21 ボートから下りて、王都を歩く。
ボートから下りて、王都を歩く。
歩きながら、たくさんの話をした。
まず最初に話したのはわたしの前世について。
父母がいて、兄がいて、姉がいた。
姉は同人誌を作って、コミケでサークル参加して、暇があれば女性向け恋愛シミュレーションゲームに精を出し、アニメを見て、2.5次元の舞台に赴き、好きな推しやコンテンツに対するお布施という名の課金するという、どこに出しても恥ずかしくない立派なヲタクである。
ちなみにBLも乙女ゲームも百合すら大好きという節操なし。
わたしがプレイしたゲームの大半は、姉の勧めによるものだった。昔のゲームソフトも最新のものも、ひっきりなしにお勧めしてくる。そういえば『逆ハー王妃』だって、「ちょっと昔の乙女ゲームだけどこれもお勧め」と姉が本棚の奥から引っ張り出してきたものだった。
兄も、姉に負けず劣らずの、特定分野に入れ込むタチである。
ショーヤ・アダチ神の作品は必ずチェック。フィギュア作成動画や写真集も、全部兄から教えてもらったのである。作ったプラモデルは300を超えている。
そんな二人に、ある意味英才教育を受けたわたしも……まあ、かなり限定分野に傾倒する性質の持ち主であった。姉と兄ほどではないにしろね。
結果、日本の我が家は様々なグッズやノベルティ、ゲーム、フィギュア、同人誌、小説に漫画等々……溢れんばかりで床が抜けそうになっていた。
それを母に「いい加減に捨てなさーい!」と怒られる日々。
父は「まあ、家の面積には限りがあるからな。ほどほどに自重しろ」と苦笑していた。
仲良し家族だったんです。
だけど……ある日突然、姉が失踪した。
「わたしが高校生の頃の話で……、ある日暇に任せて家族集まって、リビングでボードゲームをして遊んでいたんですよ。そうしたら、「喉が渇いたわね、お茶でも入れようか」って、キッチンのほうに姉が向かっていって……。しばらくゲームに熱中していて……。で、「遅いわね」って母がキッチンを覗いたんです。でもいないし、ヤカンを火にかけた形跡もない。トイレかなと思って見てもいない。玄関に靴も残されていたし、コートも財布もスマホもそのまま。そもそも玄関も施錠されていたし。神隠しみたいにスーッといなくなったんです」
「それは……」
「警察にも届けましたけど、結局わからずじまいで今に至ります」
「……すみません、貴女のことが知りたいという不純な気持ちで、覚悟もなくそんな重大なことを告白させてしまって」
「いえ、良いんです。父は姉が余りにも素敵な人だったから神様のところに嫁に行ったと思うことにしたようですし、兄は『流行りの異世界転生だっ!アオイはきっと魔法とファンタジーの世界で生きているんだ』なんて言いますし。異世界転生したのは姉じゃなくてわたしでしたけどねー」
きっと多分。わたしが日本からいなくなったであろう時も、兄は『異世界転生だ!』って言って、羨ましがってくれていると思うのよね。
ちょっとくらいは悲しんだり泣いたりしているかもだけど、時間が経てばきっと大丈夫。
お兄ちゃんがお母さんのこともお父さんのことも支えてくれているはず。
だってお姉ちゃんがいなくなった時もそうだったしね。
わたしは元気だよー。異世界転生、しかも乙女ゲームにだよ!しかもこの世界でショーヤ・アダチ神に出会ったよー。ふっふっふ、羨ましい?なーんて思っちゃうくらい。
……カラ元気だけどね。そう思うようにしているの。今世の……オブシディアン侯爵家のお父様やお母様、お兄様とは……血のつながりがあっても他人のようなものだから、その分日本の家族が愛おしく……そして元気に暮らしていて欲しい。
わたしがうっかりしんみりしちゃったものだから、アウィン先輩はわたしの頭を撫でてくださった。ふおおおおおおお!て、照れるっ!
えっと、えっと。ファーストデートにこの雰囲気はイカン!なんか話題変えなきゃ!
「え、えっと、それはともかく。あの、わたし、何故アウィン先輩がわたしのこと、日本人転生者だってわかったのか、それが謎なのですけれど……」
うん、レイナ・ホリーがセレナレーゼ・フォン・オブシディアンであるというのはバレる可能性もあるって、元々思っていた。バレないように、気を使って、婚約破棄の後は転移だの泊まる宿を転々とするなど対策はしていたけど。万が一ってことはあるなって。いざとなったら転移で逃げようという心積もりさえ、あった。
だけど、何で元日本人ってわかったのかなあ……?
「ああ、それは簡単に説明できます。レイナ、仕事中とかけっこう鼻歌を歌っているでしょう?」
「え?」
「気がついていなかったですか?」
「はい……」
「最初に僕が耳にしたのは『どっこいしょ~どっこいしょー』という掛け声ですね。ほら、北海道の代表的な民謡で有名なのがあったでしょう?」
「あー……」
小学校の時にその歌をロック調にアレンジされた踊りを踊りましたね……。運動会で。ど派手な法被を着て。
「あははは。僕も中学校の時の運動会で踊りましたよ。迫力ある和太鼓を聞くと、思わず体が反応しますしねぇ」
「わかります……」
二人で「やーれん」とか「そーらん」とか言いながら、手拍子までしてしまいましたははははは。
「でも、その程度の掛け声なら、この世界にもあるかもしれませんし……。決定打はあれですね。『イカ天使ゲーム』の桜子のキャラソンです」
「わたし歌ってましたか!?」
「はい。『いかいかいかいかイカ墨パスタ!イカらないでね、アナタの負けよ!ばきゅーん!』と、決めポーズも……。実に可愛らしかったです……」
アウィン先輩が、桜子の真似をして、右手を腰に、左手を銃みたいに真っすぐ伸ばして、「ばきゅーん」って相手を銃で撃つ仕草をして……して……して……。おうふ、男前さんの決めポーズは破壊力があり過ぎる!!
そのままわたしとアウィン先輩はアニメソング語りに入ってしまったのです……。
しかも、興に乗って、王都の中央公園の噴水広場なんかでアニソン、歌って踊って……。
気がつけば、見物人の輪が出来ていて。
私とアウィン先輩のことを大道芸人とかそんなふうに勘違いしてくれたみたいで。
投げ銭までたっくさんいただいてしまったあはははははは……。
お読みいただきましてありがとうございます!感謝☆




