CASE 014: 最後に声を遺した部屋
記録者
GIAラディアン支部
ヴェイル・ネストロフ
基本情報
事件名: 最後に声を遺した部屋
発生日時: アイオス暦1512年8月2日 午後11時10分
通報者: 宿泊施設スタッフ(巡回中に異常を発見)
事件場所: ラディアン王国北部 山岳地帯 高所庁舎「オルデン・サイト」13階
事件状況: 解決
被害者:
名前:ミーナ・アスロット
年齢:24歳
職業:気象調査員
住所:ラディアン王国 気象局 北部観測班所属
死亡時刻:午後10時45分頃(推定)
死因:転落による即死(頚椎および頭部損傷)
事件概要
GIAが管理する高所庁舎「オルデン・サイト」の13階にて、気象調査員ミーナ・アスロットの遺体が非常階段下にて発見された。
部屋は内鍵がかけられ、遺体は部屋の外。現場には争った形跡がなく、他の宿泊者も不在だった。
しかし、彼女がGIA備え付けの携帯型観測記録装置を作動させたまま記録を残していたことが判明。
その中には、「自分は監視されている」「誰かがドアの外にいる」といった音声が記録されていた。
現場到着と検証
23:16 スタッフが異常報告、GIAラディアン支部へ通報
23:28 捜査員が到着、現場封鎖および初期記録の回収
23:34 携帯型観測記録装置(VO-94A)を机上に発見、音声記録が有効状態
23:39 音声再生開始。記録時間は20分間で、発見時間の直前まで持続
23:45 音声にて、被害者が「誰かが部屋の外にいる」「階段がきしむ」と語っているのを確認
23:47 終盤に激しい物音、悲鳴、その後の転落音が録音されていた
現場検証の結果
・室内に侵入の形跡なし、内鍵が閉まった状態で現場保存
・廊下の防音効果が高く、外部の足音や声は通常記録されにくい
・記録装置のマイク感度が特殊な音域に対応しており、通常人間に聞こえない周波の振動も捉えていた
・記録音声を波形解析した結果、「階段のきしみ」「人の足音」が微細な形で記録されていた
・被害者はパニック状態で部屋を飛び出し、非常階段から転落した可能性が高い
犯人の特定と供述
被疑者は、被害者の上司にあたる気象研究員カーヴィン・スレイド(41歳)。
被害者と過去に口論していた記録があり、さらに部屋の上階(14階)に無許可で滞在していたことが発覚。
彼は「部屋を訪れてはいない」と主張したが、
記録装置に記録された足音のリズムと彼の歩行癖が一致したため、GIAによって拘束された。
供述では、以下のように語っている。
犯人の供述
ああ……見つかってしまったか。
そう、私は行った。
だが、殺す気はなかった。
ただ話がしたかったんだ。あの晩、彼女が何かを知ったような気がしてね。
けれど、ドアを開けたくない様子だった。
仕方がない、だから立ち去った。……それだけだ。
でも彼女は怯えていたのだろう。私の気配が残っていたのかもしれない。
音がした?……ああ、たしかに階段で少し足を滑らせた。
その音が彼女の恐怖を煽った?
――ならば、私は殺していないが、彼女の死に関わったことになるのかもしれないな。
裁判結果
アイオス暦1513年3月3日、ラディアン高等裁判所にて以下の主文が下された。
主文
被告人カーヴィン・スレイドを、過失致死罪および業務上威圧行為により有罪とし、
禁固8年の判決を下す。
ただし直接的殺害行為は認められないため、殺人罪は不成立とする。
所感
人は、姿なきものを恐れる。
記録装置は、彼女の声と、彼女が感じた“気配”を残していた。
それだけが真実の手がかりだった。
記録されなければ、それは“なかったこと”になる。
私たちは記録によってだけ、死者と語ることができる。
アイオス暦1513年3月8日 GIA本部にて事件記録受理。




