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第59話― どん底

ヴァルトロスの施設からの血まみれの脱出から三日、サーシャの体はゆっくりと再び一つに繋がりつつあった。肩と腰の縫合は乾き始め、あの夜の失敗を永遠に思い出させるであろう瘢痕組織を残している。青白かった肌の色も徐々に戻りつつあるが、胸の奥の、目に見えぬ傷はむしろますます大きく口を開けていた。


サーシャは寝台の端に彫像のように座り、指の関節が白くなるまで握りしめたミーシャのローブの切れ端を見つめていた。濃紺の布はくたびれ、端の乾いた血痕は今や濃い茶色に変色している――死んでいる。かつて消えかけた、彼女の希望のように。彼女はその布を顔に押し当て、まだ残っているかもしれない名残の香りを吸い込んだ。まるで布の繊維が、妹の居場所を囁いてくれることを願うかのように。


「ミーシャ…さぞ、怖かっただろうな」彼女は囁いた。声は張り裂け、息の詰まるような部屋の静寂に飲み込まれて消えた。


木の扉が軋んで開く。エララが温かいスープと、苦い湯気を立ち上らせる霊薬の入った椀を載せた盆を持って入ってきた。彼女は無言でそれを木の机に置き、窓辺に腰を下ろすと、湖面のように静かな眼差しでサーシャを見つめた。重い沈黙がしばらくの間、二人の間の空間を満たした。


「私は失敗したの、エララ」サーシャの声はしわがれ、目は青い布に据えられたままだった。


エララはすぐには否定しなかった。彼女はその告白を宙に漂わせたままにした。「自分の体が廃墟同然だと知りながら、それでも行くことを選んだ。それは選択肢がなかったからじゃない、サーシャ。それはあんたの選択だった。そしてこれがその結果だ」


サーシャは反論したかった。そうしなければならなかったのだと叫びたかった。しかし、言葉は締め付けられた喉に詰まった。その通りだ。騎士としての自負が彼女を盲目にした。今や、その罪悪感は、ゆっくりと肋骨を押し潰していく山のように感じられる。涙が音もなく落ち、手の中の青い布を濡らした。肉体の傷は縫合できる。だが、この傷は…シャドウハンドの短剣よりも鋭く感じられた。


「私に諦めろと言うの?」サーシャは震える唇で囁いた。「ミーシャをあそこで腐らせろと?」


エララは立ち上がり、彼女の隣に座ると、荒れてはいるが温かな手をサーシャの肩に置いた。「諦めろと言ったことは一度もない。ただ、一人ではできないと言っているだけだ。そこには大きな違いがある」


サーシャは顔を上げた。その目は泣き腫らしていたが、消えかけた炎の残り火をまだ宿している。「誰の助けを? オリンはすべてを出し尽くした。あなたは治癒師で、処刑人じゃない。この呪われた街に、他に誰が残ってるっていうの?」


エララは長く彼女を見つめ、目を意味深く細めた。「誰のことを言っているか、あんたはわかっているはずだ、サーシャ」


その名前が吹雪のようにサーシャの脳裏を打った。星なき夜の女帝。永遠の森でミーシャに力の痕跡を残した存在。その力が人間の理を超えた存在で、おそらく――ほんのわずかな可能性として――ロダニアの闇に対抗できる唯一の切り札かもしれない存在。


「もう呼びかけようとした」サーシャは絶望的に囁いた。「あの倉庫を襲う前の夜に。返事はなかった。ただ一瞬、冷たい風が通り抜けただけ。まるで、私の弱さを嘲笑っているかのように」


「たぶん」とエララは静かに応じた。「あんたはまだ、正しいやり方で呼びかけていない。あの時はまだ、騎士の誇りに満ちていて、自分の剣がすべてに足りると信じていた。あんたの呼びかけは…弱すぎたのかもしれない。まだ、本当の意味で打ち砕かれていなかったから」


サーシャは愕然とした。彼女は再びミーシャのローブを見つめた。午後の陽がヴァルトロスの地平線に沈み始め、空を濃い血のような茜色に染めていく――まるで、空というカンバスにゆっくりと滲む血のように。


夜が訪れ、オリンをその家へ連れ戻した。彼の顔は十年は老けて見えた。


「ロダニアの俺の連絡員が、魔導鳩でたった今伝言を寄越した」オリンは前置きなしに切り出した。「施設は首都の東の丘の地下にある。精鋭連隊が警備しているが、ダリアンが換気ダクトに一箇所、隙間を見つけた。地下市場でお前を待っている」


サーシャは細部を一つ一つ聞き取りながら、肩にのしかかる重荷が刻一刻と増していくのを感じた。


「だが警告だ」オリンは声を潜めた。「公爵ケイラン・ヴォルスングには、影の向こうに守護者がいる。奴らはその名を口にすることを恐れ、ただ『我が主』とだけ呼ぶ。政治よりも古い何かだ、サーシャ。極めて暗い何かだ」


サーシャは唾を飲み込んだ。しかし、彼女の決意は、這い寄る恐怖と共にかえって硬化していく。(私はミーシャを連れ帰る。たとえ、あの闇に自分の魂を差し出さねばならなくなっても)


深夜、サーシャは一人で裏庭に座っていた。彼女はヴェイロンから渡された緊急用のルーンを取り出した。石は月明かりの下でかすかにきらめき、まるで持ち主の決断を吟味しているかのようだ。彼女は迷った。もし今これを使えば、全面戦争に発展しかねない外交危機を引き起こす。


彼女はルーンを再びポケットにしまうと、唇が静かに動いた。士官学校で習った呪文ではなく、心の奥底からの嘆願だった。


「星なき夜の女帝…もし私の声が聞こえるなら…もし彼らが虐げている、あなたの力の欠片を気にかけてくれるなら…どうか、ミーシャをもう少しだけ守ってください。私は必ず行く。誓います」


冷たい風が即座に吹き抜け、庭の木の枝を揺らし、そして再び静まり返った。しかし、何千キロも離れたロダニアの施設で、ミーシャが突然目を開けた。彼女の胸は温かく脈打ち、独房の闇に仄かな紫の輝きを放つ。何日ぶりかで、彼女はかすかに微笑んだ。


(サーシャ…まだ戦ってくれているのね…)


翌朝、夜明けはすでに旅装を整えたサーシャを迎えた。腰には剣、鞄には食料、そしてオリンの地図は安全にしまわれている。エララは最後の霊薬の袋を手渡し、オリンはダリアンに会うための秘密の符丁を伝えた。


「私…あなたたちにどう恩返しすればいいか…」サーシャは馬に乗る前に囁いた。


「生きてさえいればそれでいい。あんたにはもう、生きた心地がしないほど肝を冷やされた」エララは、深い懸念を隠したぶっきらぼうな口調で返した。


サーシャは馬を駆ってヴァルトロスを後にした。冷たい朝陽が彼女の背中を照らす。ロダニアはもう目前だ。東の空では、黒い雲が不自然なほどに渦を巻き始めている――大いなる嵐が空からだけではなく、どん底に達した一人の騎士からも訪れるという、前触れだった。

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