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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第二章 ラッケン州長の依頼
29/229

29 父娘

「それより、ソラリスさんはこいつらに心当たりありますか?」


 自爆までやる連中だ、暗殺を生業にしている者達に違いない。

 探索者業数年、まったく嫌われていないとは言えないが、暗殺者を雇える金持ちに恨まれる心当たりはない。


「それが……」


 ソラリスさんは顔を曇らせる。


「言えないような事情でしたら別に」

「いいえ、お二人には知る権利があります」


 ソラリスさんは首を振り、力強く言い放した。


「彼らを雇ったのは恐らく、父です」

「アイン・ラッケン州長? なぜ州長が」

「お二人はハートショットという薬物をご存知ですか?」


 俺と姉さんの顔がこわばる。

 その反応を見て、ソラリスさんは苦笑いをして、話を続けた。


「ハートショットはここ数年ラカーンに出回り始めたドラッグですが、私は昔から父とそれの関連性を疑っていた」

「州長が裏にドラッグと関わっていると?」

「それどころか、ご自分も使っていると考えられます」


 たしかに元探索者としては痩せすぎて、見るからに不健康そうだ。

 けど州長ともあろうものがドラッグに手を出すのか?

 ソラリスさんは俺の疑問を見抜いたように、


「貴族の中に薬品を濫用してる人は珍しくないのですよ、勿論王家から土地を賜られる貴族達にはそういうのはあまりないですが」

「だから体調も崩したのですか?」

「ええ、父はそれを隠してますけど、もう来たばかりの二人さんも知っているくらいですね」


 州長の情報を集めてたなんて言えない。


「しかし、いくらドラッグと関わっても、実の娘を殺すなんて」

「昔の父ならしないでしょう、ですがあの男、ルシウスに唆されましたらあるいは」


 ルシウスって、州長の横に居た男のことだな。


「あの家宰ですか」

「ええ、彼は七年前に家に入り、私が家を出てしまってすぐ家宰に抜擢されました。元々父は家に籠りがちですが、身体は健やかでした。しかしあの男が家宰になった後、父の体調が崩れ、金遣いも荒くなりました」


 そういや大量に高価なモンスター素材や魔道具の部品を買い込んだってヴァイトさんが言ってたな。

 しかし、たしかに州長のあの様子を見ると怪しいが、それでも推測の域に出ないだろう。


「ところで、今までの話に証拠は?」


 姉さんが俺の代わりに訊いた。


「まだ、ありません」


 ソラリスさんは首を振ったけど、自分の話に自信はあるようだ。


「実は今回ラカーンに戻る前に、ここでの協力者からハートショットを扱う組織の拠点を発見したとの連絡があります、ロザミアさんが一緒に来て下さるのはそのためもあります」


