17話 平和な朝と、不穏な影
くしゃみのせいでどっかに飛ばされた自宅は、精霊達の頑張りもあって元通りに戻った。
無事に戻ってきた家のベッドで眠って、次の日の早朝。
「ふぁ〜あ……あ?」
気の抜けた声を発しながら家から外に出た私は、外の光景を見て目を丸くして驚いた。
「なんか町が出来上がってる……!?」
私が遊んで寝ていた間に、私のいるクレーター跡地は随分と賑やかになっていた。
私の家から伸びる道を真っ直ぐ進んだ先には、木造建ての食べ物のお店がずらっと立ち並んでいて、奥にはスーパーらしきものまで見える。
「天国だぁ……!」
私は大急ぎでお店の並ぶ道へと移動すると、道の真ん中を歩いて食べ物のお店を眺めた。
サンドイッチ、ジュース、揚げ物、アイス、ケーキ、などなど……
「すごい……!」
どこから材料を調達したのか分からないけど、絵に書かれた料理やショーケースに並ぶ品々はどれも美味しそうだった。
「なんか旅に出てるみたい……!」
なんてのんびり眺めている間に、お店通りから外れて広場の前に到着。
広大な広場には大きなガーディアンがいて、精霊達の遊び場になっていた。
「楽しそうだねぇ……あっ!」
私もひと遊びしようかと思案していたところで、広場の真ん中にある噴水に腰掛ける背の高い人物を発見した。
あれはまごうことなき、魔法の大精霊アンダさんだ。
「アンダさん、おはよ〜ございます!」
私はアンダさんに駆け寄って元気よく挨拶をした。
「……おはよう」
私の挨拶に反応したアンダさんは、どこかぎこちない表情のまま返事をする。
「アンダさん、朝のお散歩ですか?」
「……景色を眺めていた」
「いいですよねこの広場、いつの間にか自然豊かになって綺麗に整備されて……」
「……」
異世界の植物で溢れる広場から目を逸らしたアンダさんは、静かに私を見つめている。
「そうだ。アンダさん、朝食は食べました?」
「……あの食べ物の店を、シロボシと回ってみたい」
アンダさん、どうやらあの立ち並ぶお店に興味を示したみたい。
「……本当は、シロボシと朝食を共にしたくてここに来た」
「そうだったんですか?」」
「ここに来れば、シロボシと会える気がした。だからここで座ってじっとしていた」
「私のこと待ってたんですね」
アンダさん素直だね。
「私もちょうどあのお店を回りたかったんです! アンダさん、一緒に朝ごはん食べに行きましょう!」
「……」
私の言葉を聞いたアンダさんは無言のまま頷くと、食べ物屋さんのある通りに向かってゆっくりと歩き始めた。
私は歩いてアンダさんの後を追って、アンダさんの隣で歩くことにした。
「どれも美味しそう……」
「……」
「私はサンドイッチ屋さんのカツサンドにしようかな? アンダさん、何か気になる食べ物はありましたか?」
「……パン」
アンダさんはサンドイッチのお店を指差した。
ボリュームのある具が沢山入った、とても食べ応えのありそうなサンドイッチだ。
アンダさんはその中で、特にボリュームのあるステーキが挟まれたサンドイッチの絵を指差していた。
朝からヘビーなもの食べるね。まあ、カツサンド選んだ私も大概だけども。
「おぉ! いいですね! 私はカツサンド3つと……追加でケーキとか食べちゃおうかな! アンダさんはデザート食べます?」
「アイス」
「いいですねー! じゃあ注文しちゃいましょうか!」
そんなこんなで私達はスムーズに料理を注文。近くにあった食事スペースのテーブルについて、アンダさんと会話しながらしばらく待った。
「アンダさんはどんな食べ物が好きですか?」
「肉」
「いいですよね、肉……私もがっつり系は大好物で……あ、料理だ! ありがと!」
なんて会話をしている間に、お目当ての料理が精霊達の手によって運ばれ、テーブルの上に並べられた。
「美味しそうなカツサンド……!」
私の前にカツサンドが並ぶ。アンダさん側の席にはボリュームのあるステーキサンドが並んでいる。
「……」
そんなアンダさんはステーキサンドに目を向け、私のカツサンドにも目を向けている。
「あ、もし良かったらカツサンドひとつ食べますか? カツサンドは複数注文したから、ひとつ譲れますよ!」
「……俺のステーキと交換してほしい」
