第36話:最凶の賞金首
ジャンク・ボブチャンチンは賞金稼ぎである。
賞金稼ぎというのは、悪人を捕まえて欲しいという需要があって初めて成立する職業だ。だからある意味彼は、悪人に感謝していた。
彼の持つ『異能』にかかれば、基本的に負ける事はなかったし、正義感で行動などしていないにも関わらず世間からは賞賛された。その度に高揚感、満足感を刺激されてきた。
だが遂にはただの賞金首では物足りなくなっていた彼は、明らかに強い相手のみを狙う様になっていった。その中の一人に彼女はいた。
『今世最悪の魔女』
『誰かこいつを殺せ』
『魔王より性質が悪い』
女であった。女であるのに、どこの依頼所を探してもこの女を上回る額の賞金首はいなかった。
一生遊んで暮らせるどころか、二、三回転生しても遊んで暮らせそうな額であった。
この女が、世界最強という事らしいと、ボブは結論づけた。
最強の相手となれば、最高の立ち回りで相手をしなければならない。
住居を割り出して寝込みを襲うのが上策。しかし一向に住処が掴めない。自分への情報をばら撒くほど甘い相手ではない様だ。
暴れたい時に街に現れて、実験と称して大被害をもたらし、去っていく。
ボブは何度かその漆黒の姿を拝見したが、追跡には失敗した。気づかぬうちに姿が消えているのだ。まさしく、得体の知れない相手であった。
神出鬼没過ぎて虚を突く事が出来ない。
かと言って正面から行って殺そうにも、最凶と言われる魔女だ。逆に殺される可能性が出て来る。
ならばどうするか。唸っていたところで、トーナメントの話が舞い込んで来た。
***
ボブは神の座はおまけ程度にしか考えていない。この大会には、リリィを殺すために参加したのだ。
まさか一回戦で当たれるとは思っていなかったが……。
ボブがリリィを殺すのに選んだ手段は『狙撃』であった。
実はこの一回戦以前にも、ボブは何度か彼女を狙撃しようとしていた。しかし彼女は常に勇者か魔剣士をガードに使い、死角からの狙撃を防いでいた。ばれているのではないかと思う程、ドンピシャな位置に隠れるのだ。
だから狙うなら、一人で現れる試合開始寸前しかなかったのだ。
会場観客席、最上段からの狙撃。ボブの異能の一つである射撃精度からすれば、確実にヘッドショットが決まる、はずであったのだが。
「あら、血が出てるわ……蚊がいたのかしら?」
リリィは額部から一筋の血を流しているのみ……つまり掠っただけ。
ボブは失策を悟る。「狙撃しやすい位置」を選びすぎた。角度といい高さといい遠距離射撃に最適なこの位置は、眼の良いリリィからも標的を見つけやすいポイントであったのだ。
「降りて来なくていいわよ。そのままジッとしてな」
「え……」
そのセリフを終えてから光球がボブの目の前に飛んでくるまで、二秒もかからなかった。
「う、うわああああ!!」
叫んだのは観客である。せっかく戦闘神が制定したルールを、リリィはいとも簡単に破りに来た。
観客席に紛れ込んだボブに対して、観客ごと光球で殺す選択をとったのだ。
そして、爆発は発生した。
「ぬおっ!!」
横っ跳びと転がりで間一髪、爆風をかわすボブ。
そしてボブとシンクロした動き(凄い)を見せたのは観客達だ。幸い、爆発の規模に対しては奇跡的に死者はいない模様……。
「ふざけんなクソ魔女! 失格だ!」
「うるさいな~三下どもが……『観客を傷つけてない』んだから失格にはならないのよ。残念でした~」
「だ、誰か怪我した奴いねぇのか!? あのクソアマを失格処分にできるぞ!」
しかし、軽症者すらいなかった。リリィはブチギレた様に見えて、光球の力と爆発位置をしっかりとコントロールしていたのだ。
観客は皆、一斉に戦闘神を見る。きっと、彼なら正当な裁きをしてくれると期待して。
「む? 何を見ておる。続行だ続行!」
戦闘神はこの程度では動かない。動くとしたら実際に死人が出た時ぐらいだろう。「戦闘が面白ければ」何でもいいのである。
「坊や、私は別に怒ってるわけじゃないのよ?」
説得力の無い形相で魔女が語り掛ける。
「むしろ、それしかないだろうと思っていたわよ。あなたが、あんた如きが私を殺そうと思ったら、こそこそ狙撃するしかないじゃない。ねぇ?」
リリィの手元に再び光球が現れる。先程はリリィを注視していたのに紙一重でしか躱せなかった。球速が思った以上に速かったためだ。
ならば今度はどうやって回避するか。その答えは、原始的かつ効果的なものだった。
――とにかく、動く!
「な、何ぃぃぃ!?」
観客が絶叫する。それもその筈。ボブは、体から火を噴き出し宙を浮き始めたのだから。
「へぇー……いいんじゃない?」
その異能を見てもなお、魔女は左手に光球を掴んだまま、不敵に笑う。魔女スマイルであった。




