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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
4章 染みわたる意志
65/119

55話 暴力の世界

タイトルを戻しました。

タイトルよりもあらすじを治したほうが良いと思ったので。

 国。現代の地球においては、一定の領土を持ち、そこに人が居住し、それらを統治する権利があるものがいる集団の事を指す。

 それはこの世界でも変わらないが、この世界では国家として認められるには法の正当性がなによりも重視される。


 法とは人々の幸福を守るために存在し、人は法に従うことで秩序を維持できる。

 では、その方が正しいと何が保証するのか。だれが保証するのか。

 この世界では光と法の神ハイディが、延いてはハイディの代理として地上で活動しているハイディ神聖国の神官だけが保証出来る。


 すなわち、この世界では全ての国家はハイディ神聖国から法の正当性を認められた場合のみ国家として認められ、ハイディを神々の長と認めない集団は国家と見なされず、実態は一般的な国家と同じ機能を有していてもあくまで『無法者たちの集まり』と見なされるのだ。





 トトサワルモ地方のある場所、断崖絶壁に囲まれた窪地に人間社会からは『無法者の街』と認定されている数ある街の一つがあった。


「今日は久々に手ごわかったな」

「ああ、だが大物だ。みんなも喜んでくれるだろう」


 一見すると野生動物を相手にする猟師の様な二人の男たちだが、その右手には酒樽と高価な絹織物が、左手には人間の返り血で濡れた刃物が握られていた。

 

「おーい!戻ったぞ!」

「新入りたちか。お疲れさん。おっ、中々の収穫だな!飯と金、どっちと交換する?」

「飯に変えてくれ。家族が待ってるからな」

「俺は金で頼む。今日は勝てる気がするんだ!」


 どう見ても盗賊にしか見えない相手に、兵士の様な出で立ちの門番が平然と相手をする。

 人間から奪ったとしか思えない。まともな街なら衛兵が飛んでくる悪行。だがこの街では当たり前であるかのように行われている。


「おいお前、いいもん持ってんじゃねえか。寄越せ」

「あ”あ”!?やれるもんならやってみろ!」


 二人組は街に入って別々の目的地に向かうと、食料を持っている方にぞろぞろと汚い身形の男たちが出てきて刃物を向けてくる。


 それもまた誰も衛兵を呼ぼうとしない。この街にそんなものはないと知っているがゆえに。誰の縄張りでもなく、誰の傘下でもない者を守るものなどいないと知っているがゆえに。

 周囲にいた者たちは危険を察知し距離を取り、ある者は酒の肴にと囃し立て、ある者は身を縮めてさらに距離を取る。


 ほどなくして汚い身形の男たちは半数が死に、食料を持っていた男も腕を失った。周囲で様子を見ていた者たちが、好機と見て両者に襲い掛かる。

 悲鳴が響き、血の匂いが広がる。


 この街では力が強いものよりも、数の多いものよりも、勝ち馬に乗る能力が高いものが最後に生き残る。


 この世界で無法者とは法と光の神ハイディを信仰しない者、ハイディを神々の長と認めない者も差すが、法に従わず、力による支配を是としている者たちも差すのだ。


「ぎゃはは」

「あっはっはっ」



 血と暴力、酒と性の臭いが町中を覆っている。

 欲しいものは何でも手に入る。勝てばなんでも手に入る。負ければ死ぬだけ楽なもの。

 陽気に歌い、誰かか踊り、響くは戦勝。負けた話は聞こえない。なぜってそれは死んだから。

 誰もかれもが欲望を満たせる、まさにこの世の楽園だ。



「こえー街だな」

「ふふふ、セイさんのような方には合うと思いますよ」

「それもそうだな」


 そんな現代日本と比較しようもないほど治安が終わっている街を、セイはリリたちと歩いていた。


 この街はこの世界のどこにでもある無法者の街の一つであり、リリが領主の様なことをしている街だ。

 規模は人口が十万人程度と街としては中央値程度。全員が暴力に生きている野蛮人……というわけではなく、生産職まで充実している。

 その実態は大規模な盗賊団に近い。


(暴力に溢れているけど、思いのほか奪い合いにはなっていないな。お互いに譲り合い、命を保証し合っている。俺にはまだ理解できない秩序がありそうだな)


