兄妹は森の中
夜の闇の中、家から出たヘンゼルとグレーテルは、近くの森へと入ります。母と父の目からのがれるように、あるいて、あるいて、あるきつづけて。そして、大きな木の根元に座り込むと、二人で大きな布にくるまって寝ました。
そして、朝が来ました。
「はい、グレーテル。パンだよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
二人は鳥のさえずりを聞きながら、家から持ってきたパンを分けて食べます。しかし、パンを食べたことによって、のどが渇いてしまいました。
「お兄ちゃん、のど、かわいちゃった」
「ちょっとまってろよ」
グレーテルの言葉に、ごそごそ、とかばんの中をヘンゼルはさぐりますが、のみものは見つかりません。
「しまった……もってくるのをわすれた!」
「……ううん、だいじょうぶ。がまんするから」
「ごめんな、グレーテル」
しょんぼりとするヘンゼルに、グレーテルが気にしないで、と言ったその時でした。
『アラアラ、ノドが渇いたノ?』
どこからか、二人ではないだれかの声がひびきました。きょろきょろ、とあたりを見わたしますが、どこにも人の姿はありません。
『コッチよ、コッチ。ワタシよ』
声のする方に顔をむけると、そこにはいっぴきの青いトリがとんでいました。
「……もしかして、トリさん?」
『そうよ。ワタシよ』
なんと、話しかけてきたのは青いトリさんでした。トリさんはグレーテルのうでにとまると、二人を見上げて言いました。
『ねえ、パンくずをくれたら、キレイな川につれていってあげる。ノドが渇いたんでショ?』
「ほんとうに!?」
『ほんとうヨ』
グレーテルは目を見開いてから、ヘンゼルの顔を見ます。ヘンゼルはごそごそとかばんの中をさがします。
「……お兄ちゃん、パンはまだのこってる?」
「のこってるぞ。トリさん、はいどうぞ」
『やったあ! アリガトウ!』
ヘンゼルがパンをちぎって差し出すと、トリさんはパンのかけらをぱくぱくと食べます。そして、一つのこらず食べ終えると、つばさを羽ばたかせてとびあがりました。
『おいしかったワ。それじゃあ、ワタシについてきてネ。川へつれていくワ』
「ありがとう、トリさん!」
「ありがとな!」
『いいわヨ。かわいい子どもタチだわネ』
トリさんにつれられて二人がついたのは、とてもきれいな水のながれる小さな川でした。水のせせらぎと、さわさわという木々のざわめきが聞こえてきます。
『ここヨ、おいしい水だからのむといいワ』
言われるままに、グレーテルが川の水を手ですくって飲みます。つめたい水が、渇いていたのどにしみわたります。
『じゃあ、ワタシは行くわネ』
そのようすを見とどけたトリさんは、二人の頭の上へととびあがります。
「ありがとう、ばいばいトリさん!」
「じゃあなー」
そのまま、トリさんがどこかへとんだいくのを見送って、のこされたヘンゼルとグレーテルはごくごくと水を飲みます。すると、グレーテルがふと川の向こうがわを見ました。
「ねぇ、お兄ちゃん。何か、あまいかおりがしない?」
グレーテルの言葉に、ヘンゼルが大きく息を吸うと、たしかにあまいかおりがしました。
「……ほんとうだ。川の向こうから、ただよってくるような……」
なんと、あまい良い香りが川の向こうからただよってくるのです。
「お兄ちゃん、行ってみようよ」
「そうだな。でも、そばをはなれたらだめだぞ」
「うん、わかった」
うなずきあったヘンゼルとグレーテルは、小さな川をとびこえると、あまいかおりがする方へとあるきだしました。