「いいですね! では、そちらのステーキサンドと私のカツサンドをひとつずつ交換しましょうか!」
そんな感じで、私達は美味しい朝食を堪能した。カツサンドはすごく美味しくて、ステーキサンドもこれまた格別に美味しくて……これなんのお肉なんだろう。
デザートも最高だった。あっという間に食べ終わって、
「いやぁ、最高だった……!」
「……」
満足した私は、食事前からずっと大きさの変わらない丸いお腹をさする。アンダさんはそんな私の姿をじっと見つめている。
「シロボシ」
「あ、どうかしましたか?」
「用事ができた。ここでお別れだ」
「あ、分かりました!」
私に断りを入れたアンダさんは、その場から静かに立ち上がった。
「アンダさん、また今度!」
「……また、今度」
アンダさんは私の挨拶に一言返すと、私の前から一瞬にして姿を消した。
「……さてと、腹ごしらえに修行しに行こうかな?」
「シロボシ様」
私も移動しようと立ち上がったところで、シリウス師匠が食事スペースに顔を出してきた。
「あ、シリウス師匠だ! おはよう!」
「おはようございます。アンダ様とは上手くいってるようで。ところで……」
シリウス師匠は私を見つめながら話を続ける。
「話は変わるのですが、シロボシ様の異世界での目的を改めて伺ってもよろしいでしょうか?」
「私の目的?」
「はい。貴方が異世界でやりたいことです」
今更そんな分かりきったことを……
「私が異世界でやりたいこと、それは周りにお世話されながらのんびり暮らすことだよ」
私はシリウス師匠の前に移動しながら話をする。
「子どもの頃のさ、誕生日にケーキとプレゼントを貰う時のあの感覚かな? あの頃のやつをずっとやりたいんだよね」
「前世の話ですね」
「そうそう。車に乗せられてデパート行ったり、遠くにある遊園地に連れてってもらったりするような……」
「つまり、シロボシ様はその実現のために可愛らしいお姿に変化していると」
「その通り!」
可愛い存在になれば、私を保護して徹底的に可愛がりたい人は必ず出てくる筈!
まあ、自分が作り出した精霊だけに可愛がられるのが1番安全だけどね。
まあそれでもいつかは人前に出たい日が来るかもしれないから、人間達を怖がらせるような怖い姿よりも可愛らしい姿を選んだわけだね!
「……本当ですか?」
「えっ?」
「貴方は、本当にそれだけが望みなのですか?」
まあ、いつかは他にも色んな望みは出てくるだろうけども……
「……今日この日までに、可愛がられるよりも、もっと心躍る光景があったのでは?」
「……?」
「シロボシ様は何度か経験している筈です」
この数日の間に、そんなことあったかな……
「……あっ! 分かったかも!」
私が可愛がられるのとは別でやりたいこと! それは……
「可愛がられたいとは別でさ、魔法少女のマスコットの立場にもなりたいんだよね!」
「……」
目の前のシリウス師匠は黙ったけど、私は気にせず話を続ける。
「魔法少女達がオフでどっか遊びに出掛けたり、お泊り会する現場に混じったりとかさ。そういうのやりたい」
「……魔法少女ではなく、マスコット側になりたいのですね」
「当然でしょ。魔法少女よりも……」
なんて話をしていたら、遠くで甲高い悲鳴が発生した。
「何!?」
「あれはキラナの悲鳴ですね」
「一体何が……!」
悲鳴が上がった場所に目星をつけた私は、大急ぎでその場所に向かってワープをした。
「よっと!」
飛んだ先は広場。周りで遊んでいたっぽい星の精霊達はみんな同じ方向を見つめている。
その精霊達の視線の先には……
「オーラちゃん! ストップ!」
「キラナ先輩止めないでください。これはこの街の為でもあるんです」
ホウキで何処かへと飛んで行こうとする魔法少女オーラさんを、魔法少女キラナはホウキを強引に掴みながら必死に止めている光景が。
「……何してんの?」
「シロボシ助けて!」
キラナは私に気付いて、慌てて声を掛けてきた。
「オーラちゃんが……! このクレーター跡地に近づいてくる冒険者を消し飛ばそうとしてる!」
「当然です。彼らはエルフの息が掛かった冒険者です。我々の敵も同然の自然支配派が精霊の街に来るなんて、悍ましいことこの上ないです」
「自然支配派……?」




