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87話

 ノブローナ王妃から伝えられた、出産間近な妊婦がいる貴族家は、あと六家。

 ブリルーノは、一日に一軒の家を巡って、妊娠の具合を診ていくことにした。

 六家の中で、これから先に産まれそうなのは、モルマッカ騎士爵家。胎児も順調に育っていて、あと二、三週間後に出産できる感じだ。

 その他の五家は、まだ少し時間が要りそうなので、モルマッカ騎士爵家が次の仕事の馬になるだろうと、ブリルーノは考えていた。

 しかし診察巡回をしていて、ウパルト子爵家の胎児に問題が起こっていることを把握し、急遽この家が次の仕事の場になった。

 ウパルト子爵家の胎児は、産まれる時期がノブローナ王妃の息子と同じになるのかは微妙――いや順調に育っても冬の時期に産まれる子で、ノブローナ王妃の息子と同期になるのは絶望的だった。

 ブリルーノは、胎児が無事に生まれる事が大事だと考え、そして強く望まれたなら成長促進の魔法をかけたり最悪腹を切って取り出したりすれば同期にすることは可能だとも考えて、その問題を放置することにしていた。

 そのブリルーノの消極的な行動のせいなのか、ウパルト子爵家の胎児の様子が変になっていた。


「……なんだこれは」


 魔力視の魔法を用いるまでもなく、ウパルト子爵家の妊婦の腹が前に診たときより急に大きくなっていた。それこそ、何時生まれても変ではないと感じるほどの大きさだった。

 ブリルーノは眉を寄せながら、診察の場に同行していたウパルト子爵家当主に目を向ける。


「先に聞く。なにをした?」

「なんのことやら、わかりませんが?」

「誤魔化すな。以前診たときには、こんな異常成長をする予兆は一つもなかった」


 ブリルーノが睨むように見続けると、ウパルト子爵は誤魔化すのを諦める顔つきになった。


「あの子がノブローナ王妃様の子と同級にならなければ困るのでね。我が家に伝わる、胎児を素早く大きくする秘術を使わせてもらった」

「秘術? 魔法か?」


 ブリルーノも、家畜の肥育を促進する魔法を改良し、胎児の成長を手助けする魔法を生み出している。

 しかしその魔法は、宮廷魔法師筆頭として認められる技量があってこそ使用可能になる、使い方が難しい魔法だ。

 ブリルーノが知る限り、ウパルト子爵家にそれほどの凄腕の魔法使いはいない。

 理屈が合わないとブリルーノが考えていると、ウパルト子爵は笑顔で否定してきた。


「魔法ではありません。特別に調合した、魔法薬ですよ」


 魔法薬。俗にポーションなどと呼ばれる、魔法効果を封入した水薬。

 傷治しや毒消しなどが有名だが、姿を消したり惚れ薬なんて効果のものもあるため、その種類は多岐にわたる。

 魔法の使用者によって効果が増減する魔法とは違い、魔法薬は誰が使っても一定の効果を発揮する。

 ブリルーノは、宮廷魔法師という立場から、特殊な効果の魔法薬についてもそれなりに知識をもっている。

 しかし胎児を急速に成長させる効果のある魔法薬など、見聞きした記憶が全くなかった。


「ウパルト子爵家が製造法を秘匿している魔法薬ということか?」

「その通り。それゆえに詳しい製造法は明かせませんが」


 ブリルーノは、本当にそれだけかと疑念を持った。


「人の口は塞げぬものという。子爵家秘伝の魔法薬とはいえ、過去に使った経験があるのなら、より上位の貴族家から提出を求められる機会はあったはずだ。そして一度でも他家に提出していれば、広く存在とその効果が知られているはずだ」

「そうなっていない現状、我が家秘伝の魔法薬は偽物だとでも?」

「いや、そこまでは言わない。俺が考えるに、存在と効果が流布しないぐらいに、発揮される効果が低い魔法薬だったんじゃないかとは考えている」


 効果確かな魔法薬なら、塞ごうとも噂は独りでに流布されてしまうだろう。

 しかし逆に、効果が乏しい魔法薬だったら、人に伝えるようなことはしない。効果が発揮されなかった魔法薬を購入してしまったというのは失敗談だ。高位の貴族家ともなれば、そういう失敗談は秘匿して家の傷にならないようにする。

 胎児を成長させる魔法薬が現在流布されていないのは、そういう理由からだろうと、ブリルーノは考えた。

 しかし今現在、ウパルト子爵家の妊婦の腹は、以前に診たときより不自然なほど急速に大きくなっている。

 その効果が秘匿された魔法薬の効果だとするのなら、効果は十二分に発揮されていることになる。

 ブリルーノは、自分の予想と、現在の妊婦の腹の大きさに矛盾を感じ、頭を悩ませる。


「あえて効果を落とした薬を差し出した――いやそれだと、効果を弱くしたことがバレれば、ウパルト子爵家が責められる要因になるな。なら、必要になったから、レシピを改良したとかか?」


 ブリルーノが推察を口にすると、ウパルト子爵が驚き顔になる。


「ほう、見抜かれてしまいましたね。そうです。以前のレシピに改良を加えて、効果を大きくしたのですよ」

「……妊婦持ちの家庭に語るまでもないことだろうが、効果の強い魔法や魔法薬を妊婦に使うことは厳禁なのは知っているよな?」


 急速に妊婦の腹が大きくなるほど、胎児を急成長させる魔法薬だ。

 ブリルーノは、これまでの助産活動で赤子に魔法をかけ続けてきた経験から、その魔法薬の効果は強すぎると感じた。

 それこそ、無事に胎児が成長できているとは考えられないと感じるほどに。



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― 新着の感想 ―
ブロイラーみたいな感覚かな。とりあえず規定サイズの肉になれば良かろうなのだ
身体は成長しても中身がうまく育たないみたいなのにならないと良いけど
下手に関わってしまうと、他者からはどこまでが魔法薬の影響かもしくは魔法によるものかわからなくなってしまうのでノータッチになるしかなくない?
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