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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第三章 死に至る病
47/229

47 突入

 

 レキシントン先生のお蔭で、ルナとスーチンが《マエステラの大機関》にいるのを判明した。

 《マエステラの大機関》はここからそれなりに離れているのに、数時間でもう中に入ってるなんて、俺たちと同じ、何か特殊な移動手段でも持っているのかな。


「なるほど、ダンジョンに拠点を構えているというのですか」


 レキシントン先生が感心してるように頷く。


「そんなことできるのですか?」


 姉さんが訊いた。


「普通はできないでしょうね、ダンジョンの中にはモンスターが大勢いますし、探索者に発見される可能性だってあります。ダンジョンの構造を変えて、部屋を作ることはできますが、人が数人生活できる空間となればかなり大きくなければなりません、それにダンジョンはドラゴンの魔力によってある程度の形を維持していますから、変えるのが難しく、そのうち元に戻ります」


 たしかに、ダンジョンの壁や扉は頑丈で、しかもいくら徹底的に壊されても、数日か半月で元通りになる。もし魔術でダンジョンの作りを変えるというのなら、魔術師数人で唱えるような大規模の魔術を数日に一度施さなければならない。


「しかし、ソーエンほどの魔術師なら」

「そうです、フィレンさんの話を信じれば、彼女は何か特殊な力を持っています。さっきの戦いの状況を見るに、恐らくそれは物体の重量を操る能力でしょう」

「そうですね、でなければあの時だけ鎧が異常に重くなったの説明が付きません」

操岩術(コントロールロック)岩の槍(ストーンランス)も、本来一度に大量な土石を制御できるような魔術ではないはずです、つまり彼女はその能力を駆使してるから、巨岩を操れたり、町一つを囲める壁も作れたのでしょう。それと同じく、大規模且つ頻繁にダンジョンの形を変えるのも可能なのかもしれません」


 俺たちはレキシントン先生の話を聞いて頷いた。

 重力魔術の全貌はまだわからないが、短い呪文で巨岩を動かし、物質を極端に重くできるような力はすでに人間離れしている。そのソーエンならダンジョンを自分の棲み家にしてもおかしくはない。


「しかし、どうして洞窟とかじゃなくて、わざわざダンジョンに身を隠すのでしょうか?」


 姉さんは聞いた。


「ダンジョンは普通の洞窟と違って、町の近くにあるから情報収集が便利で、しかも国と教会の手が入りずらいですから、追手を撒くのは最適でしょうね。もしソーエンがダンジョンの中に潜むことができるとしたら、今までの神出鬼没も説明できますし、この前の目撃情報も頷けます」

「目撃情報?どういうことですか?」

「《マエステラの大機関》は定期的に作り直されるのはご存知ですか?」

「ええ、知っています――そういうことですか」


 姉さんはハッとなって、何かを気付いたようだ。

 それを見て、レキシントン先生も肯定するように頷いた。


「そうです、ダンジョンが作り直される時に中にいると閉じ込められる可能性がありますし、モンスターの大移動に巻き込まれるリスクもありますから、その時だけ地上に出たのでしょう」

「もしかしたら、レキシントン先生が調査したっていうアンデッドも」

「時期が同じですから、恐らく」


 そういえば新種のアンデッドの調査のためにミステラの周辺を捜索してたって言ったな。

 たしか空中に浮いて、火を噴く生首っていう奴か、できれば会いたくないな。


「しかし、ダンジョンにいるというのなら、探すのが難しくなりますね」

「いいえ、そうでもないですよ」


 眉を顰めたリースに、レキシントン先生が言った。


「そもそも《マエステラの大機関》はまだ二階までしか探索されてませんからね、それにいくら足が早かろうと、ダンジョンの中ではそんなに早く動けません、この時間でもう拠点についたとしたら、一階に拠点を構えてる可能性が高いと思います」

「なるほど、ではどうやってそれを探し出すのですか?換気口は……いくらでも隠す手段がありますね」

「そうですね、あたしの予想ですけど、フィレンさんは恐らく生者探索ディテクトリーヴィングを使えますよね?」

「使えますよ」


 死霊魔術の中では結構有名な呪文だしな、知っていてもおかしくはない。

 勿論それは死霊魔術についてある程度の認識を持っている人の話で、現にリースはよく分からない様子だ。


「それは……?」

「アンデッドの生者感知と同じ効果の死霊魔術です、ではそれを使って壁際を沿って捜してください、中に人が居るなら反応するはずです」

「それなんですけど、不可知(ノンディテクション)生者探索ディテクトリーヴィングも妨げるらしいですよ」


 俺はラカーン市でロザミアさんを助けた時に、ルシウスの罠にハマったことを説明した。


「そんなことが……まさかアンデッドの生者感知にも有効なんですか?」

「検証したことがないからなんとも」


 姉さんも俺も不可知(ノンディテクション)なんて使えないしね。

 ちなみに八骸の番人(デュアルガーディアン)のリアちゃんは魔術唱えるけど、あれはソクラテが与えた能力の一つで、別に魔術師ではないらしい。だからリアちゃんが使える魔術も結構限定されていて、戦闘関連以外の魔術はほぼ使えない。


