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20 魔道探知の腕が一流なのか

魔道探知の腕が一流なのか、それともセレナレーゼに対する愛の深さなのか……。しゅ、執念とかかな!?


「そしてここからが、謝罪です。僕は……、宿に泊まり、食事をされ、その後王都城下町をふらついたり、屋台を冷やかしたり、ケーキやクレープや串焼き肉を頬張ったりする貴女を陰からこっそりと見守っておりました。言われる前に自分で言いますが、はっきり言ってストーキング行為です。犯罪です。嫌われたくは無いのですが……ご不快に思われるのもわかっております。ですが……この胸に宿る情熱は止められなかったのです……」


ストーカーを自覚してるよこのヒト!ええと、わたしがなるべく日に当たるようにってふらふらあちこちで歩いていた姿を、全部見られていたってことですよね!


「それほど、僕はセレナレーゼ・フォン・オブシディアン、貴女を誰にも渡したくなかったのです……。すみません」


イケメンからのストーカーチックな愛を受ける女子は……どう反応したらよいのでしょうか……。しかもそのストーカー、わたしの尊敬する、大好きな、フィギュア神造形師の方で……。職場の先輩としても、関係良好だった上に、結構頼りにしていましたよっ!いただくおやつにも感謝しまくって……。


あ……、でも……アウィン先輩がストーカー化するほど好きなのは『悪役令嬢』セレナレーゼであって……、今のわたし、レイナ・ホリーではないのかな……?


ふとそんな考えに至った時、わたしの胸はずんと重くなった。


悪役令嬢だったセレナレーゼではなく、今のこのレイナを好いて欲しい……なんて、そんなことを、わたしは思っているのだろうか……?


無言のまま、考えこんでしまったわたし。

アウィン先輩は、ここまで言ったのだから、全て告白してしまえという勢いです。


「ゲームの……『逆ハー王妃』のセレナレーゼを、僕は好き好きで……。前世では何体ものフィギュアを作り、転生後、日本人としての記憶を取り戻してからは、絶対に貴女を逃すものかと……、そうして、陰から付きまとっていたわけですが、何の神の配剤か、僕が配属されていた資料室にレイナ、貴女も配属されてきた。……どれほど僕が喜んだかわかるでしょうか!?」


喜んだ……のか。セレナレーゼとレイナが違い過ぎて幻滅とかはしなかったのだろうか?


「あ、あの……わたし、その、資料室では、全然セレナレーゼっぽくなくて。寧ろ元々の、日本人の堀井レイナの人格というか性格というか行動で……。その、アウィン先輩がセレナレーゼをストーキングするほど好きなら……今のわたし……レイナには、その……幻滅したのではないでしょうか……?」


外見だってかなり変えた。

髪も短いし、色だって黒にした。

体型もね。わざとそうしたのだけれど、この半年でかなり太りましたよ!

セレナレーゼの設定的には体重46キロとか47キロとか、絶対に50キロ以下だけど、今のわたしはちょっと小太り。

もう、メガネはずしても別人にしか見えないんじゃないの?

外見を変えて、性格も元の日本人のままで。それで神と崇める方を、失望させていたのかと思うと……正直辛い。や、痩せて、もとのセレナレーゼの体つきに戻そうかな……。悪役令嬢っぽく高飛車に『わたくし』とか言って、高笑いとかするべきか……?


「いいえ、まったく。麗しき悪役令嬢セレナレーゼの貴女も、王都の屋台で串焼き肉を頬張る貴女も、資料室で皆と一緒に四方山話に興じる貴女も全部が全部愛おしい……」


あ、あの……アウィン先輩。それなんかこう……目にフィルターかかっていませんか?何を見ても愛いって……。


「この半年、職場の同僚として、後輩先輩の間柄として、僕はあなたの側におりました。素のレイナも可愛くて好きですよ。ずっと毎日、見ていて飽きたことは無いです。寧ろ日々、愛しさが増すばかり……」


そ、そそそそそうですか……。


「元々の悪役令嬢セレナレーゼをオリジナルとするならば、元日本人で転生者の貴女と悪役令嬢セレナたんが融合した貴女を『セレナたん2』もしくは『バージョンアップ2.0』とでも仮に名称をつけしましょう。僕はどちらも好きです。大好きです。正直に申し上げて、愛しております」


あ、ハハハハハ。そうですか。今のわたしは『セレナたん2』ですか。よ、喜んでいいのかなあ……アウィン先輩のそこはかとなくヲタク臭漂うご発言に、こう……なんていうか、感動してラヴ!って気にならないわ……。


「それに人間生きていれば成長するでしょう。ゴージャス悪役令嬢だって、年をとれば可愛らしいお祖母ちゃんになるかもしれないじゃないですか。美しい完成形も素晴らしいですが、永遠にそのままでいられるはずはありません。性格だって変化していくでしょう。僕は……僕と貴女が出会ってそして、そこから関係を紡いで……、いつか一緒に居るのが当たり前になって、そして、気が付いたら共に白髪になり、縁側でお茶をすすりながら、萌えキャラのフィギュアでも一緒に作れるような……そんな関係に、レイナ、貴女となりたいと願っているのです」


『逆ハー王妃』の『悪役令嬢セレナレーゼ』なら、アウィン先輩と一緒にフィギュアを作る未来なんてありえないだろう。

だけど、わたしは……。


「それ、すごくいいですね。素敵な夢です」


自然に、頬が緩んでいた。


わたしはセレナレーゼに転生はした。変装を解けば、外見はゲーム通りのゴージャス美女だ。

だけど中身はね、日本人の小市民、堀井レイナ、そのものです。


「セレナレーゼとレイナと、どっちか一つ選べなんて出来ないでしょう。切り離せない。僕だって『2』のアウィン・ルネ・ゼシーヌとはだいぶ性格が違います。だけど、僕は僕で。アウィンの僕もショーヤ・アダチの僕も共に僕です」

「はい。わたしも……中身日本人の、堀井レイナです。だけど、悪役令嬢のセレナレーゼも切り離せないですね。共に自分で、融合した上の自分の自我だと思っています」

「この半年、貴女と過ごして幸せでした。だから、これからも、一緒に居て欲しいのです」


アウィン先輩の……ラピスラズリの瞳。その中に映るわたし。

ボートの上だから、急激には動けない。わたしはゆっくりアウィン先輩に手を伸ばす。アウィン先輩はわたしの手を取り、わたしの身体を引き寄せてくれた。


見つめ合ったまま、顔が近づく。


そして、わたしたちはそっと、触れるだけのキスをした。



お読みいただきありがとうございました。

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