、曖昧にごまかす。
「今、ちょっと意見の食い違いがあって、、、、。このままお付き合いはやめるかもしれないの。」
アレックスとフィオナが交際をしているのは父も弟も承知していた。何せ、アレックスはフィオナと交際をさせてほしいと、この小さな家に訪ねて来たそうだから。
父がガバッと自分の方を見るのがわかった。
「そうか! 意見の違いが、とんでもない争いになることもあるしね! フィオナはまだ若いんだから、結婚なんて考える必要はないよね。」
なんだかひどく嬉しそうな父を横目に、エリオットは納得できないようだった。
「何があったか知らないけど、よく話してみたら? 試験の前にミューラー様とお会いした時は姉さんのこと大事にしている様子だったけど。」
エリオットに会ったなんて言ってなかったわ。
アレックスは私に言ってないことが多い。お腹の子の父親だと認めない時も、決して理由は言わなかった。
再び悲しみに襲われる。
その日の夜は疲れを言い訳に早く休むことにした。エリオットはまだ何か言いたそうだったが、疲れた様子のフィオナがそれ以上説明したがらないのを見て、黙り込んだ。
翌朝。久しぶりによく眠ったフィオナは、数少ない使用人に王都のお菓子を配って、父のことを頼んだ。エリオットは朝が苦手で、フィオナが昼前に帰ろうと家を出る頃、やっと起きて来た。
卒業式には必ず行くと約束をして、別れる。
父はまた泣いていた。もっと帰って来た方がいいのだろうか。
馬車の中であれこれ考えながらフィオナは寮へ戻った。