「ではさっそく検証しましょう、レンツィアさんは生者感知できますよね?」

「ううん、できませんよ」

「なんと、これは興味深いですね……では何かのアンデッド呼んで頂けます?」

「じゃ、出てこい、ビャクヤ」


『ぐるるるるるるううう……』


 五メートル長の白いハーフドラゴンの混合獣(キマイラ)が、《闇夜のマント》から現れた。

 姉さんはわーいと抱きついた。リースは目を見張って息を飲んだ。


「ほう、これがオリジナルアンデッドですか!?いや待て、そのマントは一体?」


 リースとレキシントン先生の対照的な反応に苦笑いしてしまう。


「いやそれについての説明は後でするから、まず不可知(ノンディテクション)を誰かにかけて貰います?」

「そ、そうですね、では……」






 結論から言うと、不可知(ノンディテクション)はアンデッドの生者感知には効かないようだ。

 生者探索ディテクトリーヴィングはアンデッドの生者感知と同じ効果の死霊魔術だと知らされているけど、まだまだ知らないことがありますな、とレキシントン先生がコクコクと頷いた。

 ちなみに、ビャクヤの感知範囲は約百メートル、生者探索ディテクトリーヴィングの三百から五百メートルほど広くはないが、それでもアンデッドの中ではかなり上位に属する、さすがデスガーディアンということか。

 姉さんもビャクヤと同じ、死者創造(アニメイト・デッド)で蘇らせたアンデッドなのに、なんで姉さんはできないのだろうと、俺は首を傾げた。


「まだまだ究明してないことがありますが、とりあえずこれでソーエンたちの拠点探し出せますね」

「そうですね、ビャクヤを外に出す必要があるけど、見た目は混合獣(キマイラ)ですから、テイムしたモンスターとして通せなくもないですね」


 もともとビャクヤはルシウスがテイムした混合獣(キマイラ)だしな。

 今は見た目が数段凶悪になっただけで、モンスターと言い張れば問題ない。


「では早く《マエステラの大機関》に行きましょう」


 リースが俺たちを促した。


「待ってください、まだソーエンの能力の対策について考える必要があります、でなければ拠点に行ったってさっきの二の轍です」

「そうですね、全部姉さんに任せるわけにもいかないし」

「それについて、考えがあります」


 姉さんが手を上げた。


「ほう、聞かせてください」

「それは……」






 数時間後、俺たちは《マエステラの大機関》に入った。

 レキシントン先生はリースに制約の誓い(クエスト)掛けて貰ったあと、ミステラに帰したから、今ここに居るのは俺と姉さん、そしてリースだけ。

 別れる前に、ルナを助けた後、絶対一度研究手伝ってくださいって念を押されてた。


 《翡翠龍の迷宮》は緑色でバカ広いだけど、それ以外は普通の洞窟に対して、《マエステラの大機関》の一階は青い岩のタイルで舗装されている、まるで人造物のようなダンジョンだ、中に潜ると、なんだかお城の中を進んでいる気分だ。

 リースの話によると、ミステラでは《マエステラの大機関》の上の半分は真理の双竜の黒い方、アルスが作り上げた、そして下の半分は白い方、マグナが製作を担ってると言われている。

 アルスが担当している部分は、探索者を選別するためか、モンスターの強さはイマイチだが数が兎に角多い、トラップの数も多いが致死性はない、まるで実力が足りない人たちを威嚇して帰らせるため、みたいに。

 そのせいで、探索もそれなりに時間がかかるから、再探索から一週間、今一番先に進んでるパーティもまだ二階に入ったばかりだと聞いている。


 俺たちは一階のマップを持って、壁際でビャクヤを呼び出した。

 周りに幾人の探索者が吃驚したが、ビャクヤが暴れ出す様子もないから、特に何も言われなかった。

 《マエステラの大機関》の一階層は《翡翠龍の迷宮》ほどじゃないが、それでも探索者が一周するには普通は一日かかる、だから俺たちはビャクヤに乗って右手の壁に沿って走らせた。

 道中のモンスターを生者探索ディテクトリーヴィングでいち早く発見し、《霹靂銃》かリースの神術で遠距離から仕留め、ビャクヤは妨げられることもなく疾走を続けた。

 こうやって進むこと二時間、ようやく壁の中から生者の反応を見つけた。


 外から見ればただの青い石壁だけど、ビャクヤが中から六体の人型生物の反応を拾ってるから間違いない。

 換気口も見当たらないが、恐らく目では察知できないほど細い穴を幾つ作って、魔道具で換気しているのだろう。



「さて、計画通りいくぞ」


 俺は周りに探索者がいないのを確認し、姉さんは《霹靂銃》で壁をぶち抜く!


 ドカン!

 ドカン!

 ドカン!

 ドカン!


 霹靂の名の通り轟音を響き渡らせた《霹靂銃》は、四発で数人が通れるくらいのデカい穴を作った。

 巻き上げられた土砂が落ちる前に、ビャクヤ、八骸の番人(デュアルガーディアン)、数体のスカルドラゴン、そして大量のグールを雪崩れ込ませ、俺たちもそれに混ざって突入した!


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