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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第五章 プロイセンの夢
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83 相互援助会


「えっと、あっちのおじさんが、《そうごえんじょかい》とかがあるから、暫くの生活は大丈夫だって」

「そうごえんじょかい?」


 銀髪の少女の指さす方向を見ると、そこには一人の銀髪の男性がいた。







 一人の銀髪の男性が被害に遭った町人たちに呼びかけて、何やら説明してるようだ。

 男性は周りの町人に一人ずつ話を掛けて、被害の状況と損失を聞き回っている。

 暫くしたら俺たちのほうに向かってきた。


「あ、協力してくれた探索者っていうのは君たちのことですね、皆から話を聞いているよ、若いのによくやるね、本当に助かりましたよ」


 気の良さそうな男性は俺たちを見かけるなり、早足で歩み寄って話しかけて来た。


「はい、そのことなんだが」

「ああ、報酬の事なんですかい? すみませんねえ、如何せん正式な依頼ではないから、今はこれくらいしか出せなくて。足りないのは知ってますけど、名前と連絡先を教えてくれたら後で届けに行きますんで」


 そう言って、男性は十枚くらいのの金貨を取り出す。

 俺は慌ててそれを止めた。


「いや別に報酬はいらないよ、それより、この子の生活を支援するって聞いたけど」

「ああ、私はダーントと言います。《ブライデン人相互援助会》の者なんです」


 ダーントさんの話によると、《ブライデン人相互援助会》とはプロイセンに限らず、ルイボンド全土のブライデン人によるブライデン人のための相互援助を旨とする組織である。

 普段の業務は優秀な人材がちゃんと教育を受ける様に支援をして、天災があった時は災難に罹ったブライデン人の救助やアフターケアを主にする組織、だそうだ。


 ダーントさんの話を聞いて、俺は驚いた。

 ブライデン人は商売に長け、フォルミドとの貿易のお蔭もあって裕福な人が多いと聞いたけど、まさかこんな組織があるなんて。

 邦連制であるルイボンドが一つの政治体として機能を成していないからこそ、少数民族のブライデン人が邦の枠を越えて相互援助しなければならないのかもしれない。

 でもそういうことなら、この子達も暫く路頭に迷わずに済みそうだ。


「そうなんだ、ではこの子達も援助を受けられるのね?」

「はい、そうですよ。今は戦争中につき物資の流通が遅滞していますが、それでも最低限の生活は保証しますよ。ゆくゆくはこの邦を出て、ブライデン人と友好関係を結んでいる邦に移住することもできますよ」

「プロイセンを出るの?」

「はい……」


 ダーントさんは周りを気にするそぶりを見せ、声を潜めた。


「皆さんはルイボンドの探索者ではないみたいですね。実はルイボンドの中でも、プロイセンは特にブライデン人を排斥する傾向があります。それでもフォルミドとの貿易で大きなメリットを出してきましたが、今回のように実力行使を出るようになりましたら、本格的な撤退も考えざるを得ませんね」

「ブライデン人を差別している風潮があるのは知っているけど、この襲撃もそうなのか?」

「さきほど軽く被害の状況を聞きまわしていますけど、ルイボンド人も被害を受けていましたが、全体的にブライデン人のほうが多いですね」

「そうか……それなら邦を出るほうが良いんだな」


 俺は三人姉弟のほうを見る。彼女たちは俺とダーントさんの話をよく飲み込めないようで、首を傾げて佇んでいる。


「この子たちを心配しているのですか?」

「まあ、そうなんだが、俺たちでは力になれなくて、ダーントさんみたい人が居てよかったよ」


 俺は少しホッとした。

 ダーントさんは俺と姉さんの顔を交互に見て、口を開いた。


「もし良ければ、お名前を教えて貰えます?」

「いや、報酬なら本当に要らないんで」

「いや、そうではなくてですね。さっき皆さんはかなりの腕を持っていると聞きましたよ。何より皆さんの人柄は私から見ても信頼できると思います。私たちはルイボンド全土で活動していますので、有能な協力者はいつでもウェルカムですよ。それにブライデン人は借りを返すのが信条でね、今度は大きな貸しを作ってしまいましたから、ちゃんと返してあげないといけません」

「そういうことなら……俺たちは《フィレンツィア》、俺はフィレン・アーデル、こっちは姉のレンツィア」

「はい、《フィレンツィア》のアーデルさんですね、。では、私はまだ他の人のところにいかねばなりませんので、お先に」

「はい、俺たちもそろそろ」

「お嬢ちゃん、何か困ったら西の城門のところにある相互援助会に来ると良いよ、ダーントおじさんって言ったら皆分かるから、いいかい?」

「あ、はぃ……ありがとうございます……」


 ダーントさんは銀髪の少女の頭を撫でて、来るのと同じで早足で行った。

 その後、俺たちも三人の姉弟に別れを告げ、宿に戻った。






 