 地球の常識を持つセイには意外だが、この街の住人の顔に不幸は見えない。楽しそうだ。

 しかしそれは当然のこと。彼らは自ら進んで人間社会での立場を捨て、この街に移住してきた。

 なぜなら、人間社会よりもこんな最底辺に見える暴力集団のほうが、良い暮らしが出来るからだ。


 セイは森に暮らしているから縁がなかったが、この世界は封建制の世界だ。身分が絶対で、低い身分の人はまず出世できないし、平民の中でも長男以外は継げるものも無い。

 彼らは決して夢や野望のために暴力の世界に足を踏み入れたのではない。能力は村で一番高いのに、その辺の村人の家に生まれたというだけで『優秀な部下』にしかなれず、能力も人格も自分よりはるかに劣悪なのに村長の家の長男だからというだけで上に立たれ、偉そうに指示を出してくる。

 村でも街でも宮殿でも、農民でも商人でも騎士でも貴族でもそれは変わらない。家という枠組みを重視するなら我を殺すべきだが、家を継ぐわけでもないのにどうしてそこまでしてやらないといけないのか。


 そういった不満をため込み続けた者たちは、村に盗賊が襲ってきて直ぐに村から寝返り、進んで盗賊の一員になる。そんな負のサイクルが世界中で起こり、盗賊団の規模が拡大し、『無法者の街』が出来上がるのだ。


 そして最も以外なことに、セイの主観的には無法者と蔑まれる者たちの方が秩序的だった。

 人の世の中では腐敗……というよりも不平等が多く、貴族が平民を殺しても罰金ですみ、平民が貴族から窃盗すれば死刑又は奴隷落ちという不平等が横行している中、この無法者の町では全ての人が平等だ。『領主』も役職に過ぎない。領主の実態は人間社会では財務官に近く、町中の人と物資を管理するため権力が強いが、住民の過半数から辞任願いが提出されれば引きずり落される。


 皮肉なことに、セイの主観的にはこっちの方が民主的と評したいコミュニティだった。

 同時に、民主的でさえあれば無条件で良いものというわけではないなとも強く思ったが。


「おいっ!あそこにいるの、まさかリリの姉御か!?隣にいるのは誰だ?」

「関係ねぇ!前から狙ってたんだ、身ぐるみ剥いちまえ!うおおおおお!!!」


 悠々と歩いていると後方から暴漢が襲ってくる。


――――ズバン。


 セイが腰に佩いた剣を凪ぐと、暴漢の腹部に切れ込みが入り、線が膨れ上がるように爆散した。

 

「うん。確かに俺向きの街だ。金が向こうからやってくる」

「『血風』ですか。噂通りの剣の腕前ですね。お見事です」

「あんたもすごいな。一目で技名が分かるのか」

「ふふっ。これでも元は貴族ですからね。目は肥えているんですよ」


 二人が振り向くこともなく歩いて行くと、周囲にいた者たちが死体の残りを目当てに駆けよっていった。





「そういえば言っていませんでしたが、セイさんには謝らないといけないことがあるんです」

「謝らないといけないこと?そもそも接点が俺たちには無かったと思うが」

「実はあるんですよ。以前アーゼランさんの誘拐を依頼し、セイさんの悪評を広めて八大災禍に数えさせたのは私の策略の結果なのです」

「マジでか。謝って許されると思ってんのか?」

「許してくれませんか?」

「許す。てかぶっちゃけ怒ってもないよ。悪意を持ってそんなことしたわけじゃないのは分かるし」


 名前のない無法者の街の中央、リリの暮らす館の一室にセイとリリの姿があった。

 室内の調度品は品の良いものが揃っており、もてなしに出された紅茶も美味しい。このスラム街の上位互換の様な街で出てきたとは思えず意外である。

 部屋の中心に八つの椅子がある大きなテーブルが鎮座している特徴的な部屋だ。


「ふふ、ありがとうございます。姉さんが好いた人がどんな人か、ずっと気になっていたんです。今の私にとってはあなたを知ることが全て、もっともっとあなたの事を知りたいのです」

「こえーこと言うな……俺がララに好かれていたのは、まあお互い様だけど、あんたもララが好きだったのか?幼いころに家出したっきりだと聞いておぼえがあるけど」

「もちろんです。外の世界に憧れるだけで何もしなかった私にとって、六歳で家出して、そのまま一人で十年以上も生き延びたなんて、姉さんは憧れそのもの。家どころか国消えた今、姉さんの唯一の痕跡を追うことだけが楽しみなんです」

