第九審 面会者と二人目の巻
――時は、春雪異変の明日――
これは幻想郷にある博麗神社での会話である。
「ちょっと、魔理沙今日の新聞見た?」
「みたぜ、霊夢。どうやら異常気象とかじゃなかったみたいだな」
「それでこの、茨戸秀という男が元凶を倒ししたらしいわ。魔理沙何か知ってる?」
「全然だぜ。最近外の世界からやってきたんじゃないか」
「それも不思議だけど、一番不思議なのは異変の場所に加え元凶を察知し、それを止めたということよ」
「もしかして、いい奴なのかもな」
「ん~。そうかもね(だとしても、こっちに来たばかりで白玉楼の場所がわかるものなのかしら......)」
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――同時刻――
紅魔館にて。
「ねえ咲夜、これ見てみなさい。あの男の記事よ」
「春雪異変 謎の男が見事解決?」
「これで、ほら、ええと...なんだっけ」
「茨戸秀です」
「なんでもいいわ、彼、一躍有名人ね」
「気になるのはこの、『死体が無かった』という部分ですが。そもそも地獄の人間が死ぬんでしょうか」
「咲夜、死体が無いというのは事実よ。ということは生きているのよ」
「......お言葉ですが、ひとくい妖怪に食べられてる可能性は」
「そ、そうよね、さすが咲夜」
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そして、前回瀕死の重傷を受けた茨戸は、今どこにいるのか......。
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気がつくと、ベットの上だった。ベットじゃないとしても、目を閉じる前に見た景色とは全く違う。
「秀!やっと、起きた!」
体中が痛い。聞いたことのあるような声が聞こえる。誰だろう。
「秀!秀ってば!」
やっと、思い出した。小町さんか。
「ああ...小町さんか...ここはどこだ......?」
「地獄の医務室さ、それよりアンタ一体何があったんだい?」
だんだん意識がハッキリしてきた。そうだ、思い出した。白玉楼で異変を解決した後に、気を失ったんだ。
「映姫様の...命令で...異変を解決しに行って...解決したはいいが...致命傷だった」
「と、とにかく無事でよかったよ。アタイがちょっとサボ......いいや、その、仕事の合間に秀の様子見に行ったら血だらけで倒れてんだもの」
てっきり、あのまま死んだと思ってたが、助かったようだ。もう二度とあの女とは戦いたくはない。能力の相性が悪すぎる。
「あ、この隣の人は先生ね。先生が話があるってさ。ちょっと、映姫様に知らせてくるよ。心配してたからね」
映姫様がオレのことを心配してくれてたのか?だとしたら、金もらうより225倍は嬉しい。
「茨戸くん。君は後数分運ばれるのが遅かったら、命は危なかった。小野塚くんにお礼を行っておきなさい」
「なあ先生、この傷治るまでどれくらいかかりますかね?」
「その点は心配いらんよ。1日安静にしておけば君の能力もあるし、大丈夫さ」
体中の傷は完璧に処置されているが、完治には能力も使っても使わなくても一日はかかりそうだ。何針か縫われたところまであるし、今日は動かないほうがいいだろう。
不意に部屋の外に影が見えた。
「面会かな。どうぞ」
ドアが空き見えた顔はついさっき見た顔だった。
「茨戸秀、起きていましたか」
声の主は、白玉楼にいた幽々子の部下だった。
「ゲェ!何でお前がここにいるんだ?切腹でもしたのかよ。ここ彼岸だぞ?」
「私が連れたきたのよ」
後ろには幽々子がいた。まさか、ここまでオレを追ってくるとは。
「何でお前までここに?いや、まず何でオレがここにいるとわかった?」
「制服着てたでしょ、彼岸の。冥界の管理してるからわかるわよ」
そうだった。映姫様が言ってたが聞き流してて忘れていた。
「ほー、それで冥界を通じここまでやってきたのか。オレを殺しによ」
「あら、誤解しないで。あなたへ謝りに来たのよ」
謝りに来たとは、全く予想外だ。何を言ってるんだ、こいつは。
「謝るって......何をだ。体をこんなにしたことか?」
「ここだけの話、謝っておかないと閻魔様に怒鳴られるから。わかるでしょ?」
まあ、容易にこいつに説教している映姫様は想像はつく。やはり、映姫様は恐れられる存在なんだろう。
「......わかったよ。映姫様にはあんたはよ~く反省していると言えばいいんだろ?」
「そういうことよ。だから頼むわ」
「話はそれだけですか?西行寺...幽々子...」
この声は間違いなくオレの妻(計画段階)の映姫様だ。愛している人の声は間違えるはずがない。