 宿に戻ったら、ローザちゃんが心配そうに俺たちの部屋の前で待っていた。

 目の下には隈がついて、どうやら寝てないようだ。

 夜中の爆音から倉庫と城門の戦闘、その後は鎮火で町全体が騒いでいるから、仕方ないか。


「フィレンさん!大丈夫なんですか?」


 俺たちを見るなり駆け寄ったローザちゃん。


「ああ、俺たちは大丈夫だ、しかし最近は無闇に出歩かないほうが良いかもしれないな」


 まだどこかに襲撃者が潜んでいるかもしれない。

 そして災害の後は治安が悪いのはよくあることだし、またガラの悪い連中に絡まれたりしたら大変だ。


「それは、どういうことなんですか? 昨夜の爆発と関係があるのですか?」

「そうだな……」


 俺は昨夜の襲撃を簡単に話した。

 国境兵の異常な様子とアンデッドのことをボカして、ただ非常に残酷な兵士だと伝えた。

 しかしローザちゃんにとっては俺が思ったよりも衝撃がデカかったらしい。


「そんな、西の国境の兵士は姉上の配下なのに、民を襲うなんて……!?」


 そういえばコーデリア大尉の部隊は元々国境をパトロールしてる途中で、スロウリダンジョン(仮)に閉じ込められたんだ。

 ということは、昨日斃した敵の中には、あの時助けた兵士たちも居たっていうことか。

 ダンジョンで彼らを見つけた時、彼らの喜びの表情を思い出して、なんとも言えない気分になった。


「フィー君仕方ないわ、彼らは異常だったもの」


 俺の考えを見抜いたか、姉さんは俺の腕に自分の手を絡ませてきた。

 たしかに、手足を押さえつけてもそれを引き千切って襲い掛かってくる敵は殺すほかない、ましてや昨夜は緊急事態だ。

 たとえ一度助けた人達だと知ったとしても、俺は殺すを選ぶのだろう。


「ああ、分かってるさ」

「あの、昨夜の時、姉上もそこにいましたか……?」


 青白い顔で、恐る恐ると訊いてくるローザちゃん。


「いや、いなかったと思う、城門のほうは知らないが、あの人は有名人だからもし居たらこっちにも伝わるはず」


 元々怪力で二本の戦斧を振り回すコーデリア大尉が、もしあいつらみたいに謎の力を得たら被害がこんなじゃ収まらないだろう。考えただけでぞっとする。


「そう……なんですか」


 複雑な顔で溜息を吐くローザちゃん。

 姉は襲撃の一員じゃないと知って安堵したか、それとも姉と会う機会がなくて落胆したか。


 しかし、もし昨夜の国境兵があの時の兵隊なら、あの不気味な暴力性がますます怪しくなってきた。

 短い間しか接してなかったけど、皆士気高くて気の良い人だった。

 たとえ命令で民間人を襲うことがあっても、進んであんな残酷な事をするとは思えない。

 そもそもあの《共喰い》は普通じゃない、まともな人間がすることとは思えない。


 それとあの欠片の光もだ。

 持ち主が死んだらナタボウに吸い込まれ紫の光は欠片の象徴だと見て間違いないだろう

 しかしダンジョンで彼らと会った時、そんなものはなかった。

 ダンジョンに閉じ込められた国境兵の中に欠片の適合者は一人もいなかった、これは確信をもって言える。

 リースは七歳の頃に欠片の力が発見されたって言ったから、ダンジョンに居た頃はまだ覚醒しておらず、後から欠片の力を身につけたのならありえなくもないが、全員がそうなのは考えづらい。

 まだ何か、欠片について俺たちが知らないことがあるのか。


「まあ、とりあえず暫くの間、一人で外出するのは控えたほうが良いかもしれない。出かける前に俺たちに声かけてくれ」

「はい、分かりました」


 ローザちゃんも事態の重大さを理解しているのか、顔が強張っいる。

 できれば早くローザちゃんを家まで送ってやりたいが、貿易の許可を得ている隊商(キャラバン)ならともかく、一般人じゃそもそも町を出ることさえも叶わないのだ。


 勿論今の守軍なら強行突破もできなくはないが、意味がない。

 ブライデン町を出たとしても、ローザの故郷の町に戻れなくなるからだ。


 そして、昨夜の襲撃に関してブライデン町の守兵は何も知らないようで、今のところは国境兵の暴走である可能性が高い。

 しかしそれでも裏にプロイセンの上層部が絡んでいないとは限らない。

 これからプロイセンはどうなるかって考えると、払拭しきれない影が心に落ちていた。


「ところでローザちゃんは《ブライデン人相互援助会》を知っている?」

「ええ、存じております。ブライデン人を手広く援助している立派な方々です。チェルニー家もほんの心ばかり寄付していますよ」


 ふむ、どうやらダーントさんの話は本当らしい。

 まあ、偽物ならそう簡単に金貨を出さないだろう。


「どうやら彼らはブライデン人をプロイセン邦から撤退させようとしているらしいが、ローザちゃんも付いて行ったらどうだ?」


 俺は軽く提案するつもりだが、ローザちゃんの反応は大きかった。


「いけません! 我がチェルニー家は代々皇帝の剣となるべく、忠義を貫いてきました。この大事な時にこそ臣下として皇帝殿下を付き添い、その命を叶うべきでございます。殿下を放っておいて、ましてや邦を去るなんて、決してなりません!」

「お、おう……」

「ご、ごめんなさい、ついカッとなって」


 激しい剣幕を見せるローザちゃんはしかしすぐにハッとなって頭を下げて謝った。


「大丈夫、気にしてないよ。ローザちゃんは本当に真面目だね」

「いいえ、これも姉上の教えですから……」


 こんな状況でも貫く忠義って一体どういうものなのか、俺には想像できないが、どうやらコーデリア大尉とローザちゃんには、よほど大事なものらしい。

 慌てて謝りながらもしっかりと姉の教えに誇りを持っているローザちゃんを見て、俺はなんとなくそんなことを思った。


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