九話 受付は大変です
ギルドへとやってきた悠馬はドアを開けようと手をかけた瞬間、即座にその場から三歩下がった。なぜかはわからない。ただものすごい恐怖に駆られたのだ。だが依頼を受けるにはギルドに入らなくてはいけない。意を決した悠馬は身構えながらドアをあける。
次の瞬間、悠馬は膝から崩れ落ちそうになる。そして今日は帰って寝よう。そう心の中で決めた。
「悠馬さん。入り口はじゃまってもんです」
そうギルドの中から声がかかる。その一声で更なる恐怖心が悠馬へと襲い掛かる。ギルドの中では武器を構え防御姿勢をとったハンター達が構えている。
そしてその中央には自然体のエマと一人の青年が立っていた。
青色の髪をした端正な顔立ちの青年が口を開く。
「だからさ。俺と付き合わないかって」
その言葉がつむぎだされた瞬間さきほどから放たれている恐怖がいっそう強まる。その恐怖心の中心にはエマがいる。
「いやってもんです。邪魔なのでどこかいけ」
そういうエマに青年はさらに話しかける。そのとき悠馬は急に後ろへ引っ張られ、他のハンターの防御陣営の後ろへと押し込められる。
「いいか。死にたくなかったらそこにいろ」
そう言われ悠馬はなぜか? と問う。
「受付になるには条件がある。その一つが二百レベル以上だ。あの男はエマに嫌われている。だがあの男は自分の強さに自信を持っていて力ずくでも物にするつもりだ」
つまりだ、と男はつげ、エマのこめかみがピクピクしているのを確認しいっそう防御を強めながら答える。
「エマが暴れる」
その言葉とエマが握りこぶしを振りぬいたのは同時だった。
青年がバックステップで拳をかわすがエマの振りぬいた拳はその風圧で青年を吹き飛ばしギルドの壁をぶち抜く。が、青年が突き抜けた穴から飛び出しどこから取り出したのか左手に巨大な盾を右手にランスを持って突進をかます。
エマは蹴りを放ちそのまま蹴りの風圧を追い青年の正面で軽くジャブを繰り出し飛び上がる。
蹴りの風圧を左手の盾で受け流しジャブもそのまま盾で受ける。そしてランスを飛び上がったエマに投げつける。
エマは掌底を青年に向かって振り下ろし投げつけられたランスに向かって人差し指を突き出す。
掌底の風圧によりギルドの床が巨大な手の形にへこむ。青年はそれを踏ん張り耐え切り飛び上がる。
投げつけられたランスはエマの人差し指とぶつかり合いそして先端にエマの指がめり込んだと同時にいくつにも分裂し球を描くように増えエマを囲む。そして飛び上がった青年が右手を閉じると一斉にエマに突き刺さった。
エマはその場でクルリと一回転。そして天井を蹴り抜腕をクロスし青年へと突撃した。
青年は一つだけ突き刺さらなかったランスを右手で掴みエマへ突き出す。が、落ちてくるエマと衝突しものすごい音を立て土煙を巻き上げ地面へと埋め込まれた。
エマは衝突の時、うまく衝撃を青年に伝えたのかそれほどはじかれること無く地面へと降り立つ。そして右の拳を腰に構え左手をそれにかぶせる。
そのとき土煙の中から青年が飛び出す。
エマはかぶせた左手を払うような動作をし青年の歩みが一瞬おくれる。
そして右腕がぶれる。
次の瞬間、ギルドの建物は崩壊した。
悠馬や他のハンターは崩れ落ちる瓦礫に巻き込まれないよう外へと非難する。が、エマは頭上を払う一動作だけで瓦礫を排除する。そして悠馬は青年の目の色が青く染まったのを視界の端に捕らえギルドを後にした。
「ちょ。あれ何よ。壊してちゃっていいんかい」
「あれがギルド名物エマ対ルガウ」
そういってハンター達は遠くから見入る。時々エマの拳から繰り出される風で吹き飛ぶものもいるが。
「お。ルガウ幻影つかいだした」
「やっと本気かよ。俺も使いたいぜ。あれスルスル攻撃かわしててキモイんだよな」
「やめろ。こっちに攻撃飛ばしてくるぞ」
「あ、エマの奴両腕広げやがった。逃げろ! 死ぬぞ!」
エマがベアマナークの真似をしたときみたいに手をクワッっと開き両腕を広げる。対してルガウが軽くステップを踏みランスを投げる。
「早く逃げろ!」
ハンターは逃げ出すが悠馬は逃げ遅れる。そして悠馬はエマの一撃で意識を失うこととなる。
エマが広げた両腕を抱くつくように閉じる。
瞬間地面が削られ削られた土が壁のようになりルガウを押しつぶした。そしてその余波で逃げ遅れたハンター達が次々に吹き飛んでいく。
ルガウはいつの間にかエマの後ろに回っており、ランスを突き出すが、エマの裏拳により空高く打ち上げられ落ちてくることは無かった。
「ちっ逃げられましたか。次は無いってもんですよ。ほんとに」
ぷんぷんと怒るエマは周りの気絶したハンターなど目をくれずその場でぶつぶつつぶやいていた。
気絶したハンターの中の一人である悠馬は戻ってきた他のハンターに救助され介抱されるのだった。