5 友人の結婚
12月に入ると気温はぐっと下がり、道を歩く人たちはマフラーや手袋をして寒さを凌いでいる。
月曜日には出勤するなり仕事に忙殺された。
役所の仕事はなぜか毎年、12月には突然忙しくなる。
「どうしていつもこうなのよ。」
セシリーは領収書の分厚い束を持って遠くを見つめる。
「年が明ける前に、いろいろ整理したくなるからじゃない?」
王都の病院からの補助金の申請書の山を一つずつ片付けながらフィオナは答える。
「これ、ひどくない?夏の救護用費用の領収書が入ってるわ。何で、どうしてすぐに出さないのかしら。」
「忘れてたのかしらね、、、、、」
フィオナも仕事に追われてうわの空で答える。
「うわー忙しそう。やってるねぇ。」
呑気な声をかけるのは、隣の市民生活課にいるフレッド・ランドールだ。セシリーはフレッドをジロッと睨んだ。
「いいわよね、フレッドは1年中生まれた子の登録してればいいんだから。」
「怖い、怖い。仕方ないだろ。役所は分担作業、負担の違いはあって当然。ねぇ、今日夕飯行こうよ。ちょっと報告があってさ。」
「奢ってくれるの? 行くわ。」
セシリーが即答する。フレッドも一瞬、怯んだが
「お、おう! いいさ。フィオナも行くよね?」
フィオナもフレッドには遠慮がない。
「行くわ!この山が半分になってたらね。」
料理は好きだが、今日はどうせ遅くなる。寮に帰って一人分を料理するのは正直言って面倒だ。以前ならアレックスがフィオナの好きなものをテイクアウトして、二人で食べたりしていたが、今はそれも難しい。
いけない、またアレックスのことを考えていた。
金曜に寮の前で話してから、彼の姿は見ていない。アレックスがすぐに諦めるとは思えないが、この先どうなるか不安しかない。
職場へもいつ妊娠の報告をしたらいいのか。
妊婦健診へ行くのに休むから、その時かしらね。
フィオナが行くと返事をしたところで、フレッドは満足そうに持ち場へ戻って行った。
「さあ、もうちょっと頑張りましょう。」
夕飯の奢りが決まって、元気の出た二人は目の前の書類に取りかかった。
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フィオナとセシリー、そしてフレッドの3人は同じ年の同期だ。
お互い気を遣わずに話ができる大事な関係である。
こんな風に3人で食事をして帰るのも珍しくない。
今日も「フクロウの家」で3人は集まった。
「お疲れさま-。」グラスを合わせて労うとフレッドが不思議そうに言う。
「フィオナ、飲まないの?」
「え? そうね。今日はやめておくわ。」
妊娠のことはフレッドも知らない。
「ふーん。、、、そう。今日はさ、二人に報告があります!」
フレッドが得意げに宣言する。
「俺、結婚します!」
その場がシーンと静まり返る。
「やっと決まったわけ? よく待ってもらえたもんね。」
セシリーは遠慮なく言う。
フレッドが3年も交際をした愛しの彼女になかなかプロポーズできないでいるのは、二人ともよく知っていた。
「結婚の申し込みを、受けてもらえたのね?」
フィオナは微笑んでフレッドを祝福する。
「良かったわ。おめでとう。」
フレッドは子爵家の3男坊で、学校を出たところ早々に家を追い出された。愛しい彼女は平民の出身だった。
自分では釣り合わないと、身を引こうとするのを、フレッドは自分はどうせ爵位もないのだから平民になると言って口説き落としたらしい。
「とりあえずさ。結婚式に来てほしいんだ。」
結婚式は王都の小さな教会で挙げるそうだ。家族と、親しい友人だけで簡単に済ませるとか。
「早く一緒に暮らしたくて。」
照れくさそうに言うフレッドがキラキラ眩しく見えた。
奢りだからと調子に乗って飲みすぎたセシリーが、机に突っ伏して寝てしまった頃、セシリーの婚約者ケビンが店に現れた。
「やっと見つけた。」
ケビンはセシリーより6歳年上の落ち着きのある紳士だった。セシリーをとても大切にしており、寮にいないとわかると心配してよくこの「フクロウの家」まで迎えに来てくれる。
丁度良かったと、セシリーを抱え上げて連れて帰ってくれる。
「フィオナは俺が送ってやるよ。」
結婚の報告ができて上機嫌のフレッドと二人で連れ立って店を出た。
寮の前でもう一度フレッドにおめでとうと言って、軽くハグをしてフィオナは自分の部屋へ帰った。
アレックスがその姿を睨んでいるとも知らずに。