「あ、あら四季様?お変わりありませんこと?えっと私はそろそろ帰りましょうかね......。妖夢ー、帰るわよ」
「は、はい幽々子様。茨戸、幽々子様があなたにこれをとのことです。それでは」
2人は逃げるように帰っていった。2人は霊だし死をつかさどる閻魔には勝てないらしい。
「逃げられましたか......。まあ、いいです。大丈夫ですか茨戸?」
「ええ、何もなかったッスよ。新聞渡されただけです」
「新聞ですか?見せてください」
「別に変わったところはな......いと思ったが別にそんなことはなかったぜ」
異変が解決したことが大々的に載っている。当然オレのこともだ。
「この新聞で有名になりましたね。茨戸」
「なりたくてなった訳じゃないんスけどね」
有名になったからといって何か貰えるわけでもない。自分の仕事も変わらないし。
「秀~、彼岸通信買ってきたけど見る?茨戸のことも載ってるけど」
自分は週刊誌をいうのは割と好きだ。ネタを補充できるし何よりも週に1回という楽しみがある。
「オレが?仕事が早いな。もう異変のことが報道されてんのか」
雑誌を受け取りながら言った。
「いや、違うよ。彼岸の彼氏にしたいランキングに秀が入ってるのさ」
「......(ページめくる音)。......バレンタインが楽しみだな。いくつもらえっかなぁー!」
「は~、早く寝なさい茨戸......。ほら、小町も仕事があるでしょ。行くわよ」
そう言って、映姫様は出て行った(ついでに小町さんも)。自分には女性人気とかはどうでもいいのだ。
映姫様からさえ愛を貰えればそれでいいのだ。
彼岸通信を読みながら、映姫様のことを考えていた。
「映姫様に似合う髪型......と」
雑誌の化粧品やら服の広告のモデルさんの髪型を映姫様に照らし合わせる。個人的にはロングヘアーが好きだが、縛っておくのも悪くないと思う。服も頭のなかで着せてみたが洋服はどうしても、なんというか決して馬鹿にしているのではないが映姫様はどちらかと言うと、俗にいうグラマラスというような感じではない。やはり和服を着せたほうがいい(本人もそう思っているだろう)。
こんなことを考えている内にもう外も暗くなり始めたので寝ることにした。
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朝、起きると体の痛みもなくなり目も冴えるようになった。出勤までは時間があったので、昨日の新聞を切り抜いた。もう一度記事を眺めながら支度をして、いつものように映姫様の下へ向かった。
「茨戸、今朝はよく眠れましたか?」
「はい、もう傷も大丈夫です」
「いくら私の命令でもあまり無茶をしないでください。今回の件は少し責任を感じています」
「そんな、今回のことはオレが悪いんですよ。後先考えずにやったから」
映姫様に心配をかけるつもりはなかった。喜ぶ顔が見たかった、ただそれだけだ。
「今日は、小町の手伝いでもしててください。無理をしないようにしてください。あ、ついでに小町がサボらないように見張っておいてちょうだい」
「小町さんが来るまで映姫様の仕事見ててもいいですかね」
「ええ、いいですけど」
死神が連れてくる死者たちは絶えることはない。人間はいつ死ぬかわからないが、死神はわかるらしい。当然死ぬ時間はバラバラなわけで、連れて来られる時間もバラバラになる。だから死者の列はいつも、新型ケータイの発売日のようになる。映姫様はこれを毎日裁いているわけである(閻魔は2交代制らしいが)。
「次の者、入りなさい」
思い出してみるとオレはこういう風に呼ばれてなかったな。手違いで連れてこられたわけだし(恨んじゃいないけど)。
「......雁来空です」
変わった苗字もいるもんだな。いや、自分も言えないか。いばらの戸だし。
「......茨戸、2人目です」
「え?2人目って誰が?」
無言で閻魔帳を渡された。
「か行のページっスけど、どうかしたンか?」
「この雁来という苗字が無いんですよ。あなたと同じで」
四季映姫・ヤマザナドゥ
・年齢 不明(幻想郷が生まれるときから今まで)
・通り名 楽園の最高裁判長 地獄の最高裁判長
・四季が苗字 映姫が名前
ヤマザナドゥは役職名(ヤマが閻魔、ザナドゥが楽園=幻想郷の意)
・能力 白黒はっきりつける程度の能力
これを使い死者を裁く 彼女が判決に迷うことは決して無い
・瞳の色 緑
・性格 真面目の一言に尽きる
閻魔だから説教臭いわけではなく彼女自身のもともとの性格である
小町をよく叱っているが嫌がらせではなく彼女がよく仕事をサボっているから
・部下からは四季様と呼ばれるが
茨戸だけは映姫様と呼ぶ(茨戸曰く嫁のことを苗字では呼ばないかららしい)