「そっか」


 ニコニコとしているリリを見る。

 嘘をついているようには見えないが、同時に嘘をついてないがゆえに恐怖が湧いてくる。


(正直、怖いから近づきたくないけど……これも学びだ。俺が怖いと思うものを先に理解しておこう。怖いものも楽しめるようになれば、もっと人生は楽しくなる)


 セイは自分自身が好き勝手に生きていると自覚しているため他人の行動も尊重するが、リリの過去しか映していない目を見つめると、少し怖い。

 しかし嫌いでは無い。見た目はララそっくりで好みだし、ララの血縁というだけで優しくする理由には十分だ。


 だべっていると、扉の外から声が聞こえてくる。


「姉御、他の方が到着しました」

「案内して頂戴」


「他の人?」

「ええ。残りの席に着く方々です。あなたを含めて全部で八人います」

「ふーん。どんな奴ら?」

「さあ?」

「知らないのかよ」

「ええ。八大災禍を創るために、リーダーの命令で適当に残りの七人を見繕って揃えたので、直接的な面識は数人しかありません。もとより五年もすれば解散するので、概要だけで十分です。あとで能力は教えてあげますけど、人格は全員悪人だという認識でいいと思いますよ」

「ふうん……リーダー?」

「後で紹介しますよ」

 

 八大災禍、それはトトサワルモ地方で恐れられている八人の怪物のことだ。

 セイのように最近は大人しくしているものもいるが、基本的に独自のルールで行動して人間社会に多大な被害を出し、『災害級』かつ『討伐不可能』の烙印を押されたS級の賞金首に指定されている。


「俺、兵士やってた時くらいしか虐殺はしてないんだけどな」

「十分ですよ。魔物の反乱で死んだハイディ教の司祭たちを盛ってから貴方のせいにして、アーゼランさんをめぐる戦いに尾鰭をつけれて、聖領ユグドラシルの聖獣を倒した話に憶測を塗したんですよね」

「……やっぱり一発殴っていい?」

「私が死んじゃいますからだめです。これからいい思いをさせてあげますから」


 扉が開かれると、二つの人影が見えた。


「早く来すぎたか」

「遅れるよりはいいでしょう」


 片方は鬼のお面をつけた大柄な男性。もう片方は騎士と修道女の中間のような姿の女性。

 武芸者と神官戦士だろうか。


「お待ちしておりました。鬼神衆頭目のゴウキ様に、救護騎士団団長のミレイユ様ですね。どうぞお掛けになってお待ち下さい」


 立ち上がって一礼するリリ。随分と様になっているが、以前は貴族の侍女でもしていたのだろうか。


「では遠慮なく。他の面々はまだなのか?」

「はい。皆様ご出席してくださるかも分かりませんが」

「だろうな。ところでうちの奴らが泊まっている宿のことなのだが……」


 ゴウキという人物は真面目なのかリリを質問攻めしている一方、ミレイユという人物がセイに話しかけてきた。


「初めまして、【暴竜】。アルカディアの件では私の部下が感謝していたの。代わりにお礼申し上げるわ。本当にありがとう」

「アルカディアの件……?」


 何やらセイに感謝しているようだが、生憎と思い至らなかった。

 しかし胸元につけている、本来なら信仰している神のシンボルマークを入れるプレートが白紙なのを見て、何かを思い出しそうだ。


「覚えていないかしら?私たち救護騎士団は信仰の隔たりなく人々を助ける義勇騎士団。アルカディアで魔物の反乱が起こった時、率先して人々の盾となり、治癒の力だ多くの人を救ったと報告を受けています。

 そんな貴方の姿に理想を見出した同胞が大勢いるの。彼らに代わって、貴方に感謝を」

「ああ!あの時か!」


 礼儀正しく握手ための手を伸ばすミレイユに握り返すセイ。


 頭に浮かぶのは天界都市アトラスでハナビを育てていた時の話。

 セイは基本的に善行を尊ぶ価値観を持っているため、ハナビにもそういう道徳を教えようと善行を意識して行っていのだ。そんなある日空の聖領アルカディアが氾濫したため率先して戦い、けが人は膨大な魔力で治したことがある。


 仮にも父親なのだから子供にはかっこいい背中を見せたいというセイの子育て倫理を意識して行っていたので、周囲で誰を助けたとかは覚えていなかったが、おそらくはその中に救護騎士団のメンバーがいたのだろう。


