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第22話 ― 心臓を止める圧

カルロッタは、最後に本当の恐怖を感じたのがいつだったか思い出せなかった。

矢が飛び交い、剣が打ち合う中での恐怖ではない。それは兵士としての日常だ。職務上のリスクである死への恐怖でもない。だが、今回の恐怖は違った。それは皮膚の下を這い回り、心臓を硬く締め上げ、呼吸をするたびに灼熱の溶鉄を吸い込んでいるかのような感覚にさせた。

すべては、あの狐耳の女が真っ直ぐに立ち上がった時から始まった。

彼女はただ立っていただけだった。呪文を唱えるわけでもない。武器を抜くわけでもない。轟くような勝鬨を上げるわけでもない。ただ、背後の子供を片腕で抱き寄せ、その紫色の瞳で、非人間的なまでの静寂をもって彼らを見つめていた。

そして、その「圧」が来た。

それは突風のような衝撃ではなく、空から降りてきた実存的な重みだった。まるで宇宙そのものが目を開き、広場を見下ろし、そこにいるすべての命は無意味な塵に過ぎないと断定したかのようだった。

カルロッタは膝をついた。

石の床に膝が叩きつけられ、大きな音が響いたが、痛みさえ感じなかった。体は麻痺していた。周囲では、部下たちが次々と崩れ落ちていく。重厚な鎧を纏った騎士たちが、今は虫のように丸まり、激しく震える手から剣が滑り落ちて、石畳の上で虚しく音を立てた。

広場中の窓が、単一の共鳴によって一斉に砕け散った。

降り注ぐ水晶の雨が、奇妙な暗闇の中に街を閉じ込める。魔法の灯火は、あたかも空気中のマナが見えないブラックホールに吸い尽くされたかのように消え失せた。

破壊された屋台の残骸の裏で、先ほどの親切なフィッシュボール売りの女性――ハナが、暗い隅に身を潜めていた。蒼白な頬を涙が伝い落ちる。全身の細胞一つ一つが、その窒息しそうな圧力から逃げ出そうとしているかのように、激しく震えていた。

「お助けを……」彼女は掠れた声で、消え入りそうに呟いた。「知らなかった……知らなかったのよ……」

その近くでは、魔法書店の店主オリンが、亀裂の入り始めた店の柱に寄りかかっていた。眼鏡は割れていたが、その老いた目は、霞む視界の中でもはっきりと捉えていた。

「これは、単なる悪魔ではない……」オリンは嗄れ声で溢した。「これは……『始源オリジン』だ」

古代史を深く研究してきた学者として、彼は最初の光が創られる前から存在した存在についての禁忌の記述を思い出していた。数値では測れず、理屈では分類できず、いかなる武器をもってしても抗えない存在。

そして今、その存在が目の前に立ち、つい先ほどまで人間の一部であるかのように、彼らの食べ物を楽しんでいたのだ。

カルロッタは無理やり体を動かそうとした。残った力を振り絞り、石の隙間に剣を突き立て、それを支えに顔を上げた。

あの狐耳の女――フロスティーヌは、まだそこに立っていた。その瞳がカルロッタを射抜く。冷たく、虚ろで、夜の海のように底知れない。

カルロッタは割れた唇を開いた。「貴様は……何者だ……」

その問いは、風に流される微かな囁きとしてしか出なかった。フロスティーヌは答えなかった。しかし、その死のような静寂の中で、小さな声が響いた。

「お姉様……おうちに、帰ろう……」

アリスの声だった。弱々しく震えていたが、その声は街中を締め付けていた魔力圧を切り裂くかのように響いた。

フロスティーヌが視線を落とす。刹那、瞳の中の虚無が溶け去った。先ほどまで荒れ狂っていた魔力の嵐に代わり、守護的で慈愛に満ちた何かが宿る。

「ええ、いいわよ。帰りましょう」フロスティーヌは優しく答えた。

ゆっくりと、圧力が引いていった。海岸を叩いた大波が、再び海の中へと戻っていくかのように。空気が再び肺に届くようになる。暗く、ひび割れたようだった空が、その色を取り戻し始めた。

それまで床を凍てつかせる氷のオーラを放っていたルファスが、フロスティーヌがローブを整え始めるのを見て肩をすくめた。「それだけで、止めるの?」

「アリスが、帰りたがっているわ」フロスティーヌは振り返らずに短く答えた。

「そう。私もお腹いっぱいになったしね」ルファスは気だるげに、自身の龍のオーラを収めた。

一行が城門を去った後、ヴァルトラの広場には再び静寂が訪れた。だが、それは穏やかな静寂ではなく、押し殺した泣き声と、荒い呼吸に満ちた静寂だった。

カルロッタはまだ膝をついたまま、剣の柄を固く握りしめていた。

「隊長……どうすれば……」一人の副官が、青ざめた顔で這い寄ってきた。

カルロッタはすぐには答えなかった。彼女は門の方を、あの優雅な姿が闇の中に消えていった《永遠の森》へと続く道を見つめていた。

「もし、彼女が本気で我々を滅ぼそうとしたなら……」カルロッタの声が震える。「太陽が沈みきる前に、ヴァルトラは崩壊していたでしょう。我々は敵と対峙していたのではないわ、副官。我々は今、『通り過ぎる終末』を目の当たりにしたのよ」

崩落した魔力探知塔の頂上で、最後のスキャン用クリスタルが地に落ち、塵となった。街の防衛システムはすべてを記録していたが、出力されたデータは、意味をなさないエラー記号の羅列でしかなかった。

人間たちの世界は今、過酷な現実に直面していた。理解の及ばない力が、すぐ側に存在することを。街を散歩している最中に、ほんの少し気分を害しただけで、一国を滅ぼしかねないほどの力が存在するということを。

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