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セカンド〜第二の人生を得た人間はどう生きるのか〜  作者: 鱒科の人間
2章 新たなる”歩”
8/8

赤猫の帽子

「っておっそーい!」


 あの後、少女と別れた俺は急いで「赤猫の帽子」へと向かった。


 —向かったはいいものの、着いた途端この言い草である。


「うるさ」


「うるさ!? ほら、ソラ〜! マサキが来たわよ」


「え!? マサキ君!? 今日来るんだ……メイク適当だよぉ……」


 奥で何やら騒がしいが、ハナの妹のソラだろう。

 この姉妹とアスカで、この酒場を経営している。


「それよりユウキは? お前とセットだろ」


 そう言うと、ハナは露骨に顔をしかめた。


「うっさい。あのへたれ……甲斐性なしめ」


「痴話喧嘩かよ。勘弁してくれ」


 ユウキとハナは昔から仲がいいが、未だに付き合っていないらしい。

 不思議なもんだ。


「ちょっとお姉ちゃん。言葉遣いが荒いよ。そ、その……こんばんは、マサキ君……」


「“君”はいらない。ハナと同じでマサキでいいって……何回も言ってるだろ」


 もう数年はこのやり取りをしている。

 それでも直らないってことは、これからも“君付け”なんだろうな。


「あ、マサ兄。ようやく来たんだ……ほんと何してたの!」


 詳しく話すと長くなる。ここは適当に濁すのが正解だ。


 こいつらに幻想フィルムのことを話しても問題はない。付き合いも長いしな。

 ……だが、あの少女のことだけは、なぜか話すべきじゃないと本能が告げていた。


「あー、まあ……釣り?」


「なんで疑問形……どうせ戦ってたんでしょ……」


「まあそんなとこだ。……で、何の用だ?」


 とりあえず本題に入る。どうせいつもの試食だろうが、聞くだけ聞いておく。


「もちろん……試食。あ、でもそれだけじゃないの」


 ハナがそう言う。要はこいつらの実験台だが、不味いものを出されたことはない。


 だが、それだけじゃない?……珍しいな。


「マサキ君なら、知っておいてもいいかなって……」


 ソラがどこか遠回しに言う。その含みのある言い方に、少し興味が湧いた。


「マサキなら知ってるかもだけど、“イレギュラー”って存在がいるらしいの。

 確か……『アノマリー』『アンノウン』『ネームレス』『イレギュラー』って呼ばれてる個体。

 まだ詳しいことは分かってないけど、ユウキがこの前話してて――」


「ああ……イレギュラーなら、さっき戦ったな」


 軽く答える。


「思ってたより強かった。代償もヤバいし、今日はもう戦えねぇ」


 ――その瞬間。


 場の空気が、ぴたりと止まった。


「ま、マサキ……イレギュラーと戦ったの!? どこで? どうやって!?」


 ハナが詰め寄ってくる。


「なんだよ。確かに聞いたことはなかったけど、初めてってわけでもないだろ」


 初めてだから言ってんでしょうが! このバトルジャンキー!」


「ハァン。そうか。じゃ、試食しよう」


「そんな簡単に流すなっ! はぁ……ほら、みんな黙っちゃったじゃない」


 アスカもソラも、冷ややかな目でこちらを見てくる。


「はぁ……マサ兄って、そういうの疎いよね……」


「うん、間違いない。でもそこも良いんだよね」


 女子二人でひそひそ話し始めたが、いつものことなので無視しておく。


「それじゃ、毎週恒例の試食会……始めるよ〜!!」


「「お〜!」」


 楽しそうな奴らだ。


 毎回付き合わされる俺としては、たまったものじゃない。


 今回はユウキもフミヤもいない――つまり、完全に俺一人だ。


 このキャピキャピした空間に男が一人。


 ……地味に居心地が悪い。


「じゃあまずは私の試作品! 名付けて――マグマプリン!」


 そう言ってアスカが持ってきたのは、赤く煮えたぎるプリンだった。


 ――いや、どう見てもマグマだろこれ。


「このプリンは溶岩イチゴと灼熱鶏の卵、それから搾りたてのミノタウロスの乳で作ったの!」


 素材だけ聞けば美味そうだ。


 だが見た目がすべてを台無しにしている。


「……腹括るか。いただきます」


 スプーンを入れると、ぐつ、と音がした気がした。


 一口。


「……普通にうめぇな」


 見た目に反して、しっかりイチゴプリンだ。


 溶岩イチゴの酸味と、口の中で弾ける妙な食感がアクセントになっている。


「この料理の効果、確認できる? 一応私も見たけど、ランダム要素あるかもだし」


「ああ」


 ステータスを開いて確認する。


「……攻撃に軽い補正と、採掘速度上昇だな。火山系素材の効果だ」


「う〜ん、やっぱそうかぁ。もっと変な効果欲しかったのに」


「いや、普通に当たりだろこれ。味もいいし、最近の試食の中じゃ上位だ」


「そ、そう…えへへ」


 素直に評価すると、アスカは満足そうに頷いた。


「じゃあ次は私の料理を……その、デザートの後には向いてないけど……」


 そう言ってソラが差し出したのは丼物だった。


 見た目は普通に美味そうだ。匂いもいい。


「地底湖で釣れる魚と、古代森林の猪で作りました。余り物ですけど……どう、ですか?」


「じゃ、いただきます」


 一口。


「……美味い」


 が、


「……っ、ぐおっ!?」


 次の瞬間、口の中が焼けた。


 喉を通るたびに熱が走る。胃に落ちた瞬間、さらに熱い。


「な、なんだこれ……っ!」


 急いでステータスを確認するが、異常状態はなし。


「え!? そ、そんなぁ……失敗ですね……」


「落ち込まないの。こういう目に合わないための試食係なんだから」


「お前……実験動物みたいに言うな……」


 ただただ痛い。バフも何もない。


 純粋なダメージ料理だった。


「じゃあ次は私ね。安心して、今回はちゃんと考えたから」


「こ、今度は何だ……」


 ハナが持ってきたのは、どろりとした飲み物だった。


「これは自信作。レアな果物を集めて作ったネクターよ」


「それって金の暴力……いや、なんでもない」


 三人の視線が刺さる。黙る。


「じゃ、いただきます」


 一気に飲み干す。


 どろりとした液体が喉に絡みつきながら流れ込んでいく。


「……味は美味いな。ただ、このドロドロ感はちょっとキツい」


「でしょ? 味はいいんだけど、コストがね。マサキ、レア果物あったらまた頂戴」


「いいけど期待すんなよ。古代森林あんま行かねぇし」


「了解。それで効果は?」


「ああ……っと」


 確認する。


「……おお、これはすごいな。十秒間の全能力上昇に視力補正。完全に探索特化だ」


「でも無難ねぇ。もう一声欲しいわ」


「それを探すのが料理人だろ。楽しめばいい」


「そうね」


「思ったより早く終わったな。あいつらがいない分早い」


 ユウキとフミヤのことだ。


「ユウキには現実で食べさせるから」


「お熱いこった」


「そんなんじゃない!」


 顔を真っ赤にして否定するハナ。いつもの光景だ。


「……まあ、今日はデバフきついし戦闘は無理だな。フミヤ来たら鍛冶屋行くわ」


「じゃあそれまで街で遊ぼうよ!」


「ずるいアスカ! 私も行くからっ!」


 そして……


 その日、俺は街中を連れ回される羽目になった。

やっぱ未知の食材で料理するって楽しそう

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