「感謝はいらないよ。俺が勝手にやった結果誰かが助かっただけだから」

「それでも、だ。しかしこれ以上感謝の言葉を重ねるのはあなたへの礼を欠く。感謝の気持ちは今後の我らの行動で示すとしよう。この街に居るならまた会うこともあるだろう、では」


 去っていく後姿に、セイは憧憬の念の様なものを覚える。

 見返りを求めず、涙を見逃さず、救いを求める声に応える騎士団。かっこいいし尊敬に値する。

 

(しっかしなー‥‥‥ここにいるってことは、彼女もやべーやつってことだよな)


 ここは無法者の街で、この部屋に入れるのは八大災禍と領主のリリのみ。


 ハイディを神々の長として認めない者も無法者と呼ばれるとはいえ、無法者と呼ばれるに足る理由があるのも事実だ。

 救護騎士団、弱気を守り、平和を愛するが、平和的な解決が見込めないなら敵対陣営を皆殺しにするという噂もある。気を抜けない相手だ。


 そのまま四人で雑談をしていると、リーダーが演説する時間になった。


 なお、結局他のメンバーは姿を現さなかった。





 夜が更ける。街の北側にある大宴会場に町中の……いや、世界中から有力な無法者たちが集まっていた。


「壮観だな」


 セイは高い位置にある窓から地上を見渡すと、その視界には雑多な人間だ血が映っていた。


 受肉した悪魔に天使、武芸者、冒険者、救護騎士団、破落戸、盗賊、獣人、ダークエルフ、巨人、魔人、魔族、快楽殺人鬼、などなど、知っている顔から知らない顔までたくさんいる。

 それも当然だ。ハイディ教はこの世界の最大勢力だが、せいぜい人類全体の三割程度。他の勢力と比べて相対的に強いため頂点に見えるが、『その他』である残りの七割を集めれば上回るのは道理だ。

 

 がやがやと声が大きくなると同時に、宴会場の一番目立つ舞台の上に一つの人影が浮かび上がる。


 あれが俺たちをここに集めた奴か。誰もがそう理解したと同時に、視線が腹部に集まった。


「妊婦?」


 その女性は腹部が大きい。それも、妊娠しているのだと直ぐに分かった。

 そして一瞬遅れて引きずって連れている男の存在に気が付き、セイはその正体まで思い出した。


 たしか、名前はアトナテス。アトナテス・ヒナルラ。

 皆殺しにされたヒナルラ国の王族の、唯一の生き残りだ。


「聞け、お前ら。俺はアデライド。この世界をひっくり返す女だ」


 声が重い。重力の様に耳を引く声だ。


「今の世界に、お前たちは満足しているか?人は生まれた時から不平等だ。大抵のやつはゴミみたいな場所で生まれ、育ってから誰かに虐げられる。ここに集まった奴はたいていがそういう奴だろう。

 だが、全部をひっくり返す手段が、ヒナルラ国にある」


 ざわめきが広がる。そんなものがあるのか問いかけるように。


「生命の勇者の作った三大兵器、空の怒り。トトサワルモ地方の南半分を吹き飛ばした究極の兵器だ。鍵はヒナルラの王族、つまりはこの男と……私の腹の中にある。そして!これで一つ!」


 そういうと彼女は、アトナテスの首を握力で捻じり切った。


「ヒナルナを分捕るぞ!秩序の神を殺し!俺たちの世界を始めるんだ!すべてが平等の、力こそ全ての世界!

 リーダーは俺!幹部の席は八つ!この世界の全てをぶっ壊せる戦力が、ここにある!不満のある奴はいつでも殺していい!さあ始めよう、暴力の世界を!」


 視界の中で全ての生き物が歓声を上げる。

 過去に怒る者か、それとも世界を取る野望のためか。誰もが混沌とした未来に目を輝かせている。


「あっはっはっはっは!!!!!!!」


 そしてセイもその中で爆笑していた。


「野望のために妊娠して夫を速殺すって馬鹿かよあいつ!狂いすぎだろ!」


 セイは善良であることを良しとする。善良な行いをすることが尊いと考えている。

 そのうえで、善悪など放り捨てた絶対値の大きさも魅力的に感じるのだ。


「馬鹿すぎて最高だな。よし!俺も好きにやるか!」


 そう声を掛けた後、劇場に飛び降りてアデライドに襲い掛かろうとした受肉天使を焼き殺した。


 今日、ようやくセイは暴力に満ちた人の世界に足を踏み入れた。

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