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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第三章 死に至る病
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39 夜中の騒動

「血の匂い?」

「ええ、たぶん誰かが死んでいる」


 姉さんが声を潜めて、深刻そうに言った。


 奴隷が輸送の途中で亡くなることはあり得るのだが、それを処分してないのは不自然だ。衛生問題にもなるし、何よりアンデッドが発生する可能性もある。


「ロザミアさん、少し調べます?」

「ああ、私も気になってたんだ、あの馬車に座っている二人はどう見ても商会の人には見えないからな」


 俺たちはUターンして、さっきすり違った荷馬車を追う。

 ほどなくして、俺たちは荷馬車に追いつき、先頭のロザミアさんはそれと並走し、横から男たちに呼びかけた。


「すみません、こっちはミーロ教会第三騎士団の者ですが……」

「……ッ!」


 明らかに動揺している、これは黒か。

 太陽神ミーロはアンデッドの天敵、一般人にとってはミーロの騎士団はむしろ尊敬すべき存在で、旅人がミーロの騎士と同行できるのは願ってもないことだ、あそこまで動揺する理由はないはず。


「馬車の中にはどうやら怪我人がいるようですが、もしよかったら治療させて頂けませんか?」

「それは……別に、いいです!」

「それは、なぜでしょうか? 何か見られて不都合なものでもおありで?」


 ロザミアさんが不審そうに問い質した。

 すると、金属の光が一閃、男たちはロザミアさんにナイフを投げて、鞭を振り逃げようとしている!


「我が誓う、大地に根付くものとなりて、固着(ホールド)


 ロザミアさんは手甲でナイフを弾き、リースは素早く詠唱して馬車の動きを止めた、急に止まった馬車の中からいくつの悲鳴が上げる。

 そして姉さんは疾走している馬の上から馬車の御者台まで一跳び、二人を蹴り落とした。


 なおも逃げ出す男たちに馬で追いついて意識を奪った後、俺たちは荷馬車の中身を調べた。

 中には予想通り、十四人の奴隷と、一人の死体だ。


「これは……奴隷攫い?」

「どうやら商会の人を殺して奴隷の人たちを攫ったみたいですね」


 リースとロザミアさんは死体を調べると、商会の文書を見つけた。しかし二人ともどこか納得できないような表情している。

 それも当然だ、奴隷は商品だから勿論それを奪う人もいるはずだが、実際人間は商品として輸送するにも、売りさばくにも難しいものである。わざわざ奴隷の荷馬車を狙う盗賊がいる自体がおかしいのだ。

 それに、


「リース、どうやら奴隷攫いだけじゃないぞ」

「フィレンさん、どういうことです?」

「奴隷じゃない子もいる、奴らは人攫いだ」


 リースの顔色が一変した。


 荷馬車の中にいる人たちはほとんど奴隷の手枷と奴隷の入れ墨をつけられてるが、中には入れ墨も手枷もなく、ただ適当に縄で縛られてる子供が三人いる。

 話を聞いてみたら、どうやら他の町の子で、この二人に攫われたらしい。


 中央地域のラッケン州は比較的に治安が良いのだが、人攫いもなくはない。しかし人攫いと奴隷攫いを同時にやるのか?奴隷の入れ墨は国と一部の商会しか施せないから、まさか攫った人を奴隷として売りさばくこともあるまい、ただ人を集めたいなら一体何の目的だ。


「とりあえず人を呼びましょう」


 リースは遣いの鳥(ミッシングバード)を取り出し、ラカーンにいる連絡役にいくつ指示を下した。

 数時間後、ラカーンの役人と衛兵とがラカーンから駆けつけた。リースは彼らに指示を出し、人攫いの男たちを縛り付けて、荷馬車と一緒に連れて帰って貰った。帰る前に、取り調べを行った後、奴隷を商会に返して、攫われた子を元の町に帰すように、と何度も念を押して命じた。


 役人たちと荷馬車を見送って、どこが拭えない不安を抱えて、俺たちは改めてミステラへ進んだ。




 三日後、俺たちは予定通りミステラへと進んでいた。

 今日は朝から雨が続き、道路の状態が悪いからあんまり進めなかった。それなら早めに休憩して、明日雨が止んだら距離を稼ぎましょうってリースが提案して、俺たちも賛成した。


「そうだ、今日は皆ずぶ濡れになりましたし、そろそろ寒くなってくる季節ですから風呂に入りましょう?」


 と、リースが言ってた、俺たちも勿論異論はない。

 道路から少し離れたところで、小さい川がある。その河原に俺たちはテントを張り、魔術で川水を沸かして簡易な風呂を作り上げた。そしてこのメンツでは必然的に最後になるの俺は今、ナタボウと《龍装鎧》の手入れをしている。


「ね、フィー君」


 すると、後ろから一番風呂に入っているはずの姉さんが声を掛けた。


「早いな、どうした?」

「スーチンが、この辺りに死の匂いがするって」


 姉さんは俺の耳元で小さく喋った、かすか風呂上がりの香りがする。


「スーチンが?」

「ええ、なんだか遺体を感知できるらしいの」

「もしかして前日の……」

「うん、あれもスーチンが教えてくれたの」


 幽霊の能力なのかどうか分からないが、どうやらスーチンは死んだ人間を探知できるらしい。

 もしかしてアンデッドも探知できるのか?と聞いたら姉さんが首を振った。

 まあ、そんな便利なものはないか。


「とりあえず確かめに行こう、今はリースが風呂に入ってるのか?」

「そうだね、じゃ私たちで行こう?」

「一応ロザミアさんに知らせるか」


 俺たちは河原近くの森から変な音を聞いたから、ちょっと様子を見てくるとロザミアさんに言ってキャンプ地を離れた。


「どのくらい離れてるんだ?」

『もうすぐ……』


 姉さんの中から伝わってくるスーチンの声に従って、俺たちは河原を離れて、森に入った。

 そしてすぐそれを見つけた。男の、それも探索者の死体だ。


 力尽きて死んだように、木に寄り掛かってる死体は探索者の装束をしている。革鎧はボロボロで、首には噛まれた傷がある。

 年は三十代くらいかな、手に持っている剣に血がついてから、さっきまで戦闘していたのだろう。


『急に、ここから匂いが出ています……』


 死んだ瞬間から感知できるようになるのか、だとしたらまだ死んですぐのことかな。

 屈んで死体の首を触れたら、やはりまだ体温が残っている。


「昔からこういうのを感じられるのか?」

『ずっと昔にお城に居た頃、一度だけ、こんな匂いしましたけど……どういう匂いか、よくわかりません……』

「えっと、匂いがしたけど、それが死体の匂いだとわからないってこと?」

『はい……この前……人が一杯お亡くなりに……これがそういう匂いと、分かっちゃった』

「あー、ごめんな、怖かったよな?」


 たぶん暗殺者たちと戦った時だろう。考えてみれば、たしかに子供に見せてはまずいものだ。


『ううん……レンねーちゃんが……寝かせてくれましたから……』

「レンねーちゃん?」

「ふふーん、お姉ちゃんの姉力は無限大だよ、フィー君もお姉ちゃんって呼んでいいよ?」

「子供じゃないんだから……」


 なぜか得意げに胸を張る姉さん。

 どうやらいつの間にスーチンとかなり仲良くなっているらしい。

 姉力って何だ姉力って、ていうかスーチンならいいが、勝手に他の弟なんて作ってないだろうな。

 そんなくだらないこと考えながら俺は立ち上がった。


「ふふ、安心して、弟はずっとフィー君だけだよ」

「はいはい、それよりこれはリースたちに知らせないとな」

「嬉しいくせに」

『はんこうき……?』


 キャンプ地に戻って、丁度リースが風呂からあがってるところだから、簡単に状況を告げて、四人で死体の場所に来た。


「これは、探索者の方ですね」

「ああ、ここはミステラから一日くらいの距離だし、ミステラの探索者だと思う」

「体温がまだ残ってる、剣にも血がついている、この人を殺した『何か』がまだこの近くにいるかもしれん」


 ロザミアさんは膝頭を地につけて死体を調べている。

 まず傷口を確かめて、それと所持物を確認する。


「歯の痕、人間のゾンビの仕業だな。依頼書はないか、もし依頼でここまで来たのなら持っているはずだが……」


 その時、生者探索ディテクトリーヴィングの索敵範囲に五体の人型生物が入ってきた、森の奥から走ってくる模様だ。

 暫くしたら、その方向から騒音と人の叫び声がした。

 俺たちはすぐ武器を抜いて戦闘準備に入り、すると、


「くっそ、どんだけいんだこいつら!」

「つべこべ言わず走れ、死にてぇのか!」

「あ、先生、人だ、人が居る!」

「助けてください!」

「探索者か!? アンデッドだ、後ろにアンデッドがいっぱい居るぞ!」


 三人の探索者と、ローブを着ている子供と少年が森の奥から突き抜けて来た。

 探索者たちは俺たちにアンデッドの存在を知らせ、他の二人は助けを呼ぶ。

 そして彼らの後ろには無数の黒い影が蠢動している!


「私たちが足止めする! 君たちは早く治療を受けろ!」

「感謝する!」


 探索者たちには深手を負った人が居るようで、ロザミアさんはすぐにそれを気付き、リースに彼らを治療させた。

 そして俺たちとロザミアさんは前に出てアンデッドたちを迎撃。


「ミーロの名の下に、光よあれ、照明(ライト)!」


 ロザミアさんが呪文を唱え、いくつの光の玉が浮かび上がり、辺りが一瞬で昼間のように明るくなった。

 夜の、しかも森の中での対多数の戦いでは視界が命取りになるから、まず複数の明かりを確保するのが定石。ロザミアさんのお蔭で森の奥から続々と走り寄った大勢のゾンビを確認できた。

 それにしても、尋常じゃない数だ、まるで村一つがゾンビになっちゃったみたい。


「姉さん!」

「あいよー」


 姉さんは便利袋(ハンディパック)から二メートル強の金属杖――あの後フェリさんとバラーグさんの案を合わせて、《霹靂銃》と名付けた――を持ち出す。

 《霹靂銃》を両手で腰の横に提げて、もっとも前に出ているゾンビを狙い、


「《貫け》!」


 爆音を響かせ、一本の稲妻が先頭のアンデッドをたやすく貫通、そのまま派手に爆発して周りの何体ものゾンビをも巻き込んで、一瞬で黒焦げにした。

 姉さんが続いて三発を撃ち込み、数十体のゾンビを屠った。

 そしてついに目の前に駆け寄ったゾンビに、ロザミアさんは剣を掲げ、


「いくぞ!我に続けええええ!」


 威勢よく声を上げてゾンビの大群に突っ込んで行った。

 さすがミーロの聖騎士、戦場においてただいるだけで安心できる存在だ。

 俺と姉さんもすぐに後を追い、ゾンビたちが新しい獲物を見て、嬉々として襲い掛かる。

 知恵なきアンデッドは積極的に姉さんを襲わないが、脅威を排除する本能もあるから油断はできない。俺は姉さんの後ろを守り、ゾンビを次々と切り裂いた。全方位からゾンビが這い寄るが、ビャクヤの尻尾が時に鞭のように振りぬき、時に槍のように貫く、俺の攻撃の隙をカバーしてくれる。

 ロザミアさんの剣術も堅牢で、ゾンビを寄り付かせない。

 そして後方で治療を受けた探索者たちとリースも戦線に加わって、十分後、俺たちはゾンビの山を築かせて、ようやく一息ついた。




「ご助力感謝する、本当に助かった」

「いいえ、当然の事をしたまでだ」


 探索者たちのリーダーたしき男がロザミアさんと握手を交わした。


「俺たちは《フェイトスピナー》だ、俺はリーダーのセルエル・ロンバルディア」


 男たちは仲間の二人も紹介した後、さっき「先生」と呼ばれた子供らしき人もロザミアさんに手を伸ばす。


「あたしはミステラ魔術学院の正教授、グレイ・レキシントンと申します、この度の救助、誠にありがとうございました」


 子供同然の体型だが、れっきとした大人の女性としての振る舞いをしているグレイ・レキシントンは、誰から見てもハーフリングだ。

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