結局類は友を呼ぶ②
* * *
「やはりへんほうがひふようだとおもうんだ」
「圭吾よ、日本語で喋ってくれ。
こっちまで頭が溶けそうだ」
「誰のせいだよ!?
お前らが二人そろって、熱いもんを口いっぱいに突っ込んでくるからだろ!
いま口の中の皮がずる剥けで、まともに喋れないんだよ!」
「元はといえば、お前が変な作戦を立てて、
安全圏で腹を抱えて笑っていたのが悪い」
昼食を済ませ、
雑貨を多く取り扱うディスカウントストアへと移動した俺たちは、
店先に着くなり、またもや不毛な言い争いを再開していた。
どうやら今日の圭吾は、グラタンの気分ではなかったらしい。
ぶつぶつと文句を垂れ。
唇を一度舐めると、改めて呂律を整える。
「やはり、変装が必要だと思うんだ」
「変装って……お前、まさか」
「ああ。そのまさかだ。
女装をしよう。内なる乙女を、ここで解き放つんだ」
なるほど。
グラタンでは足りなかったか。
熱々のピザを顔面に叩きつけるべきだったかもしれない。
あるいは、硬めのフランスパンで直接殴るという選択肢も、
今になって輝いて見える。
こいつの減らず口を止めるには、どうやら説教では足りない。
もう、息の根ごといくしかない。
「女装がしたけりゃ一人でやれ。
さすがにこれ以上、黒歴史を増やしたくはないぞ」
「そりゃ三人で女装なんてしねえよ。
それはもう奇人の集いで、一周回ってハロウィンだ。
だから今回、女装担当は五里でいこうと思う」
当然のことながら。
不意打ちのドラフト一位で指名された五里は、
即座に反対の声を上げた。
「圭吾てめえ……
また安全圏から眺めていたいだけなんじゃないのか」
「まあまあ、落ち着けって。
さっきの失敗は、露骨に“男感”が強すぎたのが原因だと思うんだ」
さも分析が的確であるかのように続ける。
「だから、女装で五里からゴリみを削れば、
“ゴリ美”としてカップルに見えるんじゃないか?」
情報が多い。
処理が追いつかない。
頭の中で玉突き事故が発生し、
今にも交通規制が敷かれそうだ。
そもそも、肝心の“ゴリ”の部分が一切削れていない時点で、
その理論は成立していない。
結果として生まれるのは、女性の形をした魔物だ。
それ以上でも以下でもない。
これでは、同じ失敗をなぞる未来しか見えない。
……よし、とりあえず俺は――
この作戦から離脱する方向で考えよう。
「誰が女装役をやるにしても、俺は一度、別の方法を探す。
グッズを手に入れるだけなら、他にもやり方はあるはずだ」
「てかそもそもさ」
圭吾が背頭で手を組む。
「ここまで必死なんだから、
男だけで行ったって景品くらいくれてもいいと思わない?
たまにいるよな、真面目と融通の利かなさを履き違えてる人」
「そんな言い方はよせ。
店員のネームプレート、研修中のマークが付いてたろ。
むしろ、その場の空気に流されずにルールを守ったのは立派だ」
「清継は相変わらず、心が広いねえ」
心が広いとか狭いとか、そういう話ではない。
決まりは決まりで、
そこに感情を挟み込む余地はない。
一人に特例を出せば、
その次からは、すべてに平等な説明と判断を求められる。
なら――
最初から一本の線を引いて、「できません」と告げる方が、
よほど誠実で、よほど公平だ。
だから今回の勝利条件は、抜け道を探すことじゃない。
正しくルールの内側で、景品を手に入れることだ。
仮装パーティに参加している場合ではない。
「で、五里が女装をするとして。
圭吾はどうするんだ」
「清継さん……俺に拒否権ってもんはないんですかい」
「万が一にでも作戦が成功したら、なんでも好きなもの奢るよ」
「おお。それは悪くないですね」
こんな辱めを受けさせる詫びとしては、
むしろ安いくらいだ。
どう転ぶのか、正直ちょっと見てみたいという好奇心もある。
圭吾は「コスプレ」と書かれた棚の前でしばらく悩んだ末。
一着を引き抜いて、こちらに掲げてみせた。
「こんなのどうよ!」
「警察服って……そんなもの、ゴリ美の隣で着てみろ。
事件にならなくていいことまで事件になるぞ」
「悪くないと思うんだけどなあ。
ていうかさ、夏休み明けたら文化祭あるだろ?
それにも使えそうじゃね?」
文化祭、ねえ。
まだ夏休みが始まったばかりだというのに、
もうそんな先の話をしている。
やはり陽キャという生き物は、
イベントカレンダーが常に未来まで埋まっているらしい。
下手をすると――
高校卒業パーティの構想くらいは、
すでに頭のどこかで下書きされているのかもしれない。
「圭吾はお気楽でいいな。
文化祭が終わったら、次はいよいよクリスマスだぞ」
「清継が気難しく生きてるだけだって。
なに、心配しなくてもクリスマスまでに向崎との復縁は絶対成功させてやるよ。
そのための俺達だろ。清継復縁プロジェクトなんだからさ」
圭吾は、くしゃっと音がしそうな笑みを浮かべる。
その会話を横で聞いていた五里も、
女物のコスプレを漁りながら、無言で親指を突き立てて見せた。
……なんだか。
君たちがやけに頼もしく見えてくる。
これからやろうとしていることは、
どう考えても馬鹿げているのに。
それでも。
馬鹿みたいに真っ直ぐで、
だからこそ、少しだけ救われる。
――まあ、これもこいつらなりの“プロジェクト活動”なのだろう。
「……ああ。そうだな、ありがとう。
で、それ。買うのか?」
「気に入ったから買うわ。
これ着て、五里とファミレスにリベンジ」
「反逆の間違いじゃないといいが」
「任せとけって。
俺達は準備できたら行くけどよ――その間、おまえはどうすんの?」
二人の勇姿を見届けたい気持ちは山々だが、
失敗する未来はほぼ確定している。
むしろ、悪ふざけで業務を妨害した共犯として、
一緒に通報されないかまで心配だ。
共倒れを待つより、俺も動いた方がいい。
「目的を達成できれば、それでいいわけだからな。
別の方法を探すよ」
「『カップルじゃないと景品をくれない店員から、正しく景品を貰う方法』、ねえ」
そう。
その条件下でできることは、
いくつか思いついている。
――そのうちの一つを、試す。
俺は、覚悟を決めて言った。
「最初から女性を連れて行けばよかったんだよ」
拳を握る。
ほんの少しだけ、間を置いて。
「……俺はやるぞ。
ナンパだ」
多分――いや、やっぱり。
俺も相当バカなんだと思う。




