22 アウィン先輩と一緒に
アウィン先輩と一緒に文官の寮まで帰宅して、わたしは女子寮の自分の一室に戻った。
ばふん……とベッドに倒れ込む。
楽しかった……。
怒涛の一日、って感じだったけど。
今日の一日を反芻しながら目を瞑る。
アヴィン先輩は、そりゃあ元々男前だろうと思っていたし、お仕事も丁寧に教えてくれていたから好感度は抜群だった。
だけどわたしは乙女ゲームの結末のその後しか興味がなくて、しかも自分が婚約破棄されて国外追放される悪役令嬢なものだから、自分が恋愛するなんて全然思っていなかったのよね。
なのにあんなに熱意を込めて好きだとか言われて。
しかも、アウィン先輩が、前世での神!尊敬するフィギュア原型師の方で。
同じ日本で、同じ文化で、同じものを好きって言えて……、セレナレーゼとしてのわたしだけでなく、レイナであるわたしのコトも好きだと言ってくれた。
話は合うし、歌も踊りも上手いし、適度にヲタクな王子様。
完璧です!この一日でわたし、アウィン先輩の事が好ましいから大好きに変わってしまったよ!!もちろん恋愛的な意味で!
アウィン先輩以上の男の人なんて、この先絶対に見つからないよ!!
えっと、誰だっけ?『2』にはあと四人、攻略対象がいる?要らない要らない!そんな人たち要らないです!
此処が『逆ハー王妃2~悪役令嬢の逆ハーレム~』の世界だとしても、わたしが選ぶのはアウィン先輩ルート一択。逆ハー?何それそんなの不要っ!
アウィン先輩、ちょっとストーカーチックなところとか、思い込んだら手段を選ばずみたいなところもあるけれど。
……好きな人から受けるストーキング行為って、つまりは溺愛ってことよね。
うわあ……。照れる。
嫌いな人からストーカーされるのはごめんだけど、好きな人からだと、同じ行為でも何で嬉しく感じるんだろう?恋のマジックかな!なーんて!浮かれているわねわたし。てへへ……。
浮かれて、ベッドの上でごろごろと転がりまわったら、どすんっ!ってベッドから落っこちました……。
……落ち着こう、わたし。
うん、落ち着こう。
ちょっと別のことでも考えてクールダウンしないと……わたしの脳内がお花畑になってしまいそう。もう一度ベッドから落ちたくもないし。
ええっと……あ、そうだ。『1』のヒロイン、マラヤちゃんは、逆ハーエンドは達成したけど、どうやら攻略対象たちに囲まれたまま、幸せな王妃になるっていうのは無理みたい。
そして、わたしが『2』のヒロインであるというのなら、そもそも逆ハーなんて選ばない。
『逆ハーレムエンド』を達成した『乙女ゲーム』の『ヒロイン』は、複数の攻略対象たちに愛されたまま、一生涯幸せな人生を送れるのだろうか……なんて考えて、ヒロイン・マラヤちゃんのその後の動向なんて気にしてたけど。マラヤちゃん、どう考えても幸せそうじゃないし。
うん、やっぱり恋愛っていうのは一対一がいい。愛する人はたった一人。
逆ハーして、イケメンにちやほやされるのが好きという人もいるかもだけど、それって、どろどろの愛憎劇と紙一重だよねえ。
実際にマラヤちゃんなんて、攻略対象五人に囲まれたままハッピーな王妃様になって一生幸せ……にはならないし。やっぱり女の子一人に男が五人で仲良く恋愛しますなーんてのには無理がある。悪役令嬢からヒロインを守るって一致団結している時は良いのだろうけれど、その敵がいなくなったら、破綻するような関係でしかないでしょう。
世界中見渡せば、複数の人と恋愛して仲良くなれるという価値観を持つ人もいるかもしれないけれど。
わたしだったら……たった一人がずっとわたしを愛してくれるってほうがいい。
そのたった一人がアウィン先輩だったらいいなって思う。だから、わたしも全力でアウィン先輩に向き合うの。
いつかアウィン先輩がわたしを愛してくれるより、わたしがアウィン先輩のことを好きだという気持ちが勝つように……なんて。
「大好きです、アウィン先輩」
声に出してみる。きゃーっ!照れる!顔が熱いっ!
両手を頬にあててみると発熱しているんじゃないかってくらいに、頬が熱い。
駄目だ、わたし、浮かれてる。……考えを逸らそう。でも、別のことを考えようと思っても、色ボケした今日のわたしは何を見ても何を思ってもアウィン先輩に結びついちゃう。
「あ、ははは。きょ、今日はもう寝ようかな……」
夜着に着替えてベッドに潜る。
「おやすみなさい、アウィン先輩」
呟いて、目を閉じる。
まだまだ恋愛は始まったばかり。
明日は、資料室のみんなに「アウィン先輩とお付き合いをすることになりました」の報告をする。ま、わたしやアウィン先輩から言い出さなくても、ルイーゼ先輩から今日のデートはどうだったって根掘り葉掘り聞かれること必至。
それから適当な時期に資料室のほうはちょっとお休みをいただいて、ゼシーヌ帝国に行って、アウィン先輩のご家族に結婚の許可を頂いて。アウィン先輩は帝国の王子様だから、きっと結婚したらゼシーヌ帝国で暮らすことになるよね。このままいつまでもこのルーベライディン王国で平民のふりして暮らすわけにもいかないし……。資料室の皆さんは好きだし、とても良い職場だけれど、そのうち退職、よねえ……。ううーん、就職一年目にして退職。しかも、わたし一人だけでなくアウィン先輩も。無責任に辞めたくないし、ちゃんと後任の人、来てもらっておかないと。タウロ室長に相談だな……。
「あ……」
今後に思いを馳せていたら、ふと思ってしまった。
「マラヤちゃんのその後……知らないって、放置しておいていいものなのかな……」
アレクセル王太子殿下は正直どうでもいいけど。
それに、マラヤちゃんの現状は、100パーセントわたしが悪いってわけではない。
マラヤちゃんが自分で選んだ逆ハールートで、その結末が、マラヤちゃんの予想とは異なったとしても、それ自体にわたしの責任はきっとない。多分ない……はず。
「だけど……ちょっと引っ掛かってるんだよね……。うん、魚の小骨が喉に刺さったみたいにさ。何でかなあ……」
自分でもなんでこんなにもマラヤちゃんのことが気になるのか、不思議。
もうマラヤちゃんとは無関係だし。彼女のことなんて放っておいて、わたしはアウィン先輩と自由に幸せになっていいはずなのに……。
わたしは瞑ったはずの目を開き、むくっと身を起こしてしまった。
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