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第21話:飛び跳ねる龍

 その跳躍の高さは、チョーの予想を遥かに超えるものだった。


「どんな足腰してやがるんだ!」


 槍を構えるも空中にいるショウは、届かない高みにいる。

 しかし、それは飽く迄一瞬の事だ。いずれは重力に負け落下して来る。そのタイミングで槍を突けば終わる。


 だが、落下速度を利用したショウのダウンスイングの威力はチョーの槍をも凌ぐほどであった。


「ぐっ」


 槍で直接ガードしたチョーの腕が痺れる。体格の差を補ってなお余りある威力の槍撃。

 つまりそれほどの高さから振り下ろしたのだ。


「さすが、竜騎士と言われるだけあって凄い跳躍力だ」

「う~ん、でも伝説通りの強さではないよな……」


 半信半疑の観客の声を置き去りに、ショウは再び跳ねた。


 ――おっと、向こうから罠に掛かってくれたよ。


 チョーは自分に都合の良い展開に、思わずニヤけてしまう。

 跳躍からの攻撃というものは、実はあまり恐くない。飛んでいる最中は移動方向ベクトルを変える事ができないからだ。

 戦い、特に接近戦という物は、一瞬一瞬の臨機応変な取捨選択が求められる。つまり飛んでしまえば行動が制限される分、かなりの不利となる。

 一度目は面食らってしまったが、二度目はない。ジャンプに対して後の先を取る事など、百戦錬磨のチョーにとっては朝飯前なのだ。長槍の刃が光る。狙いは的の大きい腹部だ。


「貰ったぞ、デュマペイル!」


 ショウの落下点を見極め、地面に落ちるギリギリの所で槍を突く。当然、空中で身動きの取れないショウはかわす事などできない。そして槍の切先が腹を貫いた。……様に見えた。しかし。


「手応えが、ねぇ!」


 串刺しにしたはずだった。鮮血が飛ぶはずだった。だが、その手にズシリと残るはずの『刺の重さ』がない。


「何を突っ立っているのだ、ヒリュウ将軍」


 その声に振り向く間もなく、チョーは横転していた。チョーの立っていた場所に槍先が出現した。

 ショウの打突だった。とっさに避けなければ、逆にチョーが突き殺されていた。焦燥を孕んだ顔で、チョーがショウを睨む。


「貴様! 何故、あの攻撃を避けられた!?」

「教えてあげるほど、俺はお人好しではない」


 ――いいや、あんたはお人好しさ!


 仕掛けた会話は、次の攻撃へのプレリュードであった。無予備動作ノーモーションから繰り出された脛狩りは、完全にショウの虚を突いた。


「ちっ、油断できない奴め」


 ショウは三度飛び上がり、脛への薙ぎ払いを避けた。だが、これこそがチョーの本当の狙いである。


「今度こそ、かわせねぇ!」


 そう、相手を空中に飛ばせてしまえば、後は落下を狙って刺すだけ。それだけ。それだけの筈なのだ。

 チョーの仕掛けた攻防は限りなく正解に近い。ただ唯一の失点は、彼の相手が……。


「貰っ……た……!?」


 無翼飛龍ウイングレスドラゴン、ショウ・デュマペイルであった事だった。

 チョーの必殺の槍はまたしても空を切った。何故なら、対象が落下して来なかったから。


「落ちて……」

「来ない!?」


 何が起こっているのか、観客が理解する間に、ショウはチョーの首目がけて斬りつけた。


「空に……」

「浮いている!?」


 理解した頃には、チョーの鼻先から血が噴き出していた。


「ほう、あれを鼻の傷だけに留めるとは、やはり俺の見込んだ通りの強者だよ。ヒリュウ将軍」

「お、お前、一体!?」


 ただ強いだけの攻撃なら、今まで幾らでも、何人相手でも耐えて来た。

 しかしこんな得体のしれない相手には、いくらチョーでも耐性など持ち合わせていない。


「この姿を見た者は消す。それが我が戦の掟だ。申し訳ないが、あなたには消えてもらう」


 伝説の竜騎士ショウ・デュマペイル。風魔法の体現者。

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