 協力者って、つまり自分で秘密裏に調べていたのか、本当に十七歳かこの人。


「その組織の幹部を捕まれば、ルシウスもしくは父と繋がる証拠が出るかもしれません」

「しかしドラッグ組織の拠点を襲うのは簡単じゃないですよ?」


 いくら聖騎士でも二人しかないのだ、それとも他に伝手があるのか。

 そう思った時、ソラリスさんと目が合った。

 って、まさか。


「フィレンさんとレンツィアさんにお願いしたいと思います」


 やはりそう来たか。

 俺は姉さんと視線を交わした。

 普段なら言うまでもなく断ったが、今は望んでもないことだ。


「……一つ聞かせてほしい」

「何でしょう」


 別に話に乗るのはいいが、一つ確認したい。


「もし、州長はハートショットの売買に関わっていたら、どうします?」

「国に裁いていただきたいですが、一筋縄ではいきませんね」

「やはり貴族なんですからね」


 たしかフィリオさんがいうには、子爵のはず。

 この国には自分の領地を持っている貴族と、王家の土地を任されている貴族がいる。

 州長は後者だ、そしてそういう貴族は大体王家から信頼されている。


「ええ、普通なら証拠を集めてから根回しをして、勅命か上位貴族の命を持って逮捕するのが一般的です」

「向こうはもう俺たちを殺しに掛かってますからね、そんなことする場合じゃないでしょう」

「ですから証拠を集めたらまず無力化して、制圧します。対外的には家主交代ということにします」


 つまり、自分が家主に成り代わるってことか。

 大胆なこと考えてるね、この子。


「法律に任せなくてもいいんですか」


 何となくだが、ソラリスさんならこんな裏技のようなやり方より、正当な手順を踏まえて法律に訴えるのが好きのような気がする。

 だがソラリスさんは首を振った。


「ハートショットの販売ルートを無くすのが先決です、これ以上犠牲者を増やしたくありません」


 そうか、確かに州長をどう裁くよりまずドラッグの元を断つのが重要かもしれないな、民にとっては。


「州長自身もかなりの魔術師だと聞いてますが、戦いになったらどうします?」

「父の若い頃は確かに凄腕の探索者だと聞いております、しかし、それでも倒さなければなりません」

「いや、そういうことじゃ」

「場合によっては殺すこともありますってことですよ」


 俺が言葉を選んでる内に、姉さんが代わりに言ってくれた。

 ソラリスさんが息を飲む。


 なにも意地悪を言うつもりはない。

 他の国のやり方は知らないが、少なくともこの国の捕り物では、犯人を死なせたことも珍しくない。

 勿論貴族であればそうそう荒事にはならないが、それは一般的なやり方の場合だ。


 ソラリスさんは一瞬俯いて、揺れている両目を閉じ、そして、


「……ええ、覚悟の上です。もし父が実力行使に出たら、討ちます」


 強い意志を湛える青と緑の瞳には、既に一欠けらの揺らぎもない。

 お嬢様っていうのはどいつもこいつも意志が強いものなのか。

 やれやれ、まったく、


「では、協力させて貰います」


 俺はソラリスさんと握手を交わした。

 まったくの、好都合だ。




 話が終わって、俺たちは一旦その場を離れた。

 これから何をしようにも、まずダンジョンから出なければならない。

 もう一度襲われたら叶わんと、生者探索ディテクトリーヴィングを最大にして、モンスターのない場所にテントを張った。


 ドラゴンの仕業か、ダンジョンの中では通信(メッセージ)で連絡することはできない、空間魔法もダンジョンの中に入ることはできないと聞いている。

 まあ、ここに転送門(テレポートゲート)建てたいなんて思う奴もいないだろう。

 つまり、ここに居る限り、外のロザミアさんとヴァイトさんとも連絡が取れないことだ。

 幸い食料はまだ余裕があるが、次の襲撃者がいつか来るか分からないし、早急に脱出したい所だ。


「地図によると、二層への階段はもう一つあります」

「相当遠回りになりますね、フィリオさんたちの救援を待つのは?」


 ソラリスさんがもっともな質問をした。

 この階段はここからだと通常二日は掛かる、それなりに離れてるから俺たちのような三層を目指す探索者はまず使わない。


「勿論フィリオさんは無事だと信じてますけど、救援を呼ぶには限らないのです」

「それは、何故でしょう」

「フィリオさんたちが地上とここを往復するだけで八日間がいる、それにあの巨岩はそう簡単に壊せるものじゃないはずです。つまり、フィリオさんたちももう一つの階段で俺たちを捜しに来るはずです」

「もう一つの階段もあの魔術で塞がれた可能性は?」

「確かに……」

「その可能性は低いと思いますわ」


 姉さんは何か知ってるのか話に加わった。


禍星天墜(メテオスウォーム)は喚起系の最上級魔術だと聞いてます、そんな魔術師がいれば、私たち一捻りもないはずです。それに、あの魔術は元々は戦場で使えるようなもっと範囲が広いの魔術みたいですよ」

「つまり、あれは魔術ではなく、何かの魔道具の効果かな」


 頷いた姉さん。

 あの時、詠唱の声を聴いてたけど、魔道具の中には詠唱をトリガーにするものもある。


「そういう魔道具は連発できないのが普通なんですから、それを使って階段を封じるより、そこから更なる暗殺者を送るのが合理的でしょう」

「そうなのですか……」


 ソラリスさんが感心してるようにコクコクと頷いてる。


「まあ、もう一つの階段からここまでは二日弱掛かりますし、少なくとも今日明日は大丈夫でしょう」


 俺は姉さんの言葉に頷いた。


「では今日は連戦してましたし、問題がなければ一旦睡眠を取って、もう一つの階段を目指しましょう」

「あの、一つ提案があります」


 ソラリスさんが手を上げた。


「なんでしょう?」

「これから協力し合う関係ですし、お二人さんは年上の方ですから、敬語は要りませんと思いますが」


 要は敬語をやめろってか。


「年上と言ってもあんまり変わりませんし、ソラリスさんは州長のご息女ですから」

「それこそ要りません、今から私たちは州長に楯突く逆徒ですから」


 逆徒って、こちらは別に州長の家臣とかじゃなかったけどな。

 まあ正直形式ばったのは得意じゃないし、そのほうが気楽かもしれない。


「まあフィー君はそもそも敬語なんて慣れてないし、そのほうがいいのでは?」


 姉さんも賛成してくれるようだ。


「そうか、じゃ俺は普通に喋るぞ、いいな?」

「ええ、むしろそのほうが良いです」

「ソラリスさんは敬語のままなのか」

「えっと……善処します」

「お嬢様にはタメ口のほうが難しいってか?」

「そ、そのようです」


 恥ずかしげにうつむくソラリスさん、真っ白なうなじに微かに浮かぶ薄紅色が眩しい。

 俺は軽く笑った、まあ生粋の貴族に教会の聖騎士様だ、いきなりは無理だろう。


「では休みましょう、時間が惜しい」

「りょーかい」

「ええ、わかりました」



 一般的に、探索者が野外かダンジョンに休む時は、夜番の順を決めて交互に休憩を取る。

 姉さんはアンデッドだから肉体は寝なくてもいいが、魂には睡眠が必要だから不寝の番をさせるわけにはいかない。

 しかし姉さんの魂が寝ている間、スーチンを警戒させることができます。

 その場合は《死配者の指輪》でスーチンとリンクして、生者探索ディテクトリーヴィングを使って貰えばいい。

 勿論今はソラリスさんがいるから、普通に夜番の順を決めて寝ることにした。



「起きてください、フィレンさん」

「んん……ああソラリスさんか、夜番お疲れ」


 夜中、先に夜番をしていたソラリスさんが呼びに来た。

 俺は寝つきも目覚めも良いタイプだから直ぐ様身を起こした。

 正直目覚めたていきなりソラリスさんのような美人が目の前にいるのは少々心臓に悪い。

 俺がテントを出ようとするとき、ソラリスさんに呼び止められた。


「あの、フィレンさん、もし良かったら少しお話しませんか?」


 さて、何の話やら。

 まあ、大体予測はつくけど。


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