第3話 職業:ヤンデレ
その牙は岩をも砕き、その尾は木々を薙ぎ倒す。そして、その翼を広げた時の雄々しき姿から、"空の王者"としてこの世界では恐れられる。
もちろん、日本でもドラゴンは有名だ。そんなステージボス的な立ち位置の存在が、今ここで、俺達と対峙しているのだ。
ドラゴンとは孤高で誇り高き存在でありこんなコンビニ感覚で平原に来てはならないはず。
廃城でスヤスヤ寝ているのが本来の姿のはずなのに。
なのに、俺の目の前にはそれがいる。
これは一体なぜなんだぁ!
「向こうからくるなんて丁度いいね」
おっと、ネウレアさん涼しい顔ですね。
そういえば、街の人々が言うには、とにかくネウレアも強いらしい。
俺は隠れて見学でも……と思い、身を隠すのに手頃な草むらを探していた時だった。
うっとりとした目で、ネウレアはドラゴンの方を向き、ポケットから包丁を取り出す。
「え?」
そして迷わず、目の前で咆哮するドラゴンの元に、全力で向かっていく。
やめろ! 死ぬぞ! 包丁は武器じゃない! 調理器具だ!
しかし、歩いているのにも関わらず、ドラゴンの引っ掻き、火炎弾といった、あらゆる攻撃が一つも当たらない。
そのまま、ドラゴンの胸元まで歩み寄り、
「大好きだよ」
包丁で一突き。ドラゴンの胸元に包丁を刺す。
巨体に対して浅く小さ過ぎる傷のはず。だか、ドラゴンはそのまま、土煙を上げつつその場に崩れ落ちた。
え? 嘘でしょ? なんで? ドラゴンパイセン、冗談っすよね? そうやってすぐ立ち上がって「ドッキリ大成功!」とか言わないんですか? ドラゴンセンパイ、センパイ!?
そう心で叫ぶも、ドラゴンは二度と起き上がらない。
……な、何が起きたんだ。
そうだ、そんなときのために便利な物があった。いでよ、ステータスオープン!
種族:人間
年齢:20
力:56
魔力70
……
身体能力とかは、俺と比較すると、平均的、もしくはそれ以下と思われる。
包丁でワンパンなんて、バントでランニングホームラン決めるようなものだ。普通ならば、仕掛けがあるはずである。
だがしかし、ステータスは明らかに俺以下。
え? なんで勝ったの? と思いつつ、下にスクロールすると……
職業:ヤンデレ
属性:妹
装備可能武器:包丁、手錠
……
いや職業:ヤンデレ!? 属性:妹ってなんだぁ! 何で包丁と手錠しか装備できないんだよ! 武器じゃないって言ってるじゃねーか! 確かにヤンデレと言えば包丁で妹属性だが何でこんなステータスが出来上がっているんだよ!
でも、それだけで終わるネウレアでは無かった。
念のため、自分と同じく、スキル欄を開く。そこにあったのは……
スキル
ヤンデレの一撃(ヤンデレの一撃は全てに死をもたらす)
ヤンデレは倒れない(ヤンデレは倒れない。愛する者がいる限り、永遠に)
ヤンデレからは逃げられない(ヤンデレはどこまでも追いかける。愛する者と未来永劫、共に居続ける為に)
……
『ヤンデレの一撃』って何だ! 確かにヤンデレに刺されると死ぬイメージあるが、何でここに適用されるんだ!あと『ヤンデレからは逃げられない』はただのストーカーだろうが!
「やっと一緒になれたね。こんな肌をしてたんだぁ」
ネウレアはステータスにサイレントツッコミを入れる俺に目もくれず、ドラゴンの亡骸を抱きしめて話しかけている。
なんか怖いんですけどぉぉぉぉ! 俺こいつの世話するの? 絶対ヤバいよね! 刺されたらどうしくれ――
るんだ、と言おうとしたが、そういえば『ヤンデレガード』で俺は対象にならない。
だが、コイツと一緒に冒険行ったやつって全員こうなったのか?
――あの冒険者の「あいつも恐らく餌食だろうな」のいう言葉。
これはコイツと同行した者の末路を言っていたのか。
コイツと一緒にいたものはもれなく、永遠にコイツのモノ(※物理)になった的なことか?
嘘だろ? 俺コイツの保護者? これからどうなるんだよ!?
関係無いけどヤンデレは二次元のみ可!
次回もよろしく!




