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71話

 ブリルーノがシンザーレの夫人がいる部屋の中に入って目が向いたのは、なかなかに美麗な家具が並んでいた点だった。

 どの家具も素材から厳選されていると分かるものばかりなうえ、細々とした装飾までもが施されている。

 流石に王侯貴族が使うほどの物品とまでは言えないものの、以前にブリルーノが助産活動に向かったアミーコジ永代公爵家のものと遜色はない。


(辺境伯家だからというよりも、シンザーレが妻のことを大事に思っている証拠だろうな)


 ブリルーノがそう判断した理由は、シンザーレの夫人が横たわっている周囲の状況からだ。

 豊かな金髪をまとめずに流している、寝間着姿のシンザーレの夫人。その周りには、医師らしき服装の者の他に、身の回りの世話をする侍女が三人いて、更には腰回りに短剣を装備した執事が二人。

 これほどまで厚く人材を配置しているあたり、シンザーレの悪意から妻を守ってみせるという気概を感じる。


「宮廷魔法師筆頭殿。妻を紹介いたします。ミルキブルーナです」

「お初におめにかかります」


 楚々とした仕草でベッドの上で浅い一礼してきた、ミルキブルーナ。その腹部は、赤子が居ると一目で分かるほど大きく膨れていた。


「俺様は、ノブローナ王妃から、こちらの家にいる妊婦の助産活動を命じられた、宮廷魔法師筆頭のブリルーノだ。早速で悪いが、どうしてベッドに寝ているんだ? どこか体の調子が悪いのか?」


 ブリルーノが不躾に質問を浴びせると、シンザーレとミルキブルーナは困ったような表情になる。

 そんな二人の代わりに、ミルキブルーナの傍らに控えていた医者らしき人物が声を発した。


「奥様は、最近体調を崩しがちなのです。体調を崩される事情は色々と考えられますが」

「命を狙われて、精神的に参っているって判断でいいか?」


 ブリルーノが率直に聞くと、医者だけでなくシンザーレも驚いた顔を向けてきた。


「滅多なことを言わないでいただきたい! 妊婦の体は、ちょっとしたことで急変するものなので!」

「そうです。食事に気を使う生活を送らねばならない状況なんですから」


 二人の文句に、ブリルーノは身振りで沈黙しろと示した。


「心配があるのならば、それを払拭すればいい。方法はいくらでもある」

「それは、もしかして?」

「何を考えたかは聞かないが、俺様は手を汚す気はない。というよりも、もっと平和的な方法があるだろう」

「平和な?」

「この城に住むのに問題があるのであれば、他に家を借りて移り住めばいい。すくなくとも出産が終わるまではな」


 ブリルーノの現実的な改善法に、シンザーレはあまり良い顔をしなかった。


「その方法は考えましたが、襲撃されるリスクの方が高いと思えて、止めたのです」

「暗殺者ややってくると? 逆に城の中では、その心配をしなくていいと?」

「城の守りは鉄壁です。それに我が家に仕えている者たちは、我が家の者を害することはありません」

「だが毒味役は――いや、これは俺様の考え違いか」


 シンザーレが言った『我が家に仕えている者』とは、家臣全体を指し示しているのではないと、ブリルーノは察した。


(話の流れから考えるに、仕えている者とはルーグネック辺境伯家が抱えている暗殺者のことだろう)


 そのお抱えの暗殺者――暗部が、城の外からやってくる他の暗殺者たちを排除している。だから城の中では、直接的な暗殺に怯えなくていい。

 しかし外に住居を持てば、その暗部の守りはなくなってしまう。

 だからシンザーレとミルキブルーナは、誰かからの毒殺に怯え続けながらも、城の中に留まることを選んだわけだ。


「だいたいの事情は理解した。そういうことなら、俺様は俺様の仕事をしよう」


 ブリルーノが魔法を使おうとすると、医者が制止を呼びかけた。


「何をするおつもりですか! 妊婦に魔法をかけるのは禁忌で!」

「安心しろ、魔法の効果対象は俺様自身だ。ミルキブルーナにかけるわけじゃない」

「ですが、なんの影響がでるか分かったものでは!」

「他の妊婦で試し済みの方法で、安全は確立されている。黙ってろ」


 ブリルーノは威圧して医者を黙らせると、魔力視の魔法を自分の目に使用した。

 この魔力視でもって、妊婦とその腹の中にいる胎児の魔力の流れを見る。

 人の体内にある魔力は、健康な状態であるなら整った川のように体内を滑らかに流れている。逆に問題があるのならば、流れが乱れ、問題がある場所に集中する。

 だから魔力視で患者の体内の魔力を診断するのは、医者のように病名を当てることはできないものの、問題のあるなしだけなら一目で分かる優れた方法といえた。

 そして魔力視で診た結果はというと、ブリルーノが思わず眉を寄せてしまうものだった。


「なあ。ここに毒味役の人間はいるか?」

「毒身役ですか? それならば、あちらに」


 シンザーレが示したのは、身の回りの世話をする侍女の一人。

 ブリルーノは魔力視でその侍女を見て、思わず舌打ちした。


「こっちも同じ感じで、体内の魔力が乱れているな。他の者に乱れがないのを見るに、遅効性の毒が使われたようだな」


 ブリルーノが診断結果を伝えると、部屋の中にいる一同の顔色が青くなった。

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― 新着の感想 ―
即効性の毒も盛るし遅効性の毒も盛るかー 誰が黒幕か知らんけど殺意の高いことで
この毒殺を防ぐのは現実難しい事と思う。 歴史上、毒殺されたらしいとされる人物の何人かは素人考えめは食中毒ではと思う。 現代でも毎年食中毒が報道されますから、冷蔵庫もない時代は危ない食事もあったのでは